最近、「ある注射」が若い世代の間で注目を集めています。その名も「マンジャロ」。
痩せ薬として話題の「マンジャロ」。本来は糖尿病治療薬
何が起きているのか、現状について「あおき内科・さいたま糖尿病クリニック」の青木厚さんに伺いました。
「あおき内科・さいたま糖尿病クリニック」 青木厚さん
「マンジャロ注射」っていうのは「糖尿病治療薬」なので血糖値を下げるというのが一番の主目的なんですけれども、食欲を抑えて体重を減らすといった作用もあります。最近問題になっていることは、「糖尿病じゃないんですけれども、もともと若くて痩せていらっしゃる方で、痩せる必要もない方がさらに痩せたいといって、痩せ願望が強くて、マンジャロ注射を使って痩せていく」っていうことが、やっぱり問題ですよね。
そうすると、さらに食べなくなって、拒食症になっている人もいるんですよ。我々、糖尿病専門医も、糖尿病の患者さんが「マンジェロ注射」を治療の選択肢ですけれども、もともと痩せてる人が「さらなる痩せたい」という願望をもとに使うのはよくないですよね。
「マンジャロ」は、もともと糖尿病の治療薬で、週に一回、自分でお腹や太ももなどに注射して使います。血糖値を下げるのが本来の目的ですが、「食欲が落ちる」「満腹感が長く続く」といった作用もあるようで、とくに「肥満傾向のある糖尿病患者」に処方されることが多いそうです。
ところが最近、この薬をダイエット目的で使う人が増えていて、とくに若い女性のあいだで、「楽に痩せられるらしい」と話題になっているようです。青木さんのクリニックでは、ダイエット目的での処方はお断りしているそうですが、最近では、「オンライン診療」や「自由診療」といって、保険が効かない代わりに、自費で治療を受けるスタイルのクリニックも増えていて、そういったところではマンジャロを出してしまうケースがあるようです。
目標は38キロ。止まらない「痩せたい」気持ち
では、実際どれくらい広まっているのか?今回、新宿 歌舞伎町で若い女性に声をかけたところ、「使っている」と答えた方に話を聞くことができました。
マンジャロ使ってます。病院で普通に受診して、ダイエットクリニックみたいな。3日に1回とか打っちゃってる。まだ1カ月たってなくて7キロ落ちた。もともと45(キロ)とかだったんですけど、マンジャロを使う前が。だけど53キロまで太っちゃって、そっから7キロ減った感じで、1ヶ月で。
(身長何センチぐらいですか?)163。いくらだっけ?2万3千円とか。1ヶ月、4本。え、誰よりも細くなりたいから。
今回、話を聞いた女性は20代前半ぐらいの方で、身長は163センチ。標準体重だとおよそ58キロですが、「53キロまで太った」と感じてマンジャロを使用。1ヶ月で7キロ痩せて今は45キロ。でも目標は38キロだと話していました(仮に38キロになると、BMIの数値は14・3。18・5を下回ると「痩せすぎ」とされる中で、この数字はかなり危険な数字です)。
他にも、「TikTokで見た」「一度やめてもまた戻ってしまう」と話す人もいて、ちょっと依存的な使い方をしているようなケースも見られました。
では、こういう使い方をさせてしまっているクリニック側に問題ないのか?と思って青木医師に聞いてみると、実は糖尿病じゃない人にマンジャロを処方しても法律違反ではないようで、つまり罰則がないのが現状のようです。
ただ、やはり糖尿病患者でない人が使うとリスクもあるため、厚労省は診察の有無や副作用の説明など、自由診療の実態を調査し始めているようです。
私も「低体重・低栄養症候群かも」…気づきのきっかけに
実はいま、医療の現場でも「痩せすぎ」や「栄養不足」が深刻な健康問題として扱われるようになってきていて、 今年4月には、ある「新しい考え方」が専門家の間で打ち出されました。順天堂大学大学院の教授で、糖尿病の専門医でもある、田村 好史さんに伺いました。
順天堂大学大学・教授 田村 好史さん
「痩せていればみんな健康というわけではないですよ」ということを周知する目的として、「女性の低体重低栄養症候群」というですね、症候群を作りました。
メタボリックシンドローム(メタボ)ってありましたよね。今は40歳を超えると、法律で「メタボ健診」っていうのを受けて、それに該当すると指導を受けたりする。あれで何が良かったかというと「あ、メタボ。あれね」ってすぐ皆さんわかるようになったと思います。それと同じように「あ、私って、そういえばなんか貧血もあるし、体調も悪いし、肌もガサガサになってきるし。あ、なんかこれ、低体重低栄養症候群かな?」みたいなことに気がつける人が増えてくる。
これってやっぱり根深くて、背景にはダイエット産業があって、社会全体が「太ったらダメ」みたいな意識が強くなりすぎちゃって。そのための基準を今作って、まずは知ってもらうと。
痩せすぎて必要な栄養が足りていないと、貧血や生理不順、気分の落ち込みなど、いろんな不調が出てしまいます。これまでは、BMIの数値が基準を下回っているかどうかで「痩せすぎ」を判断していましたが、それだけでは本当の体の状態までは分からないことが多い。そこで今年、田村さんも関わる日本肥満学会が打ち出したのが、「女性の低体重・低栄養症候群」=通称「FUS(ファス)」という考え方。
血液検査や日常の体調も含めて、「もしかしてFUSかも…」と気づけるような診断基準を整えていく。「痩せているけど不健康な状態」を、医療の現場でしっかり拾っていく流れがようやく動き始めているようですが、「痩せ」=正義という社会の価値観も変えていく必要があると、田村さんは話していました。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」より抜粋)