昨今、地方ローカル線の存廃問題がマスコミをにぎわせています。ローカル線を抱える自治体は、経営効率化を志向する鉄道事業者と、存続を望む地域住民の間で板挟み――なのかもしれませんが、全国には自ら先頭に立ってローカル線の利用を促進する自治体もあります。代表例が北関東の群馬県です。
群馬県には上毛電気鉄道(上電)、上信電鉄(上信)、わたらせ渓谷鐵道(わ鐵)のローカル鉄道3社がありますが、各社の魅力をまとめて県内外に発信する方針です。県が実質主催するイベント「頑張るぐんまの中小私鉄フェア2023」が2023年10月1日、みどり市のわ鐵大間々駅で、盛況のうちに開催されました。3社は路線もばらばら、鉄道の性格も違いますが、県はなぜ共同PRするのか。取材ノートを読み返しながら解き明かします。
「ローカル私鉄合同の催しが開かれる」
中小私鉄フェアは2007年、上電の大胡電車庫(前橋市)で初開催されました。以降、上電、上信、わ鐵の持ち回りで継続され、10年を超す歴史を持ちます(コロナ禍の一時期は中断)。
私は初回から取材してきましたが、最初の情報は、少々意外なところからもたらされました。「群馬県でローカル私鉄合同の催しが開かれる」と教えてくれたのは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の鉄道支援担当者です。
整備新幹線を整備(建設)するJRTTは、一方で鉄道事業者に対する総合支援を手掛けます。
3社連携で利用促進を図る
群馬県とJRTTの関係。鉄道の世界では技術が日進月歩ですが、資金面や人材面に余裕のない地方鉄道は、新しい技術に触れる機会が限られます。
そこで群馬県は、3社を対象に技術セミナーや勉強会を開催。2007年のセミナーに講師として招かれたのがJRTTです。JRTTの担当者は県が鉄道ファンや一般市民向けて、中小私鉄フェアを開催することを知りました。
フェアの主催は中小私鉄等連携会議。若干、実態をつかみにくい名称ですが、アタマに群馬県を乗せて「(群馬県)中小私鉄等連携会議」とすれば、理解しやすいでしょう。
連携会議の主要メンバーは、県と上電、上信、わ鐵の3社。鉄道業界には日本民営鉄道協会、第三セクター等鉄道協議会といった業界団体があって勉強会やセミナーを開催しますが、県単位で中小の鉄道会社がまとまるのは比較的珍しい事例です。
3社の路線は上電が中央前橋―西桐生間、上信が高崎―下仁田間、わ鐵が桐生―間藤間で、直接の接続駅はありませんが(上電とわ鐵は路線がクロスしますが、共通の乗換駅はありません)、多くの人にアピールしたい思いは共通。わ鐵のイベントで上電や上信を知れば、「次は乗ってみよう」と思う人も現れます。

「地域資源を目に見える形に資産化」
前半は、若干堅い話になりました。後半は、わ鐵の大間々駅でのイベントをレポートします。
わ鐵のルーツは国鉄足尾線。足尾銅山の銅鉱を運んで日本の産業発展に貢献しましたが、1973年の閉山などで輸送量は減少。JR東日本が短期間運行した後、1989年に第三セクター鉄道に転換されました。

わ鐵が2013年に公表したのが「知的資産経営報告書」。報告書では、「観光や産業振興につながる沿線の地域資源を、社内外を合わせた人材の力で、目に見える形に資産化することが、わ鐵のDNA(遺伝子)」と宣言します。
洗浄機体験、DLの運転室乗車体験……
フェア会場の大間々駅には、数多くの鉄道体験イベントが用意されました。「普通列車車両に乗車して洗浄機体験」は、今や鉄道イベントの定番中の定番です。

「DL(ディーゼル機関車)・DE10の運転室乗車体験」にも、長い列ができました。わ鐵は全線非電化で、一般列車は気動車で運転されますが、客車編成のトロッコ列車をけん引するのがDE10、2両在籍します。全部で708両も製作されたDE10ですが、そろそろ廃車される車両も出始めています。
JRや秩父鉄道が友情出展
会場のブースを一回りしましょう。上電、上信、わ鐵の3社はそれぞれのグッズを発売。旅行業の免許を持つわ鐵は、2023年11月に集中開催する人気企画「線路跡を歩こう」への参加を呼び掛けました。
3社以外では、JR東日本高崎支社と、県境を越えて埼玉県の秩父鉄道が友情出展して、それぞれの沿線や車両を情報発信しました。
ステージイベントでは、ご当地アイドルの「あかぎ団」がミニライブ。メンバーで県南・佐波郡出身の天田真未さんは大間々駅の1日駅長を務め、「これからの紅葉シーズン、わ鐵の沿線にお出かけください」とPRしました。

記事:上里夏生
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