JR東日本ブースでお披露目された「E10系」。デザインはスピード感を感じさせます(筆者撮影)

地球の歩き方ならぬ「展示・商談会の歩き方」……。

人それぞれでしょうが、筆者は事前に取材する出展者を決めることなく、会場を回りながら印象に残ったブースで話を聞くようにしています。

筆者流(?)は有力企業を見落として翌日、再度会場に足を運ばねばならない二度手間も多い代わり、ビッグニュースの芽を見つけ出せたりもします。

2025年11月26~29日に千葉市の幕張メッセで開かれ、3万9120人が来場した9回目の「鉄道技術展2025」。本コラムでは、印象に残った出展者をアトランダムに取り上げます。

JRグループ5社が勢ぞろい

JRで進化したのは展示方法。新型車両をドンと置いても(本物は持ち込めないので模型ですが)、「それ買います」という人はまずいません。アラブの超大富豪でもムリです。

しかし、新しい鉄道車両が目に留まれば「話を聞いてみよう」という来場者も現れます。鉄道会社の新車は、1カ月前に開かれたジャパンモビリティショーでいえば「コンセプトカー」(展示目的の試作車)。JRやメーカーは、鉄道技術展への出展方法を熟知してきた。そんな印象を受けました。

E10系初見参!(JR東日本)

JR東日本ブースに展示されたのは、次期東北新幹線車両「E10系」の模型です。喜勢陽一社長が、2025年3月の定例会見で構想を発表。地震対策などで安全機能を強化、荷物輸送専用ドアに代表される新機軸を盛り込み、快適な移動空間を創出します。

2027年秋以降に落成、2030年度営業運転を予定。JR東日本の担当者は、「E10系では、車内の過ごし方のバリエーションを広げたい」と話していました。

派手ゼロでも鉄道を進化させる技術

JR東海ブースで一推しされたのは、「炭素繊維素材を活用した東海道新幹線の大規模改修」。東海道新幹線は1964年の開業から2024年で60周年を迎え、施設の大規模改修が急務です。JR東海が採用するのは、コンクリート構造物をカーボン繊維で覆って劣化を防ぐ新工法。同様の課題を抱える鉄道会社も多く、土木エンジニアには参考になったはずです。

JR西日本からは「多機能ロボット」をピックアップ。高所作業の架線点検は危険と隣り合わせで、高性能ロボットが代行。JR西日本と日本信号、それに人機一体の3社がロボを共同開発しました。滋賀県草津市に本社を置く人機一体は、2007年創業のロボットスタートアップ。ユニークな社名そのまま、人とマシンの協業を志向します。

JR東海、JR西日本ともに地味といえば地味ながら、それぞれのブースからは作業のデジタル化に一定のハードルがある鉄道を進化させたいという意欲を感じ取れました。

電気分野のツートップが初登場

メーカーでは、日立製作所とシャープがそろって初参戦。日立は熱心で、筆者に開催前から来場を促すメールが届きました。

日立が目指すのは、世界一のフィジカルAI(考えて動く人工知能)の使い手。実践策が「HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)」です。意訳すれば「モビリティの超エキスパート」といったところでしょうか。鉄道では、列車、信号、インフラ管理を最適化するAIデジタルサービスを提供します。

次世代新幹線「E10系」からレール研磨機まで 「鉄道技術展2025」に見た鉄道の未来【コラム】
HMAXをイメージ化して売り込んだ日立ブース(筆者撮影)

シャープはLED照明が得意分野。大都市駅のホーム端部に設置が進む青色LED投光器は心理を落ち着ける効果があり、人身事故抑止が期待できます。

ブースに資料ならぬQRコード

ここで一服。一昔前の展示商談会、ブースごとに手渡される資料やパンフレットで帰りのバッグはパンパンになりましたが、最近はペーパーレス化が進行。ブースにQRコードを表示して、「興味ある方は説明書のダウンロードお願いします」が一般的になりました。

前半でも書きましたが、JRやメーカーはインパクトある展示物で、まずは足を止めてもらい、分野別コーナーで技術面のこだわりを説明します。

本コラムで取り上げた某企業は資料がなく、説明をお願いしたら学会誌に掲載された論文のページを開いて「ここを撮影して下さい」。こうした説明方法には賛否両論ありそうですが、筆者はこれで十分と思いました。

これからの鉄道技術展に期待

最後にワンポイント。

ジャパンモビリティショーには「スタートアップフューチャーファクトリー」のコーナーがあって、多くの新興企業が参加しました。

鉄道技術展でもスタートアップを探したのですが、あまり見付かりません(鉄道会社発ベンチャーはありました)。鉄道技術は独自に進歩。表現は不正確かもしれませんが、新興企業にとって参入には一定のハードルがあるかもしれません。

そんな中、話を聞けたのは名古屋市に本社を置くニートレックスという会社。戦前1934年創業の名門砥石メーカーは、10年ほど前から社内ベンチャーで鉄道分野に進出。「バッテリー式レール研磨機」を製品化して鉄道会社に売り込みます。

次世代新幹線「E10系」からレール研磨機まで 「鉄道技術展2025」に見た鉄道の未来【コラム】
社内ベンチャーから生まれたニートレックスの「バッテリー式レール研磨機」(筆者撮影)

鉄製品のレールは定期的なサビ取りが必要。従来は人手頼みだったレール磨きを自走する機械に置き換えて、鉄道会社の効率化を支援します。

鉄道業界では、大手・名門がスタートアップとコラボする事例が増えています。今は100年に一度のモビリティ革命。これからの鉄道技術展は出展者の情報発信に加え、業界の横のつながりを広げて技術革新を生み出す原動力になればと感じました。

鉄道技術展は隔年開催で、次回は2027年。主催の産経新聞社からは、2回目の「鉄道技術展・大阪」の2026年5月27~29日開催(インテックス大阪)がアナウンスされます。

記事:上里夏生

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