今日は最近問題になっている「PFAS(ピーファス)」についてです。水道水から検出されるなど健康への懸念が広がっていますが、もともとは水や油をはじく性質が便利、ということで、私たちの身近な生活用品にも、幅広く使われてきました。
「脱PFAS」へ一歩 92%カットのフライパン開発
ただ最近は、環境への負荷を減らそうと、「脱PFAS」の製品も登場しています。まずは来月、新たなフライパンを発売する、株式会社ドウシシャの浅野 汐音さんのお話。
株式会社ドウシシャ 浅野 汐音さん
PFASを極限まで削減した、ローピーファスのフライパン「エバークックグリーン」を発売させていただきました。
フライパンは基本的にフッ素コーティングをされていて、そこが基本的にPFASと言われる部分ですね。そのフッ素コーティングを極限まで減らして、別の素材を使ったコーティングになります。各メーカーさん、もうPFASに変わる代替え物質が何なのかを検討しているような状況で、フライパン業界においてもまだ日本では規制は始まっていないんですが、ヨーロッパでは全廃しようとしている「制限案」というのも出されているので、ゆくゆく使えなくなることを見越して、今回PFASをどれだけ削減できるか。今回で削減できたのは、「92%カット」というような形になっています。
焦げ付かないフライパンでおなじみの「テフロン加工」や「フッ素加工」。このツルツル感を支えてきたのが、まさにPFASなんです。
新製品「エバークックグリーン」のラインナップの一部。「LOW PFAS」のマークがあります(ドウシシャのHPより)PFASは、人工的に作られたフッ素化合物のグループで、その種類は1万以上とも言われます。このうち、PFOSやPFOAなど一部の物質は健康リスクが確認され、日本でもすでに使用が禁止されたものもあります。ただ現在フライパンなどで使われているものは、それとは別の種類で、国内では今のところ規制はなく「安全」とされています。
ただ、PFAS全体に共通するのが「自然界でほとんど分解されない」という性質。いわゆる「永遠の化学物質」と呼ばれ、環境への負荷が懸念。こうした背景から欧州などでは「もっと広く規制しよう」という動きが進み、日本でも一部の企業が先回りして、「なるべく使わない製品づくり」を始めている、という流れです。
その1つが今回のフライパン「エバークックグリーン」。PFASの代わりに、人工関節などにも使われる全く別の素材を採用し、焦げつきにくさもほぼ維持。直径26センチで5,500円と従来品より少1,000円ほど割高ですが、7月の予約販売開始前から反響があるそうです(店頭に並ぶのは8月~)。
ポテトやハンバーガーの包み紙も「脱PFAS」 問い合わせ急増
そして、こうした「脱PFAS」の動きは包み紙にも広がっています。王子エフテックスの商品開発部、竹本圭佑さんのお話。
王子エフテックス株式会社・商品開発部 竹本圭佑さん
私たちはPFASを使わない「油に強い紙」というのを作っています。一番身近なところで言うと、ファーストフード店さんでポテトの包装とか、あとはハンバーガーの包装とかにも使われたりしています。
私たちも昔は「フッ素」のPFASを使った紙っていうのをを作っていたんですけれども、PFASを使わない薬品を表面にコーティングすることで、油が染みにくい層っていうのを作っています。実際、普通の紙っていうのはでんぷんとかも塗ったりするんですけど、そういった類いのものを塗っています。(何を使っているんでしょうか?)企業秘密にはここはなってしまいますね、スミマセン…。
もともと、この手の包装紙も、PFASのフッ素の力を使って、油をはじいてきました。でも今回は、PFASを使わない「オハジキ」という新しい紙を開発。名前の通り、油をはじく紙で、食品にも安心して使える特殊なコーティングが施されています。2023年に発売されてからは、一部のファストフード店やコンビニの持ち帰り用などで使われ始めているようです。
とはいえ、従来のPFASは、性能としてはかなり優秀だったそうで、今の技術でも完全に同じにはならない。それでも一定程度、油をはじく機能は実現できたということでした。
開発にも時間がかかりました。油ははじくけれど、紙がツルツルになりすぎて重ねにくくなる。インクが乗りにくく、印刷がはがれたり…。そうした課題を一つ一つクリアして、ようやく実用化にこぎつけました。
実はこの「オハジキ」、10年ほど前にも一度開発に挑戦したものの、当時はまだPFASへの関心も低く、結局いったん撤退。今回が「リベンジ」の再挑戦です。
外資系の企業から問い合わせ増
そして今は、「この紙を使いたい」という企業からの問い合わせがかなり増えているそうです。では実際、どんな企業から声がかかっているのでしょうか。
王子エフテックス株式会社・商品開発部 竹本圭佑さん
やはり外資系の企業様の方が、本社の方からいろいろ言われているのか、特に「すぐに変えたい」というお話はよく聞きます。最近になって、PFASっていう問題が話題になってきていますので、今のPFASを使った紙から、「PFASを抜きたい」「PFASをやめたい」というお話がありまして、最近はそういった引き合いはかなり多くなってきている。岐路に立たされているので、これまで作ったことがないような紙っていうのを、各社それぞれ作り方を考えないといけない。
たとえばアメリカでは、あのマクドナルドもPFASを使わない包装に切り替えていく方針を出しています。こうした動きを受けて、特に外資系のファストフードや東南アジアの企業などからも、商談が相次いでいるそうです。
「オハジキ」は、従来品に比べると1・5~2倍ほど高いですが、「脱PFAS」、「非フッ素」という安全性や環境配慮の面で、注目が高まっています。
課題はコストですが、ただ「脱PFAS」の流れ自体は、もう大きく動き始めています。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)