今回は鉄道業界発、広報活動の話題。

土木学会の主要メンバーは大学や研究機関の研究者、民間では建設会社(ゼネコン)やコンサルタントです。普段は表に出る機会の少ない業界ですが、テレビで企業イメージCMを流すゼネコンも増えています。ここでは受賞作から「青函トンネル」をキーワードに、鉄道・運輸機構技術陣の熱い思いをご紹介。後半は、鉄道建設に実績を持つ鉄建建設の社会貢献活動を取り上げます。
西九州新幹線をトップに〝機構作品〟の開業が続く

本サイトをご覧の皆さんには説明不要と思いますが、鉄道・運輸機構は整備新幹線や神奈川東部方面線(相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線)を整備(建設)する独立行政法人。建設中の新線は2022年9月23日に開業する西九州新幹線をトップに、相鉄・東急直通線や北陸新幹線(金沢―敦賀間)が続き、機構は技術力とともに、大量高速輸送に特性を発揮する鉄道の機能を知ってもらおうと広報活動に力を入れます。
受賞対象になった青函トンネルの記録映画は、YouTube「JRTT鉄道・運輸機構チャンネル」で視聴できます。ぜひご覧ください。本稿は、機構チャンネルの副読本としてご覧いただければ幸いです(画像は機構の許可を得て、配信動画を撮影しました)。
鉄道建設の専門機関
まずは一コマだけ、2003年10月に発足した鉄道・運輸機構の生い立ちを。主な前身は日本鉄道公団(鉄道公団)。1964年3月、国と国鉄の共同出資で発足した特殊法人です。
東海道新幹線が開業したこの年、国鉄は赤字に転落。自力での新線建設が難しくなりました。しかし鉄道全盛期だった高度成長期、国や国鉄には「わが方にも新線を建設して」の請願がひっきりなし。そこで、鉄道の建設と列車運行を区分して、建設整備の専門集団として鉄道公団を立ち上げたのです。
カーブのルートで湧水を避ける
鉄道公団、そして鉄道・運輸機構の技術力が結実したのが1988年に開業した青函トンネルでしょう。津軽海峡下約100メートルに掘られたトンネルは、全長約53.9キロ。トンネル着工は1971年9月(本工事着手)ですが、実際の工事は公団発足の年、1964年4月の北海道側調査工事でスタート。「着工から完成まで足かけ25年」というのが、青函トンネルの建設略史です。
最大の難敵は高圧湧水。湧き出すのは海水で、当然ながら無尽蔵。鉄道公団は、薬剤を注入して地盤を止水・強化する(固める)「注入工法」を駆使しました。
トンネルのルートを上からみると、本州から北海道へ一直線でなく、本州方で西側に大きくカーブします。これは長期にわたる調査結果で、多量の湧水を含む火山岩の多い地質を避け、海底の低い台地をトンネルで抜けるルートを採用したためです。
青函トンネル、実は3本!?

青函トンネルは1本というのは当たり前ですが、実は列車の走る本坑に並行して、作業坑、本坑下部には先進導坑が本州と北海道を結びます。
3本のトンネルのうち、先進導坑は公団が直接施工しました。直轄施工では公団が自ら資材を調達し、設計や施工、現場での監督業務も公団職員が担当しました。公団は先進導坑の直轄施工で、新規技術を開発・確認、地質も見極めて本坑建設の自信を得ました。
大きな異常出水は全部で4回
大きな異常出水は全部で4回ありました。最初は1969年2月で、復旧までに137日間を要しています。しかし、最初の出水を克服したことが、その後のトンネル掘削の自信になった効果も見逃せません。
次いで、1976年5月に吉岡作業坑で発生した出水は毎分の湧水量が85トンに上り、青函トンネル建設上、最大の異常出水事故になりました。最終的な出水量は約216万トン。作業坑3015メートルと本坑1381メートルが水没しました。
こうした異常出水を含め、青函トンネル建設は注入工法で止水して地盤を強化、掘削を再開することの繰り返し。工事全体のうち止水の時間が6割、実際の掘削は4割で、注入には掘削を上回る時間を要しました。注入材料は海水に強く、耐久性を求められます。基本はセメント水ガラスを使用しました。
ユーロトンネル建設の機運高める
最後に、青函トンネル建設の意義。まずは、海底長大トンネルを可能にした技術開発、そして何より日本の高度なトンネル鉄道建設技術を、世界に示した点も見逃せません。
世界をみれば、海底トンネルが脚光を浴びたのが、1994年5月に開通した英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)。土木の世界では、「ユーロトンネル建設の機運を盛り上げたのは、実は日本の青函トンネルだった」というのが定説になっているそうです。
北海道新幹線で本州から北海道に渡れば、青函トンネルの通過時間はおよそ25分。車窓は真っ暗なわけですが、「JRTT鉄道・運輸機構チャンネル」をご覧いただいた上で、次回の乗車時は公団技術陣の〝鉄道魂〟に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
鉄建建設はコラムで情報発信

ここからはもう1社の受賞企業、鉄建建設に移ります。本サイトで社名検索すると、「新幹線の上に橋上駅舎、ゆりかもめとモノレールがデッキでつながる浜松町駅」、「東武、清水公園~梅郷間の高架区間は3月28日使用開始 愛宕駅新駅舎も同日から」といったニュースで、施工会社として鉄建建設がヒットします。
鉄建建設はニュースリリースのほか、「てっけんプラス+」と題したコラムで情報発信します。てっけんプラス+には興味深いニュースが並びますが、ここでは土木広報大賞2021の表彰セレモニーでお話をうかがった、経営企画本部広報部の野地奈央子担当部長おすすめの一本をご案内します。
ホーム下への避難を体験
2021年11月26日に発信されたのは、「建設技術総合センターで駅のホームや踏切設備などを体験学習」。千葉県四街道市にある県立千葉盲学校中学部の生徒と先生が、同県成田市の鉄建建設建設技術総合センターを訪れ、安全な鉄道利用の方法を体験しました。

体験学習では鉄建建設の社員が講師をつとめ、視覚障がい者用誘導ブロックを白杖でたどったり、非常停止ボタンの押し方を実地で学びました。特に貴重だったのがホーム下への避難。
もう一つの踏切設備関係では、遮断機をくぐる、非常停止ボタンを押す、踏切内で検知器の反応を確かめるなどを体験。参加者からは、「貴重な体験ができた」の感想も聞かれました。
土木広報大賞2021のご紹介はここまで。鉄道・運輸機構のYouTube、鉄建建設のホームページは興味深い内容がいっぱい。鉄道ファンの皆さん、ときどきチェックしてみてはいかがでしょうか。


記事:上里夏生