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10月23日(日)放送後記

山本益博さん(Part 2)

1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第二文学部を卒業後、レストランで食事をすることを目的に世界中を旅して料理評論家として活動するかたわら、料理人とのコラボ企画も数多く手がけています。

長年にわたるフランス料理の広報活動を評価され、フランス政府より2001年農事功労章シュヴァリエを、2014年には農事功労章オフィシエを受賞しています。

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JK:山本さん、浅草育ちでしょう?

山本:下町ですから、落語とか漫才とかは素地としてありました。日曜日になると浅草にある洋食屋さんやお寿司屋さんに家族で行ったんですが、老舗の美家古寿司の親方に食べっぷりを気に入られましてね。かんぴょうとか海苔巻きがあるじゃないですか。僕は海苔がしけっちゃうのが嫌いで、巻いてる途中から早く前に食べたいと思って。親方が巻いたのを出した時に、手がぶつかる人っていないですよね(笑)

JK:ははは(笑)

山本:それを親方に気に入ってもらって、「この子は美味しいタイミングを知ってるな」って。「山ちゃん今度1人でおいでよ」って言うから、お寿司をたらふく食べさせてくれるのかなと思ったら、雷門の近くにある並木藪蕎麦へ連れていかれて(^^)ざるを頼んだら、ざるの網目が見えれるぐらいしか乗っかってない。おちょこと徳利があって、刻み立てのネギとおろしたてのワザビがあるから、いつもように全部おつゆに入れたら「おいおい、山ちゃん何するんだよ。全部戻しな」って。

JK:江戸っ子だわね。

山本「真ん中からお蕎麦を4~5本たぐればきれいに取れるように盛ってある。それをおちょこに落とさないで、少しだけつゆにつけてツルッ!」 そばきれが残ってると、それも「全部きれいに食べな」って。

「他の蕎麦屋に行ってごらん、他の輩は蕎麦を持ち上げるだけ持ち上げて、漬け込むだけ漬け込んで、ずるずるっとやる。作ってる人の気持ちを何も考えない食べ方だ」って。作る人の気持ちを考えながら食べなきゃいけないんだ、って19の時に初めて知りました。「美味しいものを食べるんじゃない、ものを美味しく食べろ」と教わりました。

JK:なるほど。

山本:だから、僕の師匠は料理人の方。作る人はみんな修業したお師匠さんがいるけれど、食べる人には先生がいないんです。僕のお師匠さんも3~4人いますが、最初のお師匠さんがお寿司屋さんの親方。ロブションさんもそうだし、次郎さんもそう。お行儀も含めて、いろんな方に教わりました。

JK:食べる方も三ツ星ね。マナーっていうか。

山本:マナーっていうと堅苦しく思うんだけど、より美味しく食べられることを考える。だからみんなからはお行儀悪いって言われそうですけど、フランス料理でもお皿の上に美味しそうなソースが残ってると、ワインをちょこっとたらして、平たいスプーンできれいに食べる。そうするとシェフはとても喜んでくれる。

JK:パンでぬぐって、っていうのはお行儀悪いんですか?

山本:パンのほうがお行儀悪いらしいです(^^)フランス人はビストロなんかではやってますけど(笑)お肉なんかもみんな赤身で固いじゃないですか。噛んでこそ美味しいっていう。だからナイフの刃で細かく切りながら食べるよ、フランス人は。でも日本人は大きいの食べても平気じゃないですか。

JK:日本のお肉は柔らかいものね。

山本:そういうのでもマナーはずいぶん違うんだなと思います。だから向こうでメニューを見て、美味しいものを食べるだけじゃなくて、みんながどういう風に食べているか、どこの席が上等席か、そういう風に観察する。

JK:イタリア料理にもマナーがありますよね、お蕎麦と同じように。

山本:みなさんパスタもスプーンでくるくるまとめるけど、そもそもちゃんとしたお店ではスプーンはほとんどでてこない。

もともとパスタはスープの位置に出てきて、スープの中に麺が入ってたからスプーンがついてたんですね。今はそういうのほとんどないですから。

出水:山本さんとお食事に行くと、こちらも美味しく食べられそうですね!

美味しいものを食べるのではなく、ものを美味しく食べること~山本益博さん

JK: 今までにマサカも相当いろいろあるでしょうけど、一番のマサカは?

山本:ずーっと前のことなんですが、1984年だと思いますが、当時はアンカレッジ経由でフランスに足しげく通ってました。アンカレッジで一息ついて・・・

JK:そう、そこでおうどん食べたりしてね。

山本:一緒だ(笑)その時トランジットの時間に、ロブションさんじゃないかな?!っていう人がいたの。

JK:会ったんですか、アンカレッジで?!

山本:まだ三ツ星になってない、でも特徴的な耳と鼻で、目がぎょろっとしてて。僕はつかつかっと前に出かかって、「ロブションさんですか?」って。そしたら向こうもびっくりして、「あなたは料理人?」「いいえ、旅行者です。来週あなたのお店に予約してあります」「じゃあ名刺を1枚いただけますか。私はこれから日本に行って、ホテルオークラでフェアをやるんです」って。3分もなかった。「それから翌週ロブションさんのお店に行ったら、東京のロブションから電話がかかってきて「山本さんのテーブルにシャンパンをお出しするように」って。

JK:あらあら! やりましたね!

