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11月13日(月)放送後記
全国でクマによる人への被害が相次ぎ、環境省の速報値では、今年度の人身被害は、先月末で180人と過去最多。東京都のクマの目撃情報も112件!(4月~10月)
そんな中、長野県軽井沢町では、13年間人の生活域でのクマによる人身被害がゼロなんです。
クマに発信機。森へ確実に追い返す!!
軽井沢で行っているのが、ベアドッグというクマ対策特殊犬と呼ばれる犬の活躍による対策。軽井沢のNPO法人ピッキオのクマ保護管理チーム、田中純平さんのお話です。
NPO法人ピッキオのクマ保護管理チーム 田中純平さん
「一頭一頭のクマを、動きを把握するために、捕獲を事前にしまして発信機を付けたり、それで動きを追いながら行動を監視するチームがあります。
これ、他の地域でも、いま起こっているかと思うんですけども、夜の間に、人が暮らしている集落の中に入り込んでしまう、夜が明けたら周りに人が、車が動いていて、そしてパニックになって人を襲ってしまって逃げていく、ということにつながるので、もう夜中の間に監視をして、人が起きる前までに発信機が付いたクマが、人間が生活するエリアに入って来てないかどうか。
入って来ている場合は、ベアドッグ班に情報を渡して、クマが出てきている場所にベアドッグと共に、スタッフが近づいて行って、強く大きい声で吠えたてて、そして森のエリアまで、電波も確認しながら確実に追い返していくということで、ある意味、棲み分けのボーダーであるとか時間というものを一生懸命、効率的に発信機を使いながら教えているという事になります。」
ベアドッグは、森でクマを探し、怯えることなく向かっていくという頼もしい犬。(田中さんたちのところでは、カレリアンベアドッグという犬種を飼育しています。人にはとても優しいそうですよ!)

(ベアドッグのタマ:二枚とも写真はNPO法人ピッキオ提供)
軽井沢は、国際保健休養地。自然の中で心も体も癒しに人々は来ます。
その軽井沢で、クマの人身被害が多発しても困るし、一方的にクマを駆除し続けるというのも、あまり気持ちのいいものではありません。そこで、その両方を避けるための対策を作り上げて、現在の絶妙なバランスの棲み分けが成り立っています。
しかも、軽井沢は、クマの住むエリアと人間の住むエリアの重なる部分が非常に多いため何もしなかったら、他の地域以上に被害が出る可能性がある。
そこで、クマたちが人間のエリアに入らないよう、朝には森に帰るよう、捕獲して発信機を付けて、夜の間中、監視し侵入しているクマに対しては、ベアドッグとパートナーのハンドラーと呼ばれる人間のスタッフとで、森へ確実に追い返しています。
エリアに入れたり入れなかったり、では覚えないので毎回確実に教える。
人の怖さを教えなければいけない!
しかも、聞けば、田中さんもベアドッグと一緒に声を出すと言います。なぜなのか?田中さんに聞きました。
NPO法人ピッキオのクマ保護管理チーム 田中純平さん
「これは重要なことで、ハンドラーは、皆さんの代わりになって、私たち、人の怖さを学ばせたいわけです。だから、犬だけに警戒心を持つんじゃなくて、人に追われたという、人の怖さを学ばせる意味でやっぱり声を出さなければなりません。
『ほーいほい!』っていうような、声を出しながら、犬はワンワンワンワン吠えながら、一般の方、鈴を持ってたりしますので、鈴なんかの音も聞かせたりっていうこともあります。
昔であれば猟師の人に動物は追われて、そして人の怖さを学ぶっていうようなことが世代を超えて、動物の中で伝わって行ったんでしょうけども、軽井沢の場合は、もう1951年から国指定の鳥獣保護区に制定されているエリアがほとんどですので、要するに狩猟行為が行えないんですよ。
ですから誰がどうやって教えていくのか。この地域ならではですけれども、ベアドッグと一緒になってそういったクマに人への警戒っていうのを教えているということを、すっともう20年以上続けてきたと。」
人の怖さを教えて、人のいるエリアに来ないようにするのですね。

(ハンドラーの田中さんとベアドッグのタマ:NPO法人ピッキオ提供)
軽井沢町は面積の半分が鳥獣保護区で、動物たちはのんびりと暮らすことが出来るのですが、それは同時に、人の怖さを知る機会を失うことにもなっていました。
だから、軽井沢では、人とクマは緊張感のある関係なんだ、と教える必要があり、このような対策を続けているのです。
クマだけじゃなく、人間も努力する!
母熊が、子熊に教えるような「人間は怖いよ」ということも教えることができるなら、いま市街地に出るクマにも効果がありそう!各地にベアドッグを広めればいいのでは?と聞くと、田中さんは、そんなに簡単じゃないんです、とおっしゃいます。
NPO法人ピッキオのクマ保護管理チーム 田中純平さん
「例えば昔はゴミ漁りが多かったんですけれども、一般の方々それぞれの家周りでのごみの管理とか、食べ物の管理もお願いしてきましたし、発信機を付けて監視をするっていうのは、100%すべてのクマをすることができないので、必ず山では新しいクマの命が生まれ、捕獲をする前に新しい若いクマがひょろっと出て来たりもしますので、発信機付いてないクマが来た時に落ち着いて対処ができるようにとか、そもそもクマと出会わないようにクマ鈴を持つとか、常日頃、軽井沢でもずーっとみなさんにお願いしながら行って来ていることですので、みんなで力を合わせながらそういった棲み分けを作り上げてきていると。
すべてベアドッグに任せるのではなくて、自分たちも取り組むべきことはやりつつ、そこにベアドッグが入ったときには、素晴らしい棲み分けにより一層つながって行くとは思うんですけど、それを抜きにしてベアドッグだけにすべてを任せようっていうのは、これはあの虫のいい話でして、やっぱり私たちも努力をしていかなきゃいけない。」
20年かけて、町のみなさんのゴミの管理から普段の心構えまで徹底して、そしてたどり着いたものなんですね。クマを教育しながら、同時に人間も学び改善してきた、いわば、人間も教育してきた結果なんです。
それぞれの地域にはそれぞれのクマの出る原因があるはずなので、それをしっかり把握した上で、駆除するなりベアドッグに頼るなり、行政と住民の努力と、みんなの力を積み重ねていくのが大事。
そもそも、天然の森林を、人工林にしてクマのエサ場を減らしてしまったのは人間。
その点を理解して、新しい地域の設計図をみんなで考えるキッカケを、クマがくれているように思うんです、出たクマを駆除するだけでは何も解決しないんです、という田中さんの言葉が、ずっしり来ました。