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10月28日(金)放送後記
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。
宇多丸:宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では10月7日から劇場公開されているこの作品、『バッドガイズ』。
このサントラの感じからして、もう『オーシャンズ』っぽい感じ、しますもんね。オーストラリア出身の作家アーロン・ブレイビーの児童文学を、ドリームワークス・アニメーションが映画化。腕利き揃いの怪盗集団「バッドガイズ」を率いるウルフは、伝説のお宝を盗む計画を進める中、善人になるか、怪盗を続けるかの選択で悩み始める。声の出演は、サム・ロックウェル、オークワフィナなど。日本語吹き替え版は、尾上松也さん、安田顕さんなどがご出演ということでございます。監督は、本作が長編デビューとなるピエール・ペリフェルさん。脚本は、『26世紀青年(Idiocracy)』『メン・イン・ブラック3』などのイータン・コーエンさん、ということでございます。
ということで、この『バッドガイズ』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「ちょっと少なめ」。
賛否の比率は、褒めが8割。主な褒める意見は、「ケイパーアクション物(チーム強奪物)として見どころが詰まった快作」「主人公たちが単に善に目覚めて心を入れ替えるのではなく、それまでの自分たちと矛盾しないまま成長していくところが素晴らしい」「2D要素を取り入れたCG表現が楽しい」などがございました。一方、否定的な意見は、「善と悪とが単純化されすぎている。このテーマの掘り下げがもっと見たかった」「食い足りない。動物キャラで似たテーマを扱った『ズートピア』には及んでいない」などがございました。『ズートピア』を連想される方、多かったみたいですね。
「悪党でも善行をして褒められればうれしいし、それは必ずしも悪行をしてきた自分たちと矛盾しない」
ということで、代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「ゐーくら」さん。「『バッドガイズ』、最高でした! 『パルプ・フィクション』風のダイナーでの長回しから始まり、そこから始まるカーチェイスと共にものすごいスピード感で100分間を文字通り駆け抜けます。物語の展開自体はケイパーものとして王道で、軽妙な音楽は『オーシャンズ』シリーズを、キャラクター造形は『ルパン三世』をそれぞれ思わせるものです。
しかし、この物語が非凡なのはバッドガイズ及びダイアン、マーマレード教授が擬人化された動物として描かれている一方、それ以外は人間か、会話できない普通のネコやモルモットとしてのみ存在する点です。
「……しかし本作では、悪党でも善行をして褒められればうれしいし、それは必ずしも悪行をしてきた自分たちと矛盾しない、つまり『多面性の肯定』をはっきりと描いています。オープニングと終盤の彼らの服装が全く同じなのもそれを象徴しています。エピローグで彼らが何をしに走り去り、どう生きていくのか、それが大事なのだと思いました」というゐーくらさん。
とかね、皆さん、すごいしっかりした読み解きの人が多くて。「ちきあぎ」さんとかね、めちゃくちゃ熱くて長い評論というかね。ちゃんとしたものを書いていただいて。長すぎて読めません(笑)。要約も難しいので。とりあえず、拝読しましたということだけは伝えておきます。
「『バッドガイズ』、前評判が良かった為、ハードルが上がってしまっていたのか、いまひとつ食い足りない印象でした。キャラの立ち方やシーン毎のアクションなど、めっちゃ楽しめる部分も多かったです。
ただしタイトルの通り「善悪・イイこと/ワルイこと」についてのテーマが、観念的なセリフで多く時間を割いていたので、そこでお話しが停滞していたように思いました。冒頭から、ウルフはじめバッドガイズ面々の、バッドならではの魅力が描かれていた故、グッドがいいのかバッドのままでいいのか、難しい着地になりそうだなと観ながら思っていましたが、結局そこには踏み込みきれなかったのではないでしょうか。それならもっとバッドガイズのチームの強奪パターンなどのアクションシーンを見たかったです。(特に冒頭のカーチェイスシーンには期待値がぐんぐん上がったので…)」「もっともっと楽しませてくれよ!と思ってしまいました。」という。
