コロナ禍の影響もあってか、リーガだけでなく欧州各国でビッグクラブの乱調が目立つ今シーズンにあって、ソシエダが見せる安定感は異質なまでの輝きを放っている。02-03シーズンに若きシャビ・アロンソらを擁し、あわや優勝というところまで上り詰めた歴史を持つ古豪は、長い雌伏のときを経て、いよいよリーガ盟主の座を奪い取ることになるのかもしれない。
どんな相手でも対応できる古風なシステムならではの強み
シルバ(左)がチャンスをつくり、オヤルサバル(右) が決めるのが今季のソシエダの黄金パターン photo/Getty Images
第9節終了時点で首位。今季のラ・リーガはまだチームごとに試合数のバラツキがあるものの、得失点差プラス16にレアル・ソシエダの好調さが表れている。
イマノル・アルグアシル監督率いるチームの特長を一言で表すなら、「ややクラシックな[4-3-3]」だろうか。
少し古いと感じるのは、ビルドアップで形状変化がほとんどないからだ。自陣から攻撃を始めるとき、多くのチームがポジショニングを変化させている。MFがCBの間に下がる、またはSBとCBの間に下がる。そしてSBを高い位置へ押し出す。
右から左、左から右へとディフェンスラインでボールを動かしていく。SBのポジションは低いままで、MFの位置関係にも変化がない。つまり、相手からつかまりやすく、プレッシャーを受けやすい。にもかかわらず、ソシエダは簡単にプレスに潰されることがない。
このパスワークにジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナを重ねる向きもあるようだが、両者の共通点はMFトリオのクオリティの高さだ。ピボーテにマルティン・スビメンディ、インテリオールがダビド・シルバ、ミケル・メリーノ。この3人の技術の高さがあるので、形状変化なしでボールを運べている。
後方は4バックとスビメンディの5人がセット。この5人の間で位置関係を固定したままボールを動かしていく。インテリオールの2人はほとんどポジションを下げず、ハーフスペースの高い位置をキープする。
決して焦らず、理詰めで冷静 我慢強さが攻撃に結実する
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母国への復帰を果たしたダビド・シルバはまさにキーマン。ワンタッチで捌いてチャンスを創出するなど、多彩なテクニックとアイデアで攻撃に違いをもたらす photo/Getty Images
ソシエダは後方に無駄に人数をかけていない。ビルドアップ隊の5人に対して、相手が4人でプレスしてきても1人は余る。そこから前方へのパスを出すことができる。そのときに敵陣にソシエダの選手は5人いる。相手が6人としても相手の数的優位は1人だけだ。CFがトップに張っていればCB2人を足止めできるので、他は基本的に1対1である。そして、この1対1でシルバ、メリーノに優位性がある。
1対1といっても、シルバとメリーノは相手から捕まりにくい中間ポジションをとるのが上手い。そこでパスを受け、相手2人を引き付け、即座に捌く。この球離れのよさが、黄金時代のバルサを連想させるのだろう。
戦況が読めてイメージの共有ができる3人がいる以上、彼らをボール確保のために下げるのはむしろ無駄なのだ。
ソシエダの組み立てには強引さがない。理詰めで冷静、抑制の効いた淡々としたスタイルは確かにかつてのバルサ的であると同時に、サポーターのいない観客席に囲まれた中で試合を行う現在の状況が妙に似合っている。
バスクらしい“熱さ”も持ち味 若手の成長でさらなる躍進も
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抜群の身体能力で“イブラ2世”の異名をとるイサク。彼のような若手が波に乗り始めれば、今季のソシエダは本当に止められないチームになるだろう photo/Getty Images
そうはいってもバスクの雄。球際の激しさや運動量といった伝統も受け継がれている。
1人はアドナン・ヤヌザイ、アンデル・バレネチェアのように外に張ってプレイするタイプを使い、セカンドストライカー的なオヤルサバル、ポルトゥと組み合わせる。オヤルサバルとポルトゥは相手のCBとSBの間にポジションをとり、そこから直接的にゴールへ迫っていく。
スーパーなFWはいないが、着実に崩していく組み立てから裏をとる攻撃で9試合20ゴールをあげている。21歳の逸材アレクサンデル・イサクがブレイクすれば、さらに得点力は増すかもしれない。守備もロビン・ル・ノルマンを中心に固く4失点。攻撃でポジションを崩さないことが守備の安定につながっている。
下部組織出身者の多さもレアル・ソシエダの特長だ。トップ登録26人中、16人が下部組織出身。現在の主力は外部で育った選手が多いとはいえ、半数近くがユース上がり。
バスク地方は昔からフットボーラーの宝庫といわれてきたが、バスク人によるバスクのスタイルを築き上げた結果が現在の好調を支えている。安定感のあるシステムと冷静な戦いぶり、高いポテンシャルを持つ若手の覚醒、そしてバスク人の持つ闘志。これらが噛み合ったとき、この古豪のさらなる躍進を我々は見ることになるだろう。
文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)251号、11月15日配信の記事より転載