GWが明けて、昨日から日常が戻ってきました。何とか踏ん張って学校や仕事に向かっているという方も多いと思いますが、実は先日、そんなちょっとした心の変化を「ある動作」から読み取る技術が開発されました。

ドアの開け方で心理が分かる装置を開発!

富山短期大学の経営情報学科・教授、森井泉 仁さんのお話。

「富山短期大学」経営情報学科・教授 森井泉 仁さん

「学生の心理状態」を、研究室のドアにつけたセンサーで把握するシステムです。入ってくる時にドアをノックしたりとか、ドアノブを回したりとか、その時点でですね、「音の大きさ」、「ノックの幅」=コンコンが早いか遅いか。「ドアノブの回転の速さ」=ギュって早く回すか、ゆっくり回すか。要は幽霊が入ってくる感じ、ゆっくーりとドアを開けて入ってくるっていうその「加速度」に一番顕著に、心理状態が出てた。特にひどい状態の場合も、入ってくると同時に把握できるというようなシステムです。

ドアの開け閉めによって、学生の心理状態がわかるシステムを開発しました。

ただ、ドアの開け閉めは体格差もあり、ノックの仕方も人それぞれだと思いますが、森井泉さんは、去年9月までの1年半の期間に、教員室に来た学生「のべ320人」のデータを解析して、心理状態との関連性を調べたそうです。

具体的には、「ノックの強さやテンポ」、「ドアノブをどれくらい素早く回したか」、そして「ドアをどれくらい勢いよく開けたか」、「開けるスピード」。こうした4つの動作をセンサーで計測。心理状態は4段階に分類されていて、より落ち込みが深い状態の「レベル3」をドアの動きで察知します。

実際に「ドアのノック音」を聞き比べてみると…

「レベル0」…事務連絡程度の訪問。リズミカルに「トントントン」と聞こえます。


「レベル3」…落ち込みが激しい状態。聞こえるか聞こえないか分からない音で「トントン…トン」と不揃いです。

実際にはこのノック音と、ドアの開ける勢いなどを組み合わせてAIで分析していくそうですが、特に落ち込みが激しい学生は、およそ8割が、ドアをそっと、ゆっくり開けていたという結果が出たそうです。

「カラ元気」を察知して学生を救う

でも、直接話せば表情でわかりそうですが、なぜこのシステムを開発したのか?再び、森井泉さんに聞きました。

「富山短期大学」経営情報学科・教授 森井泉 仁さん

これも「就活の支援」のためにやってるんですけど。就活で躓いて落ち込んでる学生も、そこそこいまして。まだそこまでわかる子は対処もできるんですけど、私が一番まずいと思ったのはですね「元気に振る舞う子」っているじゃないですか。「私が落ち込んでたら先生に悪いな」みたいな。「意外とこの子、3社も落ちてるのに、落ち込んでないな」みたいな、こっちからしたらですね。なので「また頑張ろうか」とか「これからだよ」って平気で言っちゃうんですけど、でも実はその子にとってはかなりのショックで。で、その後にメール来て「ちょっと休学したい」と。こっちからしたら「えっ」て思うじゃないですか。「だって今日昼間来た時元気だったじゃん」みたいな。

だけどやっぱりその元気は完全に「カラ元気」で。その子はもう履歴書も書けないと。だから「ドアの開け閉め」で分かれば、助けにはなるのかなっていう気はちょっとしてるんですけど。

森井泉さんは、学生の就職相談を担当しています。特に、愚痴や怒りすら出てこないような、感情を出せないほど落ち込んだ学生にどう接するか、悩む場面もあるそうです。でも、「頑張れ」や「気にするな」といった声かけが、逆効果になることもあります。だからこそ、「その子の心理状態が事前に少しでもわかれば、より配慮した対応ができる」と感じているようです。

実用化まで早くて1年半。企業や家庭にも広げたい

ではこのシステム、実用化までどれぐらいかかりそうか?最後に、森井泉さんに聞きました。

「富山短期大学」経営情報学科・教授 森井泉 仁さん

「1年半以上」かかりますね。例えば、「手元に赤い小さい電球」を置いておいて、ちょっと赤く点滅するとか。入ってきた瞬間に赤ランプつけば「あ!この子まずいな」ってわかる。

あとお家で「子供部屋」のドアにつけて、データが例えば蓄積されていれば、「あ、今週はちょっと赤ランプ多かったな」「あ、ちょっと元気になってきたな」っていうのが、数字に出てるんんじゃないかな。聞いてあげることもまず寄り添いかなと思ってて。アドバイスはその次の段階なので、とりあえず悪い方に加速はしないかなっていう気がしてるんですね、聞いてあげれば。

森井泉さんは、もともと企業の技術者。心の機微を読み取るのは得意じゃない、と話す「理系人間」(本人談)。「自分のために作った」と言っていたこのシステム、今は家庭や会社など、ドアの重さが違う場所でも使えるように、調整や改良を進めているそうです。

そして実はこのような、「ちょっとした仕草」や「声のトーン」、「リモート会議中の表情」など、「見えない疲れ」や「言えない不調」を読み取るAIの技術が、様々な職場や教育機関で広がりつつあります。

「5月病」という言葉もありますが、「ちょっとしたサイン」を見逃さない技術が、今の社会には必要なのかもしれません。

(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)

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