きょうは、エスカレーターの安全対策について。実は、エスカレーターでの事故が、ここ数年、増加傾向にあるんです。

東京消防庁によると、たとえば2019年には年間およそ1400人が、転倒などで救急搬送されています。中でも多いのが、高齢の方のつまずきや転倒。ちょっとした揺れやふらつきでも、事故につながってしまうことがあります。

手すりのマークで転倒防止

そんな中、あるシンプルな工夫で事故を大幅に減らせたという事例が、注目されているんです。UDエスカレーターの江本 真聰さんに伺いました。

UDエスカレーター 江本 真聰さん

手すりの表面に目立つマークを等間隔で入れていくというようなものです。エスカレーターの手すりは通常「無地」なんですけれども、手すりの幅いっぱいに「丸」であったりとか、「四角」であったりとか、マークが打たれることによって、上に流れていくか、上から下がってくるかで、容易に上下を判断できる。ビジュアルで見ていただくと、「やっぱりこれすぐスピード感わかるね」とか、「すぐ方向わかるよね」とか「確かに視線向くよね」っていうのはすぐわかるので、それでこけなくなるですよね。

エスカレーター事故防止、最後は「名指し注意」?の画像はこちら >>
<エスカレーターのベルトにマークを付ける「UDベルト」という取り組み(UDエスカレーターのHPより)>

手すりに、およそ1メートル間隔で、「丸」や「四角」などの目立つマークを入れることで、乗りこむタイミングが計りやすくなります。また、エスカレーターの事故で意外と多いのが、「逆方向から乗ってしまう事故」。これもマークがあると、「これは上り」「これは下り」と遠くからでも判断しやすい。実験で導入した駅では78%の転倒事故が減ったという結果もあり、東京大学との共同研究で、実際に事故が減ることも裏付けられているそうです。

もともとは、デパートの催事などで、エスカレーターの手すりの「装飾」を手掛けていた会社ですが、「これがあると乗りやすい」という意外な声を受けて、事故防止に応用したのが始まりということで、設置もシートをかぶせるだけと手軽なため、JR「岡山駅」や小田急「町田駅」などで、導入が広がり始めています。

手すりで「稼ぐ」

さらに最近では行政の施設にも導入され、ちょっと面白い展開になっているそうです。再び、江本さんに伺いました。

UDエスカレーター 江本 真聰さん

間に「広告を入れていこう」という事例ですね。これは練馬区の区役所内のエスカレーターに、このマークを導入していただいています。手すりにマークが付いているっていうことで、自然に手すりに視線が行くと。見ちゃう、足元ではなくて。それで区役所自身が広告主を募集して、区の財源にしていこうという取り組みがはじまりました。「葬儀屋さん」ですとか、そういったところに広告を出していただいている。

練馬区役所では、手すりのマークを広告スペースとして活用しています。はじめは、練馬区のゆるキャラ「ねり丸」のマークだけを装飾していたそうですが、最近は、「ねり丸」→広告→「ねり丸」という並びにすることで、地元の会社の宣伝もできてしまいます。

区役所ではこれを導入してから、転んでしまった人は報告されていないようで、安全なエレベーターにもにもなって、企業の掲載料が区の財源にもなって、まさに一石二鳥。立ち止まって利用するエスカレーターだからこそ、広告がしっかり目に入る」という利点も生まれています。

今後は、全国で200台以上のエスカレーターへの展開を目指しているということ。

もしかすると、近いうちに色んな場所で見かけるかもしれません。

歩くと…怒られます

ただ、そんな中、「もっと直接的なアプローチ」に振り切った対策も始まっています。名古屋市のIT企業、来栖川電算の山口 陽平さんに伺いました。

来栖川電算 山口 陽平さん

エスカレーターを歩く人をセンサーで監視して、スピーカーから「歩かないでください」だったり、「両側を利用してください」だったりっていうそういうアナウンスをするような仕組みを導入しました。いわゆる「AI」って言われているようなものを使って、センサーデータを解析して、人の移動速度だとかを取り出して自動的にアナウンスをするという、そういうことをやっています。

コンセプトとしては「とにかく居心地悪くする」っていうのを徹底してやっていましたので。大きな音でアナウンスをしますし、少し怒られてるような、とがめてるような感じのメッセージにもしますし。周りの視線が痛い感じになってて、ちょっとバツが悪そうな感じになっていましたね。

去年、名古屋「伏見駅」や福岡「博多駅」などで実証実験が行われたのが、その名も「エスカレータ見守り君」。AIとカメラで、エスカレーターを歩いている人を検知するとスピーカーから「注意」されます。

エスカレーター事故防止、最後は「名指し注意」?
<「エスカレータ見守り君」の特殊のカメラから見えている映像。ライダーセンサーというもので、人の場所や動きを特定します>

しかもその声、ちょっと怒ってるテンションなんです。

条例違反です。エスカレーターは、歩かないでください。

ちょっとムスっとしている感じがしなくもない…。でもこれで実際に立ち止まると、「ご協力ありがとうございました」という感謝の言葉も流れます。名古屋市では2023年「エスカレーターは歩かずに立ち止まって利用するように」とする条例が制定されたんですが、そうした流れの中で導入。実験期間が終わってもこのエスカレーターを歩く人がほぼいなくなったという声もあるようで、実は今年の秋からは、名古屋市内の一部地下鉄で本格導入が決まっています。

そこまでしないと、人はエスカレーターを止まって乗らないのか…?と言う気もしますが、怒られる前に、エスカレーターは、立ち止まりましょう。

(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)

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