和泉中央を発車する9300系電車。泉北高速の車両で2023年デビューの新鋭。
南海への経営統合を前に社章、ロゴが南海バージョンに書き換えられました(筆者撮影)

ルーツは明治初期の1885年に大阪~堺を結んだ阪堺鉄道。現在は電気鉄道を名乗るものの、初期の車両にはSLがずらり。これが関西私鉄の雄、南海電気鉄道です。

2025年末には開業140周年を迎える南海に今春4月、新しい路線が仲間入りしました。中百舌鳥(高野線、大阪府堺市)~和泉中央(同和泉市)間14.3キロの泉北線です。

泉北高速鉄道は、年度替わりにあわせて南海と経営統合。路線名も従来の泉北高速線から現在の名称に変わり、新しい歴史を刻み始めました。本コラムは南海泉北線の乗車ルポとともに、スビンオフで「南海名車3選」をお届けします。

1971年に開業、1995年に全通

大手私鉄の直営路線に生まれ変わった「南海泉北線」に乗り鉄 南海の名車もご案内します(大阪府堺市、和泉市)【コラム】
いかにもニュータウンの玄関口らしさを感じさせる和泉中央駅。いわゆる橋上駅で、駅周辺は戸建てや低層住宅が中心です(筆者撮影)

大阪のニュータウンは北が千里、南が泉北。鉄道は千里ニュータウンが北大阪急行と阪急千里線、泉北ニュータウンが南海泉北線です。泉北ニュータウンは大阪府の泉北丘陵開発事業として構想され、まちびらきは1967年、開発面積約1557ヘクタール。計画人口約18万人で、現人口約11万人です。

泉北高速鉄道の旧社名は大阪府都市開発。大阪府が出資する第三セクターで1965年設立。当初は、東大阪トラックターミナル(東大阪市)の運営を行っていました。

鉄道進出は1971年4月開業の泉北高速線中百舌鳥~泉ヶ丘から。栂・美木多(とが・みきた)、光明池と路線を伸ばし、開業24年後の1995年に和泉中央まで全通しました。駅の所在地は中百舌鳥~光明池5駅が堺市、光明池は堺市と和泉市の境界上で、終点の和泉中央が和泉市です。

南海泉北線には地元中心に、南方面への延伸構想もあるようですが、今のところ具体化の動きはありません。

有料特急「泉北ライナー」

南海泉北線は全線複線。泉北高速時代の車両は開業時の100系に始まり3000系、5000系、7000系、7020系、最新の9300系まで6形式です。100系は2000年までに引退、3000系も一部代替わりが進みます。

【参考】泉北高速鉄道の新型通勤車両「9300系」報道公開 デビューは8月上旬(※2023年6月掲載)
https://tetsudo-ch.com/12893609.html

列車種別は特急「泉北ライナー」、区間急行、準急、緩行(各停)の4種類。泉北線は起点の中百舌鳥を含めて全部で6駅なので、多くの列車は路線内各駅に停車します(泉北ライナーは中百舌鳥と深井、区間急行は中百舌鳥をそれぞれ通過します)。

2015年に登場した泉北ライナー、有料特急で難波~和泉中央を最短29分で結びます。

平日運行時間帯は朝ラッシュ時と夕方16時以降。都市鉄道で広く定着する、通勤ライナーの性格を持つ列車といえそうです。

「クイシニとその電動車」(電7系)

後半の同乗ルポの前に、スピンオフで南海の名車3選。

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名車3選その1・電7系。先頭車の特等車は1人掛けから4人掛けまでのテーブル(食卓)が配されました(写真:南海電気鉄道)

最初は1924年登場の電7系。大阪~和歌山間の急行電車で、ベテランファンには「クイシニとその電動車」として語り継がれます。クイシニは電車の記号で、ク=制御車(運転席)、イ=特等車(一等車)、シ=食堂車、ニ=荷物車(手小荷物室)の合造車。「浪速号」、「住吉号」など編成ごとに愛称名が付けられました。

木製で4両編成。戦前の電車で珍しいのは編成が幌(ホロ)でつながり、車両間を行き来できたこと。「関西鉄道界に南海あり」を印象付けました。

デラックス・ズームカー「こうや号」

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名車3選その2・20001系「こうや号」。写真は1961年の出発セレモニー。車両は当時の国鉄在来線「こだま号」と同じ赤とクリームの塗り分けでした(写真:南海電気鉄道)

