中学校や高校などは新学期が始まって1か月半が過ぎて授業だけでなく、部活動も本格的に始まっていると思いますが・・・その部活動を巡って新たな動きが出ているんです。
部活動の地域移行が抱える課題
これまで学校の中で完結してきた部活動を、地域のクラブに移行する「部活動の地域移行」が2023年から行われていたんですが、これが昨年12月「地域展開」へと呼び名を変えたんです。背景には、なかなかうまくいかない実情があるようでした。
早稲田大学 スポーツ科学学術院 中澤 篤史教授
そもそも部活動自体が非常にやりすぎるぐらい大きな規模で成立していた状況を、そのまま受け止められる地域というのはどこにもないんですね。先生方の無償労働に支えられてきた面もあるので、やっぱり誰でも気軽に参加できたという非常に良いメリットがあったんですね。それが学校外のクラブに場所が移されてしまうと、まず単純にそこにわざわざ行かなきゃいけない。学校からそのクラブまでの送迎は誰がするのかと。クラブは学校とは別の組織だから、入会費が必要である、施設の利用料、管理料が別途発生する。そうすると様々な参加障壁が出てしまうので、地域移行するという単純な考え方ではなくて、地域に開いていく方向で部活動のあり方を再編しようとする。それぞれの学校や地域で自分たちのベストなあり方を模索している状況だと思いますね。
部活動を地域に一方的に押し付けるのではなく、地域の協力を得よう!という形に変わったんですね。
地域によっても取り組みは様々なんですが、地域移行の例として、例えば渋谷区の「渋谷ユナイテッド」という取り組み。プロクラブの指導者やアスリートが子どもたちの育成に関わって、世界基準のトレーニングが身近に受けられたり、ICTを活用した成績管理などを行ったり、都市ならではの強みを活かしています。
そして静岡県掛川市の「掛川地域クラブ」。
掛川地域クラブの図:掛川市教育委員会提供
クラブへの移動問題や参加費問題、新しいクラブを立ち上げたいなどの問題も、サポートセンターを立ち上げて丁寧に対応していくとのこと。今年、各種目で体験会を実施して、来年の夏までに90近くまでクラブ数を増やし、完全に地域移行を行う予定です。

掛川地域クラブの図:掛川市教育委員会提供
子供たちで作り上げる部活動
また地域展開の例として、佐賀県佐賀市の「佐賀モデル」という取り組みに注目。佐賀市教育委員会の手島 将之さんに伺いました。
佐賀市教育委員会の手島 将之さん
子どもたちに部活動地域展開、改革を進めていく上で、まずアンケートを取らせていただいたんですよね。その中で、部活動の活動時間が長いと感じている生徒の割合とか、負担を感じている子どもの割合が約3割程度いて、なおかつ部活動と習い事を含めて換算すると学校で年間授業している時間とほとんど変わらない状況があったというのが佐賀市内の実態としてあったので、それを見直すということと、子どもたちがその活動内容とか活動時間を決定していくような部活動にしたいということで、佐賀モデルという形で取り組んでいます。顧問の先生だけに負担をかけないように私たちとしてもそのリソースを提供していくというところもありますし、例えばICT機器を使って子どもたちが自分たちで見て学ぶとか、先生たちの負担軽減というか私たちとしては支援をしていかなければいけないなと考えているところです。
生徒が自主的に決定する部活!先生はあくまでもファシリテーター役(進行役)として後方支援する形なんですね。佐賀市では、まずは週11時間以上の部活動時間を8時間に短縮すること、あとは内容を子供たちが考えることでタイムマネジメント力、運営力、主体性を育む。
令和6年度に市内の私立18校、そのうちの5校が先行モデルとして取り組んでいて、短時間で集中してできるようになった、部活動が楽しくなったという子供たちからの回答もあったそうで、今年度から全校で取り組む予定です。
未来の部活動の在り方
部活動の地域展開の意識、取り組みは地域によって様々で、同じ地域でも県、区市町村、学校ごとに温度差もあり、これまで通りの部活動が続いている学校もまだあるのが現状。今後の部活動の在り方について再び、早稲田大学 スポーツ科学学術院 中澤教授のお話です。
早稲田大学 スポーツ科学学術院 中澤 篤史教授
そもそも自主的自発的に参加するというのが部活動になっているから、それを一方的に国が命令して禁止停止させるというのは相当に困難なんですね。歴史的に見ても、一回だけあった。それはコロナの時。学校を休校にするという中に部活動も含まれていたんですけど、実際には学校休校なのに、授業ないのに部活だけしているという状況が一時あったりしたので、そのぐらい根強く部活が止まらないというのが、日本社会の奇妙で興味深いところなんですね。そうすると、部活動がない学校生活を私たちが作れるかというと、非常に想像しがたい。そうすると、やっぱり部活動はあっていいんだけども、やりすぎないようにほどほどにしようというような。存在を認めながらも、その程度を制限するというところが一つのあり方なのかなと思いますね。
部活動が学校に深く根付いていることが分かりますよね。部活動は日本独特の文化でもあるそうなんです!
そんな部活動が「学校のもの」から社会へ展開しようとしています。教員の負担軽減だけでなく子どもたちにとっても「多様な経験」をもたらすチャンスなんですが、制度を変えるだけではなく、地域に合った形、地域の人材や資源をどう活かすかが重要。
中澤教授は、子どもの意見は1回聞いて終わりじゃなくて聞き続けなくてはならない。実際に地域クラブに移行して楽しいなと思ったらそのままやってもいいけど、やっぱり学校の部活がいいなって言うんだったらやり直すようなチャンスもぜひ与えてほしいと。地域移行・展開の政策の流れはあるが、当事者の話を聞くことを長期的なスパンで伴奏してほしいと話していました。何より子どもたちが本当に楽しめる部活動か、この視点が大切です。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)