久留里駅2番線に停車中の列車

千葉県房総半島を走るJR久留里線(木更津ー上総亀山間32.2キロ)をめぐるJRと沿線自治体の話し合いがスタートしました。

千葉県と君津市、JR東日本千葉支社は、「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」を創設し2023年5月11日、君津市内で初会合を開催しました。

検討会議は経営環境が厳しさを増す、同線南端の久留里―上総亀山間(9.2キロ)について公共交通維持の方策を話し合う目的で、行政とJRのほか有識者や住民代表が出席しました。

同区間は、JR東日本が2022年11月に公表した「ご利用の少ない線区の経営情報(2021年度分)」で、年間収入100万円に対し営業費用2億8100万円で、鉄道が十分に機能するとはいえない状況にあります。本コラムは検討会議設置までの流れとともに、本来は房総半島を横断するはずだった線区の歴史、そして乗車レポートなどをお届けします。

(本コラムは久留里線の近況を客観的に紹介する狙いで、鉄道の存廃などに言及するものでないことはご理解願いたいと思います)

「大量輸送のメリットを発揮できない」

久留里線をめぐる動きは、2023年3月8日の一部報道が先行する形で表面化。翌3月9日にはJR千葉支社が会見で、久留里―上総亀山間の現状や考え方を公表しました。

同区間の運転本数は下り(上総亀山方面)8本、上り(木更津方面)9本。1日当たり平均利用客数はJRが発足した1987年度は823人ありましたが、2021年度は93%減の55人に減少。

収支率0.5%で、JR東日本管内各線区でもっとも低レベルにあります。

JR千葉支社は、「鉄道の特性といえる大量輸送のメリットが発揮できていない」と判断。沿線地域の公共交通を持続可能にするとともに、利便性を向上させる交通体系のあり方を総合的に検討する場の開設を、千葉県と君津市に要請しました。

地元では「守る会」が立ち上がる

「経営が厳しいので鉄道を廃止してバス転換」ーー確かにそれは一理ありますが、JR千葉支社は「バス転換など、特定交通モードや交通体系を念頭に置くわけではない。当該地域の交通体系について、利便性向上や持続可能性などの観点から議論したい」とします。

しかし、地元はJRの要請に一定の警戒感を示し、一部沿線住民は3月26日、「久留里線と地域を守る会」を結成。守る会は、JRや県などに協議の場の開設を求め、そのことも今回の検討会議につながりました。

守る会は、鉄道廃止に反対する署名活動を展開。「30年以上も駅舎掃除や草刈りをして、鉄道運行に協力してきた」と鉄道に寄せる思いを語ります。

検討会議には、有識者として日本大学理工学部の藤井敬宏特任教授が参加。国土交通省関東運輸局や久留里線沿線の木更津、袖ヶ浦の両市もオブザーバーとして加わります。

初回の会合では、交通街づくりの観点で参加機関が話し合うことを確認。期限は設定せず、次回開催時期も未定。

公開可能な資料は今後、県のホームページに掲載されます。本コラムでは、進展があれば続報の形でご紹介させていただきます。

開業時は千葉県営の軽便鉄道

JR久留里線(久留里―上総亀山間)をめぐる議論スタート 鉄道存続か、それとも……【コラム】
横田駅前に建つ「久留里線百周年記念碑」

久留里線の歴史をたどります。写真撮影のために横田駅で下車した際、駅前に「久留里線百周年記念碑」があるのに気付きました。建立は2012年。そうです、久留里線の開業は1912年。「千葉県営鉄道久留里線」が当初の路線名で、木更津―久留里間で営業開始。

当初は線路幅の狭いナローゲージでした。

1923年に国有化。1930年に改軌されて一般鉄道になりました。上総亀山への延伸は1936年。海抜99.2メートルの上総亀山駅は、千葉県の鉄道駅で最高所です。

振り返れば久留里線は当初、上総中野まで延伸して木原線と接続する構想でした。

木更津―久留里―上総中野―大原の「房総横断鉄道」。ちなみに、木原線の「木」は木更津、「原」は大原を表します。

しかし、上総亀山から先は石尊山(せきそんざん、標高348メートル)が行く手をさえぎり、小湊鐵道が五井―上総中野間を開業して延伸の必要性が薄れたことから結局、上総亀山止まりになりました。

フリーきっぷがあれば……

途中の久留里までですが、久留里線をルポしてきました。木更津発9時16分発久留里行きに乗車して、横田で下車。1.5キロほど徒歩で戻って、小櫃川を渡る列車を撮影します。横田から11時31分発久留里行きに再乗車。

久留里で駅周辺を取材、昼食の後は木更津に戻りました。

木更津発の列車は1両編成ですが、座席は半分程度埋まっています。祇園、上総清川、東清川と停車駅ごとに乗客は数人ずつ下車。学生や子連れの主婦など、乗ってくる人もいます。

乗車中に思いついたことなど……。久留里線には、ローカル私鉄によくある「1日フリーきっぷ」のような企画乗車券がありません(JR千葉支社が期間限定で発売するフリーきっぷや青春18きっぷを除きます)。車内にはシニアの姿をほとんど見かけませんでしたが、都営交通の「シルバーパス」のような高齢者向けの割安なきっぷがあれば、免許返納者が利用してくれるかもしれません。

いすみ鉄道を観光鉄道として再生

ここで久留里線を離れた参考情報。千葉県の地方鉄道で思い出すのは、いすみ鉄道や銚子電気鉄道です。両社はいずれも厳しい経営環境に置かれますが、自治体などの支援で運行を継続するのは、鉄道ファンの皆さんならご存じのところでしょう。

いずれにしても、東京駅から木更津まで房総特急で1時間弱。そこから乗り換えて、久留里、上総亀山まではトータル2時間程度で到着できます。君津市も久留里地区について、観光交流拠点としての地域振興を目指すようです。

久留里線関連のコラムは以上ですが、検討会議が成果を挙げ、地域住民や来訪者の皆さんにとって良好な形で地域公共交通が維持・再生されることを願いたいと思います。

記事:上里夏生