毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。
今朝は線状降水帯の予測についての話題を取り上げた「こちら特報部」の記事に注目しました。
気象庁は、2022年から、線状降水帯による大雨の可能性が高ければ半日程度前から注意を呼びかける取組みを始め、去年、2024年からは対象地域の住民に危機意識を持ってもらおうと、県単位での呼びかけをしています。
しかし、線状降水帯の予測は難しいと言われており、その的中率は、2022年は23%、23年は41%、去年は10%と低くなってしまっているんです。
何もない海で、どうして突然積乱雲ができるのかが分からない
まずは、線状降水帯はなぜ予測が難しいのか、何が分からないのか。気象大学校の教授で、線状降水帯の予測を研究している気象研究所の博士でもある、加藤輝之さんにお話をお聞きしました。
気象大学校・教授で気象研究所・博士 加藤輝之さん
陸上だったらある程度観測データが充実してるので、気候解明が進むかもしれませんが、海上はそういうデータがほとんどないというところなので、やはり海上で積乱雲が発達して、そこで次から次へと積乱雲が生まれてくるっていうメカニズムっていうのはなかなか分からないというところです。
陸みたいに山があると、山によってそこで積乱雲が次から次へと発生するというのはみなさん分かりやすいとは思うんですけど、海の上で、何もないようなところで、どうしてそこで積乱雲が次から次へと発生して線状降水帯っていうふうになるんだっていうところが、非常にまだ分からないというところで、ある程度この辺で出来そうなポテンシャルというのは分かるんですけども、どの程度の確度で発生するか、どの地点で発生するか、線状降水帯は、一日前、または半日前でもまったく何もないようなとこから誕生するわけですから、非常に難しいかなと考えています。
何もない海で、どうして突然、積乱雲ができるか、が分からないんです。
陸上ならば、気温がこのくらい、大気の水蒸気の量はこのくらい、風の強さ、向き、たくさんのデータがあり、それらの条件によっては山に当たって積乱雲ができる、などと解明できているのですが、海の上のデータはほとんどなく、メカニズムの解明も、発生の予測も難航しているのが現状。
線状降水帯の予測に必要とされるのが、大気の水蒸気に関する情報。気象庁は、毎年6月から10月に、海上の水蒸気観測のために、海洋気象観測船での水蒸気観測を行っていますが、今年、新たに石川県能登沖でも実施する、という発表がありました。
海上でのデータは、喉から手が出るほど欲しい!
一か所、データを取る地点が増えることについて、再び加藤さんに聞きました。
気象大学校・教授で気象研究所・博士 加藤輝之さん
日本列島は周辺、海に囲まれているので、そういう海から入って来る水蒸気が日本列島に大雨をもたらすと。なので、日本周辺の海域での観測データが充実するということは、予測精度、または気候解明に対して良いデータになると考えています。
衛星からの観測というのもあるんですけども、上の方から見てるので、地上付近にある、近くにある水蒸気っていうのはなかなか精度良く観測することは出来ないので、海上でのデータは、我々としては、喉から手が出るほど欲しい、というようなデータなので。
で、特に今年度は気象研究所に、集中観測の予算がついたので、飛行機による観測、船による観測の充実を図っているので、それらのデータが昨年度以上に集まってくることが考えられるので、少なくとも最近よりも研究が進むのではないか、と期待しているところです。
一か所でもデータが増えると、予測には大きく影響するんですね。
今までは、線状降水帯が発生しやすいとされる地域に船を出してデータを取っていました。しかし、そうではないと考えられていた能登で、昨年、線状降水帯が発生し、豪雨災害となってしまったことを受けて、観測地域を広げました。
今年、気象研究所にまとまった予算がついたので、今までより多くのデータがとれそうで、予測精度が上がる期待が高まります。
来年も再来年も、ぜひ継続してほしい!!
今回の能登での水蒸気観測について、気象学がご専門の九州大学教授、川村隆一さんにも伺いまうと、こんなお話がありました。
九州大学理学研究院 川村隆一教授
東シナ海とか太平洋沿岸ですでに観測をしていますので、そこに日本海での観測を追加することで、日本周辺海域の水蒸気の流れの特性というものが見えてきますので、それが他の地域で線状降水帯が発生するというときの半日前予測に大きな貢献をしていくと、いうことを期待していますけど。
あとは、今年、日本海でも観測をしますと気象庁は言ってますけど、来年も再来年も継続的にデータを収集していくというのが大事で、単発で終わってしまうと、データとしてはかなり不十分ですので、継続的に観測をしていくっていうのが最も重要なことですので、予算の関係もあると思いますけど、ぜひ継続してほしいとは思っています。
もちろん、川村先生も観測地域が増えることには大賛成。
観測の空白地域であった日本海側のデータが得られることで、日本の周りの海で、どのように水蒸気が流れるのかの特性が見えてくると思われ、それが大きい、と。
しかし、これだけ毎年被害があるので、ぜひ継続してほしいですよね。
定義から少しでも外れたら線状降水帯とはみなされない!!
そして、川村先生は、ある意味まだまだ精度が高くはない線状降水帯の予測について、受け手である私たちにも知っておいてほしいことがある、とおっしゃいます。
九州大学理学研究院 川村隆一教授
線状降水帯の定義は研究者の間でも異なっていますので、気象庁は独自の基準で定義をしてます。
その定義の仕方は3時間の積算降水量が100ミリ以上とか、あるいは、線状ですから、縦横比が何対何、つまり幾何学的な形状で線状降水帯を定義してますので、その定義に少しでも外れてしまうと線状降水帯と見なされないので、そこが結構問題で。線状降水帯という定義から外れたとしても、大雨が降る可能性は非常に高いということですので、的中率が低いからといって、半日前予測の情報を無視して欲しくはないんですね。やはり大雨が降る可能性、危険率が高いということは十分認識して欲しいとは思います。
線状降水帯は、気象庁独自の定義があり、その定義から少しでも外れてしまうと(少し雨量が足りないとか、縦横の比率がちょっと違うとか・・・)それは線状降水帯とは見なされないんです。
だから的中ではなくなるのですが、大雨であることには変わりないんです。
冒頭の加藤さんも、的中率が低い中で予測を出すと、オオカミ少年のようになってしまいますが、しかし、大雨であることに変わりはないんで、予測を出さずに大雨になってしまうことだけは避けなければ、と話していました。
お二人とも同じことをおっしゃっていますよね。今のところ、半日前予測の的中率は低いけれども、大雨が降る可能性は高いんだ、ということを忘れずに対応してほしい、と。命に関わる大雨が増えている中、しっかり覚えておきたいですね。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:近堂かおり)