でもある意味、さっきのメールと同じく、その「バッドガイズの本質は変わらずに終わっていく」という、そこの部分なのかもしれないですね、このご指摘はね。同じ部分を指されている気もしますね。はい。ということで皆さん、ありがとうございました。
原作はオーストラリアの児童書。ギャグや見せ場は原作準拠、しかし小さくない世界観の変更も。
ということで、ちょっとね、まず劇場の話になるんだけども。当然のようにお子さん連れ、それもわりと小さめのお子さん連れがほとんど、というような感じだったんですが。ちょっとひとつだけ、記録として、僕が観た回がですね……後半、主人公たちが敵の運転するバンに、次々と黄色い装置を取り付けていく、というカーチェイスシーンがあるんですね。その途中でですね、少なくとも僕が観た回では、突然、数秒間音が消えて。で、「そういう音の演出なのかな?」って一瞬思ったんですけど、またブツッと、非常に不自然な感じで音が戻ってきた。
で、もちろん後ほど、輸入Blu-rayで同じシーンを比べても、普通に音とか曲とかは流れ続けていたので。まあまあ、上映事故の一種だったのかな、という感じで。一応、終わった後に、TOHOシネマズ六本木の劇場の方にお伝えはしたんですが。まあ、あの回だけがそうだったならまだいいですけど……ちょっとどうなんだろうな? ちょっと、わりと初めての事態でした、僕もね。
ともあれ、ドリームワークス・アニメーション最新作『バッドガイズ』、ということでね。ドリームワークス作品のひとつ、大きな特徴として……『ヒックとドラゴン』三部作だけはちょっと例外的に格調があるシリーズですけども、それ以外はわりと、実写映画を含む既存のエンターテイメントジャンルの、それこそ王道ディズニーアニメまでを含む、オマージュや批評的パロディ、もしくは万人向けポップ化、みたいな方向性というのが明らかにありまして。『シュレック』しかり、『カンフー・パンダ』しかり。その意味で今回の『バッドガイズ』は、先ほどから皆さんも書かれてる通り、ケイパー物、チーム強奪物を主とするクライムアクションジャンルを、万人向けにポップ化した一作、とまずは言えると思います。
原作はですね、アーロン・ブレイビーさんという方による、オーストラリアの児童書ですね。日本語訳も出てるし、世界累計で100万部超え、ということですけど、パンフのプロダクションノートによれば、アメリカではそれほど知られてなかったっぽい。
絵本と、グラフィックノベル、漫画の、中間ぐらいのバランスですかね。やんわりと続いていくストーリーとか、一応アクションシーンとかもあるんだけど、あくまで絵本的な、言ってみれば平面的な表現がずっと続いていたりとか。後ほど詳しく言いますが、実はですね、なかなか小さくない世界観や視点などの違いなどもあったりして。つまり今回の映画版が、かなりアレンジした作りになってるわけですけど。同時にですね、細かいギャグとか言い回しとか、あと見せ場とかは、意外と原作由来のものも多くて。
とにかくいろんなギャグとか見せ場は、結構、元の原作にあるものも多くて。何より、「世間的イメージ、第一印象で存在を決めつけられること」に対する疑問・抵抗という、根本のメッセージがしっかり受け継がれてもいる、ということで。そんな原作の、特に最初の4巻分の要素をうまくまとめて、一本の劇場用長編映画に仕立て上げたという、まずはこの脚本がですね、とても職人的にいい仕事をしている、と言えるんじゃないかと。原作と読み比べると特に、うまくまとめてるな、っていう感じがすごくします。
ということでぜひ、今回は皆さん、この脚本を手がけた、製作総指揮にもクレジットされております、イータン・コーエンさんという人を、覚えて帰っていただきたいと思います。今回の『バッドガイズ』と直結する、過去のファミリー向け3DCGアニメーション仕事としては、同じくドリームワークスの、『マダガスカル2』という2008年の作品がありますけども、イータン・コーエンさん。ただね、イータンさんは、本来は、非常に毒っ気の効いた……時にはちょっと効きすぎているかもしれない(笑)、もう効きすぎていて笑えない、みたいな大人向けコメディを、ずっと作ってきた人で。
脚本を手がけたイータン・コエン。手がけた作品は『イデオクラシー』『トロピック・サンダー』そして……!?