山本:これがきっかけで、フランスのシェフにいろいろ紹介してくれたり、一緒に食べに行ったりして勉強しました。

JK:私もNYのグランドホテルのカウンターで、たまたまロブションさんをお見かけしたんです。ちょうど私、美味しい梅酒を持ってたので1本差し上げたんです。それからだいぶ経ってから「美味しかったね」って言われて。ちゃんと飲んでた! やっぱりもらうだけじゃなくて、ちゃんと試すのね。

山本:それから半年ぐらい経ってまたパリに行った時は、厨房に呼ばれて見せていただいて。アンカレッジ経由だからこそあったマサカですね。このマサカが僕にとって1番。

JK:私たちファッション界でも、ちょうどエールフランスとJALが同じぐらいの時間帯に着くから、一種の社交場みたいだった。

山本:帰るときはうどんが食べたくなって、必ず食べてましたね。ずいぶん前の話ですが(笑)

出水:日本の食文化振興のためにさまざまな活動もしていらっしゃいます。広島県では人材育成のための料理コンクールを開催していますね。

山本:はい、僕は料理人に育てていただいたから、自分が歳を取ったら、今度は料理人を育てて恩返ししないと思って、広島でフランス料理と和食のコンクールをやってます。

出水:今まで召し上がった中で、目からウロコのお料理は?

山本:まだないです。そんな20~30代で天才を発揮できる人はなかなか出ない。そこで選ばれてフランスに行って、向こうで刺激を受けて花開く。そういう方が2人出てきてて、ぐるなびのコンクールで1位を取った人は、広島のコンクールで優勝した人なんです。

JK:嬉しいですね! みるみる成長して。

出水:さらに『東九州バスク化構想』も手がけていらっしゃいます。

山本:延岡っていう街を食で発信するために、バスクのサンセバスチャンかなにかをモデルにしようと、皆さんと一緒に研修に行ったりしています。

美味しいものを食べるのではなく、ものを美味しく食べること~山本益博さん
美味しいものを食べるのではなく、ものを美味しく食べること~山本益博さん

出水:またYouTubeで食に関する情報も配信しています。

山本:若い人に作っていただかないとできないんですが、『MASUHIROのうまいのなんの!』といって、ただお店を紹介するんじゃつまらないので、ラーメンは何が大事か、天ぷらはどこが大事か、作っている人にお話を伺いながら皆さんに見ていただいてます。 この歳になって自分がYouTubeをやるとは思わなかった(笑)

出水:それからdans l’ecole Masuhiroも開設していますね。

山本:いわば益博塾ですね。

美味しいものを食べるんじゃなくて、ものを美味しく食べる人を増やしたいなって。料理人の若い人も引っ張り上げる、食べる方ももっと頑張る。今は無名でも才能のある人を発掘しようかなって。昨日も東大前のBistro Jongjiっていう小さな韓国料理屋さんがあって、若い女性が1人で頑張っている。そういうところを告知して応援したいなって。

JK:よく見つかりますね、そういう小さいお店って。

山本:アンテナを張っているといろいろ来るんですよ(^^)

出水:dans l’ecole Masuhiroでは食「時」会というのを開いているそうですね。

山本:時間を楽しみましょう、ってね。ソムリエ協会の会長の田崎さんも、同じように食「時」会っていう字を使っていらっしゃる。時を楽しむ。

出水:今までで忘れられない一皿ってありますか?

山本:とんかつかな? 小さいころ食べた。昔国際劇場があって、その隣に川金っていうとんかつ屋さんがあって、ラードで揚げた香ばしいとんかつ。そこで食べたとんかつがずーっと好きで食べてますから。いまだに昭和のとんかつ小僧です(^^)

JK:じゃあ、とんかつの日本一はどこ?

山本:僕の住んでる西荻窪の隣、荻窪に昔食べたとんかつに近い「たつみ亭」っていうお店があります。そこで食べると、子どもの頃に食べた記憶に戻れる。

JK:荻窪ってラーメンがいっぱい並んでるところあるじゃないですか、いっぱい人が並んで。

山本:僕も3時間並んだことがある。今ラーメンが一番面白い! ラーメンに革命が起こってる。ミシュランがきっかけだと思うんですけど、ラーメンってカレーと同じでB級グルメってずっと言われてましたけど、2015年にミシュランに載ったとたん、B級グルメって言われなくなって、次の年には星を1つ取りました!

JK:ラーメン屋さんで星を取るってすごいですね!

山本:一緒に載っているフランス料理や日本料理と同じ土俵にいると認めてもらえた。今誰もラーメンのことをB級グルメとは言わなくなった。値段も1000円以上ですし。いろんな才能、いろんなジャンルの人がラーメン界に入ってきている。フランス料理の人、日本料理の人・・・とても面白いです。料理のジャンルでいうと、ラーメンが一番面白いかな。

JK:なにしろ並ぶのよ!

山本:そう。僕がズルするとまずいでしょ? 「益博さんも並んでるよ」って言われないといけないから、僕も並びます(^^)こないだ北陸の氷見まで行って、ラーメン食べるのに2時間並んだ。でもそれだけの甲斐はあった。それだけみんな精魂込めて、命がけで作ってるラーメンってあるんだなあって。

出水:お腹の虫がなりそうです(笑)

OA曲
M.My Sweet Lord / George Harrison

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