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10月23日(月)放送後記

夏が暑いと翌年の花粉の量が多いと言われていますが、今年東京では9月末の時点で、真夏日が90日もありましたよね・・・。今から春先が心配になります。

雄花だけ枯らして花粉を出なくする技術!!

そんな中、スギ花粉症の苦しみから解放か?と期待が高まる、ある実験が行われました。実験を行った、東京農業大学国際農業開発学科の小塩海平教授に、どんな実験なのか、うかがいました。

東京農業大学国際農業開発学科 小塩海平教授

「私、20年以上スギの花粉を飛ばなくする研究をしてまして、その中で、食べても塗ってもいいような食品添加物の中から、スギの雄花だけうまく枯らすような薬剤を見つけまして、それを今回、ヘリコプターで、色んなノズルで色んな濃度で撒いてみて、どういう風にやると上手く雄花だけ枯れるかなっていうことを調べる実験を行いました。
葉っぱや幹には影響が無くて、雄花だけ枯らして花粉が出なくするという技術で、かかって雄花が枯れたところは全然飛ばないです。飛ばないっていうか花粉が出来ない。かかれば9割以上いきます。
上手くかけるのが難しくて、やっぱり陰になってるところとかありますし。でも半分くらい枯らせれば、飛んでくるのは五分の一とか十分の一とかになるんじゃないかなと思うんですね。」

雄花だけ枯らすことができるんですね!!
今回の実験では、栃木県塩谷町の町有林の6ヘクタールに薬剤が撒かれました。

スギ花粉の苦しみからついに解放?花粉飛散防止薬の散布実験!の画像はこちら >>

(こんな風にヘリコプターで薬剤を散布しました。 写真提供:小塩教授)

長年の研究で、サラダ油などに含まれる「オレイン酸」が特に雄花だけを枯らせる効果が強いと分かりましたが、油を撒くわけにはいきませんよね。水質汚染になったり、ベトベトしたり、ススキが枯れたりしてしまいますから。そこで、オレイン酸を含むけど、もう少しマイルドで、食品添加物で、土の中ですぐに分解される「トリオレイン酸ソルビタン」に辿り着きました。

そこから、スギの葉や幹はもちろん、ミツバチや蚕に影響がなく、メダカや鯉などの魚、そして、イネ科ナス科ウリ科マメ科キク科、そういった野菜にもかけてみて大丈夫と、8年かけて確かめて農薬登録をして、ついに今回、外で、大規模に実験をしたのです。

花粉の出来ないスギへの植え替わるまでの応急処置的にも!

ただ、最近は花粉の出来ないスギの開発が成功した!という話もよく聞きますよね。
スギの木を切って有効に使うことと、花粉が出ないスギに植え替えていくことが、やはり根本的にはやっていくべきこと・・・なのですが、と小塩先生はおっしゃいます。

東京農業大学国際農業開発学科 小塩海平教授

「なかなか花粉が出来ないスギなんで、種を作るのがややこしいんですよ。花粉が無いわけですから。あと林業従事者が日本中でいま、4万4千人くらいで、結構高齢化してるんですね。ですから、植え替えるって言っても人手が足りないし、100年くらいは、最低かかるんじゃないかなと思うんですね。
日本のスギって440万ヘクタールあるんですよ。九州の大きさくらいあるので、割り算すると一人1ヘクタールくらい植え替えれば、だいたい行くんですけど、1ヘクタールくらいを一人で、木を切って新しいのを植えて、森を維持してくってやっぱり気が遠くなる・・・。
ですから、その間で、私がやってるような人体や環境にやさしいような薬剤を撒いて、花粉を飛ばなくするっていう、応急処置的な技術っていうのは、必ず必要になるのかなと思います。」

日本のスギは440万ヘクタール!九州くらいの広さが杉林!すごい量!
林業の人手不足の中では、植え替えるのには、最低でも100年はかかるくらい広大!また、いっぺんにやってしまうと、洪水も心配ですし、地球温暖化にも役立っていると思うので、一気に切るわけにいかない、というのもあります。
だから、小塩先生の花粉を作らせない薬剤の散布は、非常に大事な技術なのです。

一年に一度しか実験できないもんですから・・・

この薬剤がかかれば、9割以上の雄花が確実に枯れます。それは分かっているんです。

スギ花粉の苦しみからついに解放?花粉飛散防止薬の散布実験!

(こちらが薬剤の効果。

雄花が枯れているのが分かります。 写真提供:小塩教授)

ということで、どう散布したら雄花に上手にかけられるか、が大事なところ。どの濃度、どのノズルがいいか?今回の実験で確認したいのですが、そこに難題があるのです。

東京農業大学国際農業開発学科 小塩海平教授

「効果を確認するのが、高いスギの木の上で、登って調べるのも難しいですし、ドローンを飛ばして解析しようと思ってるんですが、目で見えないところでドローンを飛ばすのが難しくて、この間も一台落としてしまったんですけど。
どのくらい枯れていてどのくらい花粉の飛散が抑えられてるかっていうのを正確に測定する技術が、確立しなければいけないな、と思ってるところです。
誰か私に100憶円くらいくれたら(笑)、今年は楽だなっていうくらいやれそうな気がしてます。
技術がだんだん確立してヘリコプターもそろって、試薬も安く作れるようになれば、それから最適な散布条件、濃い濃度のをちょっとで済むっていうことになれば、もっと安くいけるかなとも思うんですが。
これからまだたくさんハードルがあって、今年は花粉症ちょっと軽くて良かった!って言ってもらえるようになるためには、もうちょっと時間かかるかなと思います。一年に一回しか実験できないもんですから。」

今回の実験では、薬剤の濃度や撒き方(撒く際のノズル)を変えて散布したのですが、その効果の差を正確に測定するのが大変。そして、今後、全国440万ヘクタールのスギを対象に行うとなると費用もかなりかかる。
小塩先生の研究は農水省の補助事業として採用されています。しかし、小塩先生は、花粉が飛ばなくなれば・・・

・医療費や薬代が減るから厚労省からも。


・パナソニックの調査では、花粉症による労働意欲の減退による生産性の低下で出る損失は、2200億円と言われていますが、それをかなり回復できるから、経産省からも。
・人々が出控えをやめると、観光業や経済活動が盛んになるはずだから国交省からも。
・花粉症の受験生はティッシュを持ち込んで、見るからに大変そうなのだそうですが、受験生の不公平感も減るから文科省からも。

・・・といった具合に、国全体で協力して(予算をだして?)、この技術の実用化が、皆さんの役に立てることを願っています、と話していました。
ぜひ国全体で力を合わせてほしいですね!

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