なにしろ脚本デビューがですね、あの『ビーバス・アンド・バットヘッド』ですよ。それから『キング・オブ・ザ・ヒル』と来て。で、同じくマイク・ジャッジ監督の実写作品、あの『Idiocracy』……邦題『26世紀青年』ってこれ、いい加減にもう勘弁してくれませんか?(笑) 『Idiocracy』、2006年の大傑作、とかですね。その後も、『トロピック・サンダー』であるとかですね、『メン・イン・ブラック3』ですよ! 『メン・イン・ブラック』は皆さん、3です!(笑) 3、最高です! タイトルを並べるだけで思わず顔がほころんでしまう、傑作群を手がけてきた方という。そう言えば皆さんも、「ああ、なるほど!」ということで、ちょっと襟を正す方も多いんじゃないでしょうか。
まあここのところはですね、『ゲットハード/Get Hard』っていう2015年の作品とか、『俺たちホームズ&ワトソン』という2018年の作品などなどですね、ウィル・フェレル主演の監督作も続いてたんです。まあ、ちょっとそっちは評価的には微妙な感じもあったりするんですが……ともあれそんな、本来は毒っ気ありすぎの大人向けコメディがメインの、イータン・コーエンさんなんですけども。
振り返ってみればわりとですね、共通して、「なかなか素直になれない、ツンデレなバディ物」を描くのが得意な人、っていう。結構どれもそういう話だな、みたいなところがありまして。その意味ではたしかに今回の『バッドガイズ』も、もちろんチーム物なんだけど、ストーリー的な根幹にあるのは、特にウルフとスネーク、狼と蛇の、バディ的絆の再確認、というところがストーリーのキモだということですね。なので、さっき言ったその『マダガスカル2』の実績も含めまして……ちなみに『マダガスカル2』も、主人公のそのライオンのアレックスっていうのと、シマウマのマーティとの、なんというかツンデレ的なバディ感がやっぱり、キモですよね。一旦仲違いしかけて、また戻る……絆の確認!みたいな。それがキモだった。似てますよね、今回のとね。やはりイータン・コーエンさんらしい仕事をしている、という風に言えるのかもしれません。
一方、監督のピエール・ペリフェルフィルさんという方は、ドリームワークスの本当に、叩き上げのアニメーターですね。で、監督デビューとなる短編の『ビルビー』というこの2018年の5分ぐらいの短編なんですけど、これね、日本でのみ、『ボス・ベイビー』の併映として、前座というかな、大橋先に劇場で上映されたんです。なので観たことある人、日本では多いと思います、『ビルビー』。あれも、ウサギとふわふわの小鳥の一種のバディ物、というのがありましたね。はい。
アニメーションとしては異例の演出となるオープニング
ということで『バッドガイズ』。まず開幕早々、アニメーションとしてはなかなか異例の演出が、しばらく続くので。ここでまず「おっ、これはちょっと一癖あるぞ?」と、姿勢を正す方も多いんじゃないかと思います。これはもう皆さん、メールにも書いている方がいっぱいいました、モロに『パルプ・フィクション』オープニングオマージュな、ダイナーのテーブルに向かい合って座っている二人のキャラクターの比較的どうでもいい会話を、固定カメラの長回しで……言っちゃえばノペーッと、ダラダラダラッと見せるくだりが、しばらく続く。
でですね、基本このアニメーションというのは、当然動かしてナンボ、ですし。基本、意図されてない情報とか、意図されてない画っていうのは、ないはずなんですね、アニメーションっていうのは。だって必ず、描いているわけですから。そのアニメーション作品においてですね、このような、表面的にではあれ……本当は意図的なんだけど、表面的にではあれ「無作為に見える」ショットっていうのが、しかもカットも割らずにまあまあの長さで続くこと自体が、異例というか。皆さんが観ていてもたぶん、アニメではなかなか見ないものなので、すごい変な感じがしてくると思うんですよね。
これ、6月17日に扱った『FLEE フリー』の一部のショットとも通じる実験性……あの「実写映画ではよくあるけど、アニメでやるとすげえ変!」っていう(ショットや編集をあえてアニメーションでやってみせる試み)。ただですね、『FLEE フリー』はもちろん、インディペンデントのああいう(小さな規模の)作品だけど、こっちはファミリー向けブロックバスター大作ですから。そこでこんなことをやるなんて、なかなか大胆ですよね。
擬人化された動物&ガチ動物&人間が混在する世界観。その線引きはどこにある?
