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9月6日(火)放送後記

7時30分過ぎからは素朴な疑問、気になる現場にせまるコーナー「現場にアタック」

大型で強い台風11号が来たばかりですが、日本では、毎年のように大雨による水害が発生するようになってしまいました。そうした中、自治体による治水だけではなく、建築の分野で「水害に強い住宅」の開発、販売が広がっているというので取材しました。

水害対策に特化した 「ぼ・く・ラボ賃貸 niimo(ニーモ)」

まずは、貸住宅用物件として、2022年3月から、水害にも強い物件を売り出した大東建託に伺いました。どんな対策が施されているのか?商品開発部の峠坂滋彦さんです。

大東建託 商品開発部 峠坂滋彦さん
「地盤面から1・5メーター程度の水害、そこまでを想定してます。1階が鉄筋コンクリート造、2階3階が木造なんですね。で、1階にはですね、鉄筋コンクリートの打ちっ放しで、駐車場と、趣味の部屋として使われる想定してます。2階3階は2LDKの住宅と。なんで1階を鉄筋コンクリートにしてるかというと、床上浸水したとしてもですね、洗浄とあと消毒をするだけで、またすぐ生活に復旧できると。2階3階で生活が全て賄えるので、そこに住みながら、復旧ができるというコンセプトです。特にこれ災害に遭うと不安を感じますよね。不安な中、また住むところも変わるって、もう二重の不安になって。だからもうそういうことは経験して欲しくないと、そういう思いでこの商品を作ったと。」

▼大東建託 商品開発部 峠坂滋彦さん

進化する「建築」での水害対策の画像はこちら >>

よく1階が駐車場の住宅がありますが、木造では水害に弱いし、3階全部鉄筋だとコストが高くなってしまいます。

ましてやこちらのように「賃貸住宅用物件」となると大きいので、鉄筋だと金額が一気に上がります。

そこで大東建託では、1階を鉄筋コンクリートで、駐車場や趣味に使う「非居住スペース」にして、2、3階を木造住宅にするという賃貸住宅用物件を売り出しました。

(2階建てを1階嵩上げのイメージ)

洪水では、木造は、床下でも一度浸水すれば、汚い水や汚物に浸かってしまうので、床をはがして掃除、乾燥しなければならないし、その間は、家に住めなくなってしまいます。

それに対してこちらは、2、3階に住んだまま、コンクリートの1階を、ザーッと洗い流せば復旧できます。

また、3階全部鉄筋コンクリートにするより、3~4割安いので、賃貸物件としての事業性も高く注目されていて、オーナーさんも、賃貸で住む人も安心して暮らせそうです。

水に浮く家

一方、一般住宅では、今までになかったような手法の水害対策が登場していました。一条工務店グループの広報担当、津川武治さんに伺いました。

一条工務店グループ 広報担当 津川武治さん
「そうですね、この耐水害住宅は、5メートルまでの水害にですね、耐えられる仕様になっておりまして、そのポイントとなっているのが、この「家を浮かせる」ということを実現させたことによって、それが可能となっております。「水の侵入を食い止めて」っていうところまでは、実は2019年に開発が終わっていたんですけれども、やはり1メートルを超えてくるような洪水であった場合に、やはり家に対して非常に大きな浮力がかかって、それで浮力がかかった場合に家その物が流されてしまうっていうリスクが出てくると。そのためにどう対策するかっていうところで、そういうふうに浮力がかかった場合は、安全に浮かせて安全に着地させるという発想の方が現実的なんではないかということでですね、そこの開発に踏み切ったというところです。」

▼一条工務店グループ 広報担当 津川武治さん

進化する「建築」での水害対策

洪水に対して、浸水してしまうのではなく、ぷかぷか浮いてしまおうという発想です。

元々、一条工務店では、水が入り込まない水害対策の住宅を作っていて、窓やドアの隙間の強化は勿論、床下の換気口から水が入り込みそうになると自動で蓋がされたり、排水口から下水が逆流して溢れそうになると、やはり自動的に蓋がされたりする優秀な住宅です。

▼一条工務店の耐水害住宅(同社ホームページより)

進化する「建築」での水害対策

ただ、家自体が完全に防水になると、巨大な風船のようになって、水が1・3メートルを超えたあたりから、家が浮き上がってしまうという問題があったそうです。

そこで悩んだ末に開発したのが、この「浮く家」。

ポイントは、敷地の四隅にポールを立てて、サスペンション入りのワイヤーで家を引っ張ったことで、これによって、洪水に流されることなく、水が引いたら、元の位置に着地する仕組みができたそうです。

通常の戸建てより70万円程度の追加でできるそうで、販売開始2年で、すでに1700戸の注文が入っているということです。

▼約3,000トンもの水を使って豪雨・洪水被害を再現した実験で、耐水害性能が証明されました(同社ホームページより)

進化する「建築」での水害対策

水流を受け流す

水に浮くという一見、奇抜な発想ですが、なぜこんなことを思いついたのか?津川さんに聞いた。

一条工務店グループ 広報担当 津川武治さん
「そうですね、もうやはり家が浮くというのはですね、我々社員からすれば、その浮かせるという発想というものは、聞かされたときも、よく意味がわからなかったといいますか。ただ、地震で言いますと「免震住宅」という住宅がございまして、免震住宅もですね、いわゆるその地震の揺れに踏ん張るというんではなくて、柳に風で、言ったらその力に抵抗するのではなくて、地震の力をうまく逃がしながらですね、最後元の位置に戻るというような住宅ですね。あのそういった免震住宅の技術は我々自身も持っていたというところもありまして、逆らわずに受け流して、それで最後元の位置に戻ればいいじゃないかというところは、その免震住宅というところも発想の中にはあったかなというふうに思います。」

一般には奇抜でも、技術者からすると、地震の揺れを受けながすのと同じ発想ということでした。

身近にできる対策は

ここまで新築での対策でしたが、では、すでに建っている物件の対策はあるのかどうか、国立研究開発法人「建築研究所」の木内望さんに伺ったところ、「既存物件では難しい」と仰っていました。

ただ、新築時に、ある程度の浸水に対応できるように、基礎を数十センチ嵩上げしたり、床下に排水しやすい仕組みを作ったり、コンセントの差し込み口を1メートルの高さにするなど、簡易的な対策なら、50万円以下でできるということです。

木内さんは自治体に対しても、「この地域に家を建てるなら床下はこれくらいの高さが必要」など、水害対策の周知をすることも必要ではと提案されていましたが、耐震基準というのがあるように、耐水基準も必要かもしれません。

▼国立研究開発法人「建築研究所」 木内望さん

進化する「建築」での水害対策
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