続いて20001系(20000系)。

1961年にお目見えした高野線特急車、デラックス・ズームカー「こうや号」として親しまれました。

4両編成で、大きな曲面ガラスの前頭部はヨーロッパの特急列車を思わせます。

難波~橋本の平坦線、橋本~極楽寺の山岳線の双方で高性能を発揮。山岳特急のシンボルは3灯のヘッドライトでしょうか。1984年まで活躍、後継の30000系「こうや号(現・こうや)」の名を譲って引退しました。

ラピート、キタへ向かう!?

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名車3選その3・「ラピート」(50000系)。筆者前コラム「大阪・関西万博ルポ」で紹介の通り、万博バージョンの特別塗装車も運行されます(写真:南海電気鉄道)

現在の名車は、もちろん空港特急「ラピート」(50000系)。運行開始は1994年、〝30年選手〟です。通常は難波~関西空港ですが、臨時特急として和歌山市(駅)に顔を出すことも。現在は終了しましたが。2022~2023年に泉北ライナーとして難波~和泉中央を結びました。

今後の注目点が、2031年春開業を目指して建設が進む地下新線・なにわ筋線。新線に乗り入れるラピートは、現在のミナミ(難波)からキタ(うめきた=大阪駅)への進出が構想されます。

南海の車両では最近、いずれも元高野線の6000系(2両1編成)が静岡県の大井川鐵道、同じく2200系(南海では22000系。2両2編成)が千葉県の銚子電気鉄道に譲渡され、全国区で注目度が高まります。6000系は1962年、2200系は1969年にデビュー。南海の車両は文字通り〝丈夫で長持ち〟です。

ニュータウンらしさあふれる和泉中央

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これぞ大阪ミナミのシンボル・南海難波駅。駅ビル上部に南海マーク。周辺には「なんばスカイオ」、「パークスタワー」など南海の高層ビル群が建ち並びます(筆者撮影)
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難波から堺東まで乗車した6300系電車(旧6100系)。デビューは1970年で車齢50年を超えますが、古さは感じさせません(筆者撮影)

それでは、難波から和泉中央に向かいましょう。頭端駅の難波は9面8線のマンモス駅。高野線は東側4線です。

大阪市内の我孫子前までの沿線はやや建て込んだ印象ですが、大和川を渡って堺市内に入ると郊外鉄道の雰囲気に変わります。

堺東は駅ビルのある高野線拠点駅の一つ。三国ヶ丘ではJR阪和線と接続します。

泉北線が分岐する中百舌鳥は2面4線で、中央2線が泉北線(うち1線は到着線)。高野線を地下でくぐって分岐します。

泉北線は深井、泉ヶ丘と進むに連れ、ニュータウン鉄道らしさを増します。関東人の筆者が似た印象を受けたのは、同じニュータウン路線の北総鉄道。鉄道と幹線道路が並走。高層住宅が建ち並びます。

光明池駅南側には車両基地(光明池車庫)。終点の和泉中央は1面2線で、到着列車は難波、中百舌鳥方面に折り返します。駅周辺には複合公共施設や大学、美術館などがあり、ニュータウンらしい生活感やぎわいにあふれます。

グルメ店、体験ショップ、美術館……

南海は自社線に仲間入りした泉北線を情報発信します。駅に置かれるフリーペーパーでは沿線グルメ店、体験ショップ、公園などをPRします。

今回の経営統合のセールスポイントは南海との通算運賃値下げ。

子育て世代の沿線への住み替えを狙います。

泉北線は目立ったスポットはないものの、沿線は自然たっぶり。今回は大阪・万博取材の合間でしたが、いつかゆっくり再訪したいという好印象を胸に、和泉中央から南海の路線バスで次の目的地に向かいました。

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南海は140周年記念事業で2025年4月1日から運輸部門の制服を一新しました。デザイナーは沿線の大阪府岸和田市出身のコシノジュンコさん。デザイン変更は1993年以来32年ぶりで、フォーマルで洗練されたイメージ。技術部門の制服も変更します(写真:南海電気鉄道)

記事:上里夏生

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