で、そのままカットが続いてですね、向かいにある銀行の強盗に入っていく、というくだりまでを、ひと連なりで見せていくわけですけど。ここでひとつ、原作と大きく違うこの映画版における世界観、ルールが示されます。原作はですね、主人公チーム以外の脇役たち、たとえば警備員とか、テレビのニュースキャスターとか、刑事とかでもいいですけど、みんなやっぱり、動物なんですね。つまり、『ズートピア』的な……先ほどから皆さん、例に上げています。『ズートピア』、私は2016年5月7日に評しました。書き起こしも残ってます。あるいは『オッドタクシー』的な、と言いましょうか。全面的に擬人化された世界・舞台なんですね。ただ、それにしてはですね、その中でも、人間的知性を持たない、ガチ動物もやっぱり出てきたりするんで(笑)。ちょっとなんか、「ええっ?」みたいな感じはあるんだけど。とにかくですね、基本、完全に擬人化された動物の国。まあまあ、シンプルですよね。
それに対してこの映画版は、先ほど言った『パルプ・フィクション』的なダイナーのシーン、ずっと、さっき言ったように固定ショットで撮っていて。で、二人が店を出ようと立ち上がって、それでカメラが動くと、実はこのウルフとスネークの二人以外は全員、人間で。のみならず、その二人を見て、驚いて、怖がってるわけですよ。
で、ややこしいのはこれ、「主人公チーム以外は人間」っていうルールかと思うと、そうでもなくて。さっきから言っていますけど、主要キャラクターの一部までが、擬人化された動物で。あとは原作と同じく、非人間的な、要するに知性があんまりないガチ動物も出てくる、という感じで。で、ここだけ取り出すと、「この世界観、ルールはなに?」みたいにちょっとなる、という人もいると思うんですね。僕も最初は「これ、何なの?」みたいになって。で、もちろん、「そこまでこれ、厳密にルール化したような作品じゃないですよ」って……つまり、「そんなに真面目になる作品じゃないですよ。リアリティーライン、下げてください。動物と人間の両方がいてしゃべっていて……なんか知らないけど、そんな感じなんです!」っていう。それもあると思います。「そんなにそこを真面目に云々する映画じゃないですよ」という宣言を最初にしている、とも言えるし。
同時に、先ほどのメールでおっしゃってたことと通じますが、この作品なりの線引きというのも、実はしっかりあると私も思います。要は、さっき言った原作もこの映画版も共通している、『バッドガイズ』という作品の根幹をなす部分。つまり、ある種の存在は、世間的イメージ、第一印象で中身も決めつけられてしまう、定義されてしまいがち、という……そういう部分を担っているキャラクターたちが、この作品では擬人化された動物となっている。そういうルールが一応、はっきりあると思います。
あの主人公チームのみならず……これはちょっとネタバレになるので詳しくこれがこうだとは言いませんが、動物化されているキャラクターには全員、それがあるわけです。「世間的にはこう見られがち。だが、そうとは限らないじゃん?」っていう、そういうものを持ってるわけです。
で、『ズートピア』的にこれ、全てを動物にしてしまうと──『ズートピア』は、肉食・草食という違いで色分けがされていて。だから『ズートピア』は『ズートピア』で結構、偏った動物配置の仕方をしてるんですね。要するに、サルとかが出てこない、とかね。まあ、あれは肉食・草食で色分けをしてるんだけど──本作のようにですね、たとえば主人公チーム側に、ピラニアとか蜘蛛という、体そのものは小さい生き物まで混ざってるので、原作みたいにたとえばね、警備員がゴリラだったとして、ゴリラと蜘蛛や蛇、どっちが怖い?って……ちょっとなんか、ややこしくなりません? 全部をフラットに動物にしちゃうと、そこの主人公たちの「怖がられ」が、めちゃくちゃわかりづらいんですよ。なんか。
で、絵本はですね、さっき言ったように非常に単純化された世界で。あんまり背景の世界みたいのを詳しく描き込んでない絵本なので、まだいいんですけど。これみたいにその世界観まで、ちゃんと後ろまで描いちゃうと、「なんでこの人たちだけがいきなり怖がられてるの? ゴリラだって怖いじゃん?」っていうことになりかねないんで。ということで、現状のように、単純に「人間から見たイメージ、人間から見た印象」というところに絞ったのは、物語、世界観構築の効率上、理にかなっている、という風に言えると思うんですよね。
