緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されて1ヵ月、これまでのマイナスをばん回しようと、全国の鉄道事業者が企画するイベントが相次いでいます。その中の1つ、銚子電気鉄道(銚電)の「電車サウナプログラム」に目が留まりました。
プログラムはツアーの一環。2021年11月2~4日に千葉県銚子市を訪れ、ホテルや市内施設でワーケーション(テレワーク)します。ツアーの目玉が11月3日の電車サウナ。「ぬれ煎餅」や「まずい棒」といったユニークな副業で鉄道の赤字をカバーする銚電が、ついにサウナを始めたのか? そんな疑問は現地を訪れて氷解しました。鉄道ファン、そしてサウナーの皆さんも、ぜひ本稿をご覧下さい。
東京の旅行ベンチャーが企画
ツアー名は、「国内初のデジタルデトックス×銚子電鉄を活用したサウナワーケーション」で、主催は東京の旅行企画スタートアップ(ベンチャー)企業・Stayway(ステイウェイ)。コロナ禍で注目を集めるようになった、ワーケーションのプログラムを全国の自治体などと共同で実施します。サウナワーケーションも、銚子市との協業で旅行商品化しました。
デジタルデトックスは、ワーケーションとは若干矛盾しますが、スマートフォンやインターネットのない環境に身を置いて、人間本来のコミュニケーション力を高めることを意味します。中身満載のツアーです。
参加者は全部で24人。
電車サウナの発想は昔の鉄道車両から
電車サウナのアイディアは、銚電が出しました。今は旧形客車などを除き、ほぼすべての鉄道車両が冷房化されていますが、時計を半世紀ほど巻き戻せば、夏に涼しい車両は夢のまた夢、盛夏の車内は「蒸し風呂のよう」なんて表現されていました。そんな時代を思い返し、「冷房を切って逆に暖房を入れれば、電車がサウナになる」と考えました。
ツアーは本来、2021年9月に催行予定でしたが、緊急事態宣言で延期。残念ながら車内暖房だけで〝滝のような汗〟とはならず、会場になった銚電仲ノ町車庫にはテント式サウナや水風呂が用意されました。


空前のサウナブーム
話は鉄道から離れますが、世は空前のサウナブーム。専門機関の調査では、「月1回以上サウナを利用するサウナ愛好家」、いわゆる〝サウナー〟は、全国1千万人と推計されます。
設備の整った温浴施設が増えて、サウナがレジャー化したことや、SNSでサウナ好きをアピールする芸能人の影響などで、若い世代や女性サウナーも目立つようになりました。
竹本銚電社長熱く語る

電車サウナでは参加者の心を熱く燃やす、もう一つのプログラムが用意されました。銚電の竹本勝紀社長の「熱いお話」。たび重なる経営危機を逆転の発想で乗り切るとともに、地方鉄道の必要性を、魂を込めて語る竹本社長の講話、参加者の心に深く刺さったはすです。
竹本社長の講話、最大のポイントは、「自虐ネタは他人を傷付けない」。確かに、「電車屋なのに自転車操業(涙)」とか「まずい棒。マズいのは経営状況です」とか、銚電のコピーは秀逸な自虐ネタのオンパレードです。「自分で自分を笑い飛ばすユーモア」と竹本社長。ウソかマコトか、まずい棒のわさび味は、電車の「わっ、錆(さび)」から思い付いた、なんて話もしていました。
講話で明かされた企画中の新商品は「チキンカレー」で、そのココロは「資金枯れる」だそう。確かにですが、ちょっと苦しいような気も。
目指すは「日本一のエンタメ鉄道」
竹本社長の話でもう一つ、心に残ったのは「日本一のエンタメ鉄道を目指す」のフレーズ。「ライバルは同じ千葉県の某有名テーマパーク」とも話していました。
地方鉄道で人気のグルメ列車、銚子―外川間は往復40分程度で、ゆっくり食べている暇はありません。だから銚電がやるのは車内イベント。電車プロレス、お化け屋敷電車、イルミネーション電車――。やれることは何でもやります。ただ、イルミは予算の関係で全色ピンクという点が笑えます。
2023年に創業100年
竹本社長は、まじめに鉄道の存在意義も語りました。一時期は10万人あった銚子市の人口は現在6万人。学校の統廃合が進み、電車を利用する通学生が増えています。
乗客がピークになるのは、実は元旦。沿線の犬吠埼は日本で最も早いご来光を見に多くの観光客が訪れます。バスだけではとても運びきれません。
2両編成の電車は観光客で満員

電車サウナ終了後は時間があったので、終点の一駅手前、犬吠まで往復しました。緊急事態宣言解除の効果もあるのでしょうか、車内は立ち客もいるほどの混雑で、物販店のある犬吠駅もにぎわっていました。
乗車した仲ノ町駅で、たまたま見掛けた光景。家族3人、マイカーを利用して銚子を訪れた親子連れ、未就学のお子さんは電車好きのようです。仲ノ町駅で電車を見て大喜び。そこで、仲ノ町から犬吠までお母さんと子どもは銚電に乗車。お父さんはクルマと移動手段を分けました。
最近、駅で子どもたちの姿をあまり見掛けなくなりました。
かつての銚電の電車と同じ塗り分けの「ぬれ煎餅駅」
さて、今回の銚子紀行にはもう一つの目的がありした。銚電の「ぬれ煎餅駅」訪問。もちろんそんな鉄道駅はなく、正体は銚電のぬれ煎餅工場に併設された〝道の駅〟です。
銚子駅から南西に約7キロ、千葉市と銚子市を結ぶ国道126号線沿いにある2階建てのビル。外装は1階が朱色、2階が黒のツートンカラーで、鉄道ファンしか分からないかもしれませんが、かつての銚電の電車と同じ塗り分けです。

銚電はぬれ煎餅の製造開始時、本社を置く仲ノ町駅で煎餅を焼いていたのですが、売り上げが伸びて手狭になったため、市中に製造工場を開設。2014年に工場に併設して直販店を開設しました。
ぬれ煎餅を手焼きする
販売するのは、こわれ煎餅など駅限定の商品。銚子港の海産物はじめ、土産品も一通りそろいます。
もう一つの売り物は、煎餅の手焼き体験。「最初は頻繁に裏返します。

手焼き体験コーナーは、かつて犬吠駅にもあったのですが、現在はぬれ煎餅駅だけ。鉄道ファン的には、銚電歴代のポスターが展示されているので、一見の価値はあるかも。ただし国道沿いなので、マイカーかレンタカー利用の方でないと訪問は難しいかもしれません。私は銚子駅からレンタサイクルを利用しました。
以上で、銚子訪問記は終了。路線規模や経営状況はさておき、銚電がしっかりと地域で存在感を発揮しているのを見聞できたことが、最大の収穫でした。
記事:上里夏生