今度の日曜日、26日は日本ダービー。ということで、今日は、競走馬の「調教」の進化についての話題です。

実は最近、調教に新しい技術が入り始めています。

競走馬も「アスリート」!データで体調管理

どんな技術なのでしょうか。この新しいサービスを開発した株式会社ABEL(東京都品川区)の代表取締役、大島秀顕さんに聞きました。

株式会社ABEL代表取締役 大島秀顕さん

「人間も定期健診やって事前に悪いとこ見つけましょうということをやってると思うんですね。それと同じようなことを馬にやってこうよというのが、僕らの考えてることで、普段からデータを取ったりしておくと、普段のデータと急に変わったぞ、なんかいつもと違うっていうのを、まず検知するところからスタートしていって、ケガとかそういったところに繋げようっていうのをやろうとしてます。

基本的には馬の脚のデータと心臓のデータですね。結局、競走馬もアスリートなんで、アスリートって結構ギリギリのところで、皆さん戦ってると思っていて、競走馬もホントにギリギリのところまで仕上げて、それで初めて勝てるか勝てないかみたいなことをしてるんで、そういう意味では、そこのギリギリのラインをどう攻めていくかっていうとこが非常に重要なところになって来るので、ココがもうギリギリよ、っていうのを、いかに察知するかだと思うんですよね。

なので、そこを経験と感覚だけじゃなくて、データに基づいても状態の把握というのをやっていけるというのが、ひとつ、ここからの競馬産業においても重要になってくるんじゃないかなと思っております。」

データ解析や動作解析は、最近ではスポーツ選手だとかなり浸透していますが、競走馬の調教にも活用する試みです。

競走馬のすべての脚に専用端末を付けて、調教の時の歩行の様子、歩幅や速度、着地時のインパクト、心拍数などを集約して、AIがデータを解析して不調の有無を、調教師に報告する、というもの。

現在は、調教における負荷の調整がメインですが、今年中には、データがはじき出した不調とケガの確率を判定するAI技術の精度を高めて、けが予防に役立つものにする予定で、厩舎や調教師さんの協力でより多くのデータを集めています。

データで「見落とし」を防ぐ 現場でも期待の声

でも調教師というのは、専門知識が重要な「職人の世界」というイメージがあります。データを使った調教は、現場でどのように受け止められているのでしょうか?大井競馬場の調教師、森下純平さんに率直な感想を伺いました。

日本ダービー直前!進化する競走馬の調教の世界の画像はこちら >>

(右から四人目が森下さんです! 記事内の写真は提供:TCK(東京シティ競馬))

大井競馬場の調教師 森下純平さん

「競走馬の世界ってデータ解析動作解析のツールは無かったので、今まで、自分たちの目で見て、手で触って感覚で捉えてた部分、もうそれに頼って競走馬の仕上げをしてた世界なので、どこまで最初は実際できるのかなって、正直半信半疑な部分もありましたけども。

どこの脚に負担が一番かかってるとか、疲労によって歩幅が小さくなったり、バランスが変わってるとか、着地のインパクトが左右差が出てるとか、そういうので、馬の状態、痛いところ苦しいところがないかっていうのをデータからも見てくっですね。

見落としは減りますし、やっぱり視覚感覚だけでは捉えきれない時もあるので。

とはいえ、視覚とか感覚とかっていうのは絶対的に必要なものではあるんですよね。その上で、データと照らし合わせて、馬の調整に反映してくというのは実際行ってます。より、精度は高まりますよね、上手く使えば。調整の精度は上がりますし故障とかの予防する確率も高まります、確実に。」

もちろん、一番大事なのはやはり調教師の感覚。しかし、感覚では捉えきれないものをデータが拾ってくれるのはありがたい、と森下さんはおっしゃいます。

目に見えない、骨、じん帯、腱に消耗が蓄積していて、実際にレースというレベルで走って初めて発症してしまう、ということも。

馬の不調は、必ずデータにあらわれているそうで、これらの不調を見逃すことが減れば、こうしたケガや故障も予防できて、馬を守ることにも繋がるのでとても良い、とのことでした。

後継者不足の問題にも役立つ!?

ただ、ABELの大島さんによると、職人の世界なだけに、データそのものに忌避感を抱く人もまだまだいるので、根気よくデータの重要性を伝えたい、と課題も口にします。

しかし、調教師の森下さんは、データ解析の導入は、馬のみならず、これからの日本の競馬界にとっても、良いことがあるのでは、という期待もしていました。

大井競馬場の調教師 森下純平さん

「職人の世界ですから、感覚的なところを育むっていうのって、やっぱり経験もそうですし、時間もかかりますし、育てるまでに、人間を。

そういう面で、今まではいっぱい失敗もしながら、もう職人の世界なんで、目で見て肌で感じて自分で覚えろ!っていうところを数値で、若いスタッフも見ながら馬づくりをしていけるっていうのは、人間を育てるっていう面でも有効なツールなのかなとは思いますよね。

実際自分が馬を動かしてみたりとかしたときに、先輩の上手な人が動かしたときと、数値の違いも出たりしますから。

もう、中央競馬、地方競馬問わず、世界で通用する馬づくりっていうのを意識してく時代に、これからなっていくと、僕は思ってますので、こういうツールを活かしながら、調教師もそうですけど、厩舎スタッフともども、意識高めて、馬づくりの精度、レベルを上げていくきっかけになれば、ホントに面白い時代になるんじゃないかな、と思います。」

職人の世界で、技術を伝えていくのは大変なこと。そこにデータ、数値があることで多少なりとも違いを把握しやすくなりそうです。精度の高い調教が、世界で通用する馬づくりとなり、日本の競馬は面白くなるのではと期待されています。

ABELの大島さんも、最終的には、この馬は世界のどの国どの地域の競馬場が向いている、といった適性も判別できるような機能も開発したいそうで、「大谷翔平選手のような外国で活躍する馬を生み出したい」と話していました。

(ちなみに、ABELのデータ解析を使った調教を受けて、日本ダービーに出走予定なのは、アーバンシックという馬だそうです。)

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