進化するPSG Photo/Getty Images
静かなる革命だ
「今や現実的であることが求められる。これ以上、派手できらびやかなものは求めない。
これは2022年6月、『Le Parisien』のインタビューにてパリ・サンジェルマンのナセル・アル・ケライフィ会長が放った一言である。だがその当時、その言葉を真剣に受け止めたものはほとんどいなかった。PSGがいかにして今の強さを得たのかを、ジャーナリストのピート・ホール氏が伝えている。
当時のPSGにはリオネル・メッシ、ネイマール、セルヒオ・ラモスといった“銀河系軍団”が名を連ねていた。しかし、現在はその全員を放出し、さらに長年の中核だったマルコ・ヴェッラッティも放出。続いてキリアン・ムバッペが去ったことで“個”より“集団”を優先する、かつてない改革が始まっていた。
こうなることは、QSIが2011年にクラブを買収した日から始まっていたようだ。買収が完了し、事実上国営クラブとなった当時、PSGはフランスサッカー界を支配する立場からは程遠く、2008年には16位、2010年には13位と低迷していた。
アル・ケライフィ会長は、就任してすぐに変革の3段階のうち最初の段階である財政安定を目指し、次の段階でクラブを“ブランド化”をして、ズラタン・イブラヒモビッチやデイビッド・ベッカムら大物を次々と獲得し、2013年には19年ぶりのリーグ制覇を果たした。「派手な時代を長く続けすぎた」と関係者は振り返るが、当時はこの二つの段階が必要で、クラブの知名度を世界レベルに押し上げ、スター選手を呼び寄せる土台を築いたのだという。
そして今、最後の段階が始まっている。ネイマールやメッシ、そして象徴的存在のムバッペを放出することで、“個”の時代に別れを告げた。
移籍の方針も明確になっており、昨夏の新加入選手の平均年齢は21歳2か月。これはクラブ史上最年少となる。育成型クラブとしての色を強めており、ワレン・ザイール・エメリのような新星を続々と輩出している。今もクラブへの投資は行われているが、対象は“未来ある才能”に絞られたようだ。さらに、選手の売却からも多額の収益を上げている。
さらに画期的なのは、ピッチ外への影響だ。クラブ全体に成果報酬制度が導入され、スタッフ全員が勝利の恩恵を共有する形となった。フランス初の取り組みである。商業面では『NBA』がパリのバスケットボールフランチャイズについてQSIにアプローチしている。スター軍団がいなくなった今でも、決して魅力が損なわれたわけではない。
全てを手に入れた今のPSGにとって、チャンピオンズリーグ制覇だけがまだ成し遂げられていない栄光だ。