最近、鉄道ファンをザワつかせているのがJR川口駅です。上野を出た東北線が荒川を渡った埼玉県内の最初の駅。川口市は現在、各停タイプの京浜東北線だけが停車する川口駅に、上野東京ラインのホームを新設、中距離電車(中電)を停車させる駅改良を計画します。
これまで地元構想だった川口停車ですが、JR東日本がこのほど、川口市に概算事業費を提示したことで、実現の方向性が見えてきました。川口市は、なぜ巨額の費用を投じて中電を停車させるのか? 鉄道と沿線の関係を考えるモデルケースともいえそうな、「上野東京ラインの川口停車」を考えます。
「中距離電車停車のためのホーム増設」
「JR川口駅再整備、上野東京ライン停車」、「駅舎など建て替え、市が費用負担」、「早ければ2037年にも」ーー。
新聞各紙の見出しが踊ります。自治体などが事業費を負担する「地元誓願駅」(川口駅の場合は〝地元請願ホーム〟ですが)は鉄道ニュースの定番。しかし、川口駅に中電が停車するのは早くても13年後で、概算事業費は400億円前後。それだけの事業期間をかけ、事業費を投じて中電を停車させるのは、地域の未来が鉄道に託されるからです。
最近の動きを時系列で追います。川口市が2022年3月に公表した「川口駅周辺まちづくりビジョン」。「交通」の項目トップの「鉄道輸送力の増強」には、1行だけですが「中距離電車停車のためのホーム増設」と記載されます。
川口市は、2023年度予算に調査費を計上。調査結果を基にJR東日本に2023年11月、中電ホーム増設などを要請したところ、2024年1月31日にJR側が概算事業費を提示。奥ノ木信夫市長が2月8日夕の臨時会見で、市の考え方を示す「川口駅再整備基本計画(案)」を公表しました。
計画案は部外には未公表ですが、川口市市長室広報課のご厚意で、ポイントを要約してご報告します。
工期は10~12年
川口駅は線路が地上、駅舎が橋上の2層構造。南北方向の線路は6線が並びます。西側から①湘南新宿ライン下り、②同じく上り、③上野東京ライン下り、④同じく上り、⑤京浜東北線下り、⑥同じく上りーーで、京浜東北線の上下線間に島式ホームがあります。橋上駅舎には東西自由通路があり、北側にもペデストリアンデッキの自由通路があります。
駅改良では、上野東京ラインに上下線を挟む島式ホームを新設し、橋上駅舎も建て替えて機能強化。駅舎内の自由通路を拡張スペースに充て、ペデストリアンデッキから橋上駅舎に入る構造に変更します。

JRによる概算事業費は、①ペデストリアンデッキを屋根なしで拡幅、②同じく屋根付きで拡幅、③駅舎改築後に自由通路を復元ーーの3案を算出。概算事業費は、①389億円、②420億円、③431億円と試算しました。
事業費は川口市が全額を負担するわけでなく、一部に国庫補助金を充当。市側は今後、JRと協議した上で事業費を算定します。
スケジュール的には、パブリックコメントで実施した上で、2024年度12月市議会に諮って市側の考え方を集約。その上で、JRと基本協定を締結します。
JRが示した工事スケジュールでは、測量・設計が2~4年、実際の工期が10~12年で、合計12~16年。新聞の見出しにあった、「早ければ2037年にも」の理由です。
羽田空港に直行!?

川口市は、なぜそこまでして中電を停車させるのでしょう? 京浜東北線は大宮~大船間(根岸線区間も含む)の運行で、川口からは東京、品川、横浜などに乗り換えなしで直行できます。
上野東京ラインが停車すると、大宮や大船以遠、例えば宇都宮、高崎、小田原などと乗り換えなしで結ばれます。通勤通学に便利になるほか、東京や品川への所要時間が短縮できるメリットもあります。
もう一つ、見逃せないのはJR東日本が整備を進める「羽田空港アクセス線」。上野東京ラインはアクセス線に直通運転。川口~空港間は40分程度で結ばれます。アクセス線の開業予定は2031年度です。
本当に住みたい街大賞で上位の常連
ここで、川口という街を再考しましょう。年配の方ならご記憶かもしれない、吉永小百合さん主演の映画「キューポラのある街」。中小の鋳物工場が立地していた川口は、戦後日本の高度経済成長を支えました。
最近の川口は、住みたい街の上位常連。本サイトで紹介させていただいた、住宅ローン会社の「本当に住みたい街大賞」では2020年と2021年に連続1位、2022年も2位にランクされました。
審査員は、「東京にアクセスしやすく、住宅価格もリーズナブル。駅前開発が進む発展可能性に期待したい」とコメントしました。
しかし、現実は厳しく2021年2月に駅前の百貨店が閉店。
浦和駅、浜松町駅……
最後は、川口駅のようにホーム増設や快速が停車を始めた駅の前例。記憶をたどったら、近隣の浦和駅と、京浜東北線つながりで浜松町駅が思い浮かびました。
2000年代初頭までの浦和駅は、ホームのない湘南新宿ライン(路線的には東北貨物線)が高架上で駅を通過。京浜東北、宇都宮(東北)・高崎の両線は地上を走っていました。2005年から両線を高架に上げた後、2012年には湘南新宿ライン浦和駅にホームを増設。2013年3月のダイヤ改正で、浦和駅停車が始まりました。

京浜東北線は1988年から、日中時間帯の田端~田町間で快速運転がスタートしました。当初、浜松町駅は通過でしたが、2002年7月のダイヤ改正で新しく停車。
川口駅への中電停車はどう動くのか。続報を待ちたいと思います。
記事:上里夏生
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