夏になると学校で始まるのが、水泳の授業です。ただ、今その水泳の授業の実技を辞める学校が出てきているんです。

鴻巣市 中学校の水泳の実技を廃止

どんな背景があるのか、中学校の水泳の実技を辞めた、埼玉県鴻巣市教育委員会 教育総務課 新井洋平さんに伺いました。

埼玉県鴻巣市教育委員会 教育総務課 新井洋平さん

水泳の実技授業は、令和4年度から中学校では廃止しています。施設の老朽化が一番の要因だと思います。中学校は8校あるんですけど、コロナの関係で実際に実技は行っていなかった。2年、3年やっていないとなると、施設自体がかなり老朽化していて、実際に実技を行うには、かなりの修繕とか改修の費用がかかるということで、今後そういった費用をかけ続けていくことができるのかというところを議論した結果、廃止という形になったのが1番の要因です。あとは、気温が低くても入れないというのもあるんですけど、昨今だと高すぎて入れないということもあって、プールの授業時間自体が、年間で1学級あたり10時間ぐらいを目安にしていたんですけど、実際に使用する時間はすごく少なくなっちゃうっていうところもあります。


老朽化と、気温、暑さが主な要因だと話していました。

鴻巣市では中学校8校全て、プールができてから30年以上経っていて、同じ時期に一気に老朽化が進むなかで、1つの学校あたりの年間のプールの使用日数はおよそ20日。使用日数が少ないなか、改修・維持していくのは難しいのでは、という結論に至ったそうで、反対意見はほとんどなかったということです。

ただ、鴻巣市の実技の取り止めは中学校のみで、水難事故を防ぐには水に慣れる機会も必要だと17校ある小学校では、今も、水泳の実技の授業は行っています。

水泳は実技の代わりに座学

では中学校では、水泳の実技を辞めた分、どのように補っているのか、再び鴻巣市教育委員会 教育総務課 新井洋平さんのお話です。

鴻巣市教育委員会 教育総務課 新井洋平さん


泳ぐ実技の代わりに座学。教科書を使って、絵とか画像とか漫画とかで水泳をやる際にはこういったところを気をつけるんだよ、水泳の事故防止の心得なんかを授業ではやっています。ある中学校ではライフセービング協会とかの動画等を視聴しながら、実際にこういうときはこう動くんだよというところを中学生に見せたりする。

あとは、保健体育の授業を充実させるという意味で、プールとは別に、例えば心肺蘇生の関係とか、AEDの使い方とか、これまではそういった時間は取れなかったので今取り組んでいるところです。小学校のうちにどれだけ慣れてもらえるかというのが重要になってきちゃってるかなと思います。どうしても目で見るだけっていうのと、実技をするっていうのだと、ちょっと違うかなと思うので、難しいところかなと思いますね。


実技の場合は、例えば見学する生徒は見ているだけになってしまっていたけれど、座学の場合、全員が授業に参加できるのはいいところだということです。

新井さんも、座学で学ぶのと、実技でやってみるのとでは違うと話していましたが「鴻巣市では現状、小学校では水泳に触れる機会があるので全く実技がなくなったわけではない。ただ、小学校のプールも、同じように老朽化の問題があるので、今後は民間のスイミングスクールなどと連携して、小学校でも民間の施設で授業を行うなど、検討を進めている最中」だということでした。

先生の負担や地域差も課題

相次ぐ水泳の実技の廃止には、もう1つの背景があるとも言われています。千葉工業大学 准教授 福嶋尚子さんに伺いました。

水泳の授業が座学に!?の画像はこちら >>

千葉工業大学 准教授 福嶋尚子さん

そもそも学校の先生、水泳を教えられる人ばかりじゃない。子どもたちの命を守りながら、必要とされている力を育てるという意味で、今まで学校の先生方、かなり自信がない中で指導してこられた部分もあって、何かあった時には先生の責任になってしまう。小学校や中学校の役割って何も水泳を教えることだけじゃないので、他にもたくさんの教えなきゃいけないことがあってそれぞれ単元のために時間数を確保しなきゃいけないってことがもうすごく大事なことなので、実技は辞めて「水の事故に対応する」ということは座学によって担保することの方が現実的じゃないかという判断を色んな自治体がし始めているということですかね。


まず、泳ぎの専門家ではないのに、生徒を指導する先生たちへの負担の問題。

そして、水泳の授業を民間委託する学校も増えていますが、その多くは都市部の学校で、地方では、そもそも民間のスポーツクラブが少ないんです。それから、仮に学校外のプールに移動して水泳の実技を行うとしても、移動に費やす時間で、別の主要な科目の1コマ分がつぶれてしまいます。

そういう中で座学という選択をする学校もあると、福嶋さんは話していました。

実技がなくなって、水の事故などいざという時に大丈夫なのか、とも思ってしまいますが、福嶋さんは「泳ぎやすい水着を着て泳ぐ力を磨くのと、水の事故に遭った際の対応を学ぶのはまた違う。綺麗なプールで水着を着た水泳をしなくても学べることはあるとは思う」とも話していました。


難しい問題ですが、老朽化したプールで無理に授業をして子どもの安全が確保されなければ元も子もありません。学校の水泳の授業、これからも変わっていきそうです。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:西村志野)

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