ちなみに原作ではですね、ウルフは最初から善人になりたがっている、という立場なので、180度違うようにも一見、見えますが。やはり、色眼鏡で最初から見られることへの疑問であり、抵抗、というその本質は全く変わっていない、ぶれていない、という風に言えると思います。
ドリームワークス作品らしいオマージュやパロディもてんこ盛り
とにかく『パルプ・フィクション』風に始まり、そこから始まるカーチェイス……監督も影響を公言しています『ルパン三世』、特にやはりたぶん、『カリオストロの城』ですね。あの、車から札束がブワーッと出ていったりするのはもう、『カリオストロ』ですよね。『カリオストロ』感はもちろん強いし。
そもそも本作の、これも絵本と全然絵柄というかデザインが違いますけど、本作の主人公ウルフのシルエットとか、特にピョーンと飛んだ時の足の長い、足首から先はデカい、っていうようなあのシルエットからして、まあとっても『ルパン三世』っぽいというね。あと他のキャラクターは、それこそ宮崎駿版の『名探偵ホームズ』風に見える瞬間もあれば、やっぱり鳥山明さん……特にピラニアはね、すごい鳥山明っぽかったりしますよね。はい。
あとですね、その『パルプ・フィクション』風に始まって……カーチェイスが始まり、大量のパトカーがですね、次々と、まるでおもちゃのようにクラッシュしまくっていく様はこれ、完全に『ブルース・ブラザーズ』ですね。もう『ブルース・ブラザーズ』のクライマックスです。『ブルースブラザース』オマージュと言えば、もういっこ皆さん、見逃さないでいただきたい。というか、聴き逃さないでいただきたい。ものすごい人数の警官に取り囲まれる時のですね、その警官たちの、あの奇妙な掛け声。「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ!」って……『ブルース・ブラザーズ』ですね! わかってるね! 『ブルースブラザース』で笑うところ、それね! みたいな。「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ!」って(笑)。
あとですね、当然その『ミッション:インポッシブル』的な侵入作戦みたいなのもあって。ただ、もちろんサメの変装が「あの感じ」で通用してる時点で(笑)、さっきから言ってますけど、リアリティーのラインはめちゃくちゃ低いっていうか、まあシリアスな話じゃないよ、っていうのはもちろん、宣言されてるわけですね。むしろその、「これで通っちゃうのかよ?」っていうお間抜けさを楽しむ、やっぱりそのドリームワークス的な、パロディ的な重み、比重が高い笑いなのは間違いないと思いますけど。
で、いろいろ諸々のオチは、やっぱりきっちり、『オーシャンズ』シリーズ流儀でしたね。「実は……」っていうやつですよね。『オーシャンズ』流儀だったりして。で、この展開そのものは、良く言えば間違いなく楽しめる……悪く言えば、やってることそのものにそこまで新鮮味はない、という言い方はできてしまうんですけども。クライマックス、あの悪役側が仕掛けるテロリズムはですね、あれは『バットマン リターンズ』のクライマックスのアレを、さらに大量かつ大規模にしたら、結果『ワールド・ウォーZ』になってしまった!っていう(笑)あの絵面とか、面白かったですけどね。まあ、面白いですけど。
本作の面白さは、話の展開よりは3DCGと2Dがハイブリッドされたアニメーション表現にある
ただ、これはですね、今回のその『バッドガイズ』に関しては、その展開そのもののフレッシュさというよりは、その中の、ひとつひとつのアニメーションとしての表現こそが、実は面白い作品でもありまして。これ、もちろん皆さん、書いていただいてました。端的に言えば、3DCG的表現と、2Dアニメーション的表現、さらにはグラフィックノベル、漫画、バンドデシネ的な、2Dの「絵」表現ですね。絵の表現。その全てが、複雑にハイブリッドされたような様式になっている。
たとえば、キャラクターそのものは陰影がついてたりして、3D的。だけど、漫画的な縁取りがされてたりして、これは2D画的。で、アクションシーンになると、煙など特に自然現象は、2Dアニメ的に表現されてたりして……それらが改めて立体的に再構築されている、というような。いくつかのレイヤーになって再構築されてるような感じで。これはもうはっきりですね、まさに革命的傑作、革命的名作でしょうね、『スパイダーマン:スパイダーバース』、2018年。これ以降の表現。これは作り手たちも公言してます。もう明らかに『スパイダーバース』以降のアニメ表現になっている。
で、かように画作りが非常に複雑、新しめの表現てんこ盛りな分、アクションシークエンスそのものの構造は、むしろ古典的、わかりやすい構造にとどめておいた、というのが実は、賢明なバランスかもしれない。これでアクションシークエンスまで複雑なことをやっちゃうと、ちょっとわかりづらくなっちゃったかもしれないんで。
で、あとはちょっと駆け足ですね、吹き替えもよかったという話を。特にA.B.C-Zの河合郁人さん。ピラニアという役は途中、歌を歌うくだりがありますんで。元の声がアンソニー・ラモスなだけあって、なかなかなハードルだと思いますが、負けてなかったと思いますし。あと、あのサメの声を当てている、チョコレートプラネットの長田庄平さん。オープニングの、Can't Stop Won't Stopというアーティストの「Stop Drop Roll」という曲の最初の英語ラップを、長田さんがやっているんですよね。これ、普通に日本語訳詞をつけてやれよ、っていう気もしなくもなくもないけど。あの英語ラップ、俺は最初に普通に曲が流れているのかと思ったくらい、見事な再現で。まあでも、ここは日本語訳をつければいいだけでは?っていう気もしなくもないけど。長田さん、堂々といい声でラップ、見事でした。
あとは、元はオークワフィナが声を当ててるタランチュラ。あのハスキーな感じ、ちょっとはすっぱな感じが、ファーストサマーウイカさん、これも見事にトレースされていてたと思って。非常に良かったです。何の違和感もなかったです。
この一点だけで「最高!」となったのは……「泣きながらアイスをチューチューするサメの表情」
ということで、メッセージ的にもね、その悪い社会的イメージを押し付けられている、その社会的な立場にいる人が、結局その悪というのを再生産するサイクルに入っちゃって。で、その悪の磁場にいることが仲間との辛うじての絆になってしまうため、またその悪の……要するに、世間の悪を押しつけるイメージが、悪の再生産に繋がっちゃって。本人のアイデンティティーもどんどん悪寄りというか、それによって仲間が繋がってる状態になっちゃって……っていう。
これは現実にももちろんあるサイクルですし、言っちゃえばこれ、フッド物によくあるテーマですよね。『ボーイズ'ン・ザ・フッド』とか『ポケットいっぱいの涙』とか、なんでもいいですけども。フッド物にあるようなテーマを実は子供向けの作品でやっていて、それも非常に意義深いかと思います。
あとはそうですね、僕、もうこの一点だけで「この映画、最高!」ってなったんですけど。もう本当にピンポイントですよ? 「泣きながらアイスをチューチューするサメの表情」(笑)。もうあれだけで、最高!っていう。泣きながらアイスをチューチューするサメの表情、最高です。マジで。あの瞬間だけ額に入れておきたいぐらいの感じ。
ということで、声高にではないですけど、メッセージもしっかり入ってるし。本当に絵面の新鮮さ、ギャグもすごく面白いですし、楽しめる。特にあの、『ルパン』テイストは皆さんが思ってるよりかなり濃い目なので、楽しめるんじゃないでしょうか。楽しい一作でございます。ナメずにぜひ、劇場でウォッチしてください!
(ガチャ回しパート中略 ~ 宇多丸が1万円を支払ってガチャを2度回すキャンペーン続行中[※1万円はウクライナ支援に寄付します]。一つ目のガチャは『線は、僕を描く』、そして二つ目のガチャは『RRR アールアールアール』。よって来週の課題映画は『RRR アールアールアール』に決定!)
以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。