ジョージア代表を応援するため、家族そろってスタジアムへ向かうサポーター photo/Riku Sato
愛国心がピッチを揺らす
ヨーロッパは今、2026年FIFAワールドカップ予選の真っ只中にある。54の国が16の出場枠を懸けて鎬を削る。
そんな中、歴史を動かそうとしているのが東欧の小国ジョージアだ。FIFAランキングは67位。人口は約370万人で静岡県とほぼ同じ、国土は日本の5分の1ほどしかない。だがEURO2024で初出場にしてベスト16入りという快挙を成し遂げ、今や「小国」の枠には収まらない存在感を放っている。迎えた2026年予選、第1節でトルコに惜敗しただけに、第2節ブルガリア戦は絶対に落とせない試合だった。現地在住の筆者が足を運んだボリス・パイチャーゼ・スタジアムは、その熱狂を物語っていた。
同スタジアムは名門ディナモ・トビリシの本拠地で、2015年にはUEFAスーパーカップも開催された。収容人数は54,549人でラグビー代表の試合にも使用される。市内中心部からのアクセスも良好。バスは90分乗り放題で1ラリ(約55円)、タクシーも手頃な価格で利用でき、気軽に訪れることができる。
大雨に見舞われた当日、観客は減るだろうと思っていた。
敷地内にはショップが立ち並び、ディナモ・トビリシのオフィシャルストアも営業していた。店員は「リーグ戦では観客は少ないけど、代表戦は別格だよ」と笑顔で話す。国内リーグの人気はまだ欧州西部には及ばないが、代表戦となれば話は別である。
スタンドに足を踏み入れると、試合前からすでに大歓声が鳴り響いていた。小さな子どもまでが自発的にチャントを歌い出し、大人たちがそれに呼応する。世代を超えた一体感に思わず鳥肌が立つ。観客全員がピッチ上の一挙手一投足に反応していた。
試合はジョージアが序盤から積極的に仕掛け、相手陣内へ何度も侵入したが、ブルガリアの堅守に阻まれてなかなかゴールを奪えなかった。
興奮冷めやらぬ中、ハーフタイムに隣席の男性が話しかけてきた。
「今日は最高だ! スペインは強いけど、俺たちだってW杯に行ける!」
誇らしげな表情に頷き返すと、その手にはタバコが。驚きつつも周囲を見れば半数近くが紫煙をくゆらせていた。警備員も注意することなく、それがこの国の日常であることを思い知らされた。駅のホームなど、町の至る所でタバコを吸う人を見かけるが、スタンドでの喫煙はジョージアならではの風景だった。
後半立ち上がりはブルガリアが盛り返して、チャンスを作ったが、波に乗るジョージアは一味も二味も違った。試合巧者のようにファウルで相手の流れを断ち切り、再びリズムを取り戻す。後半65分、今季からビジャレアルに新加入したジョルジュ・ミカウタゼが3点目を決め、勝負を決定づけた。
私のジョージア人の友人たちは愛国心が非常に強く、事あるごとに「ジョージア人は国を愛してやまない」と語っていたことが脳裏に浮かんだ。この愛国心こそがジョージア代表の原動力なのかもしれない。
試合は3-0の快勝。勝ち点3を積み上げ、2連勝のスペインに次ぐ2位に浮上した。まだ戦術的には粗削りな部分もあるが、クワラツヘリアとミカウタゼを中心にしたフィジカル重視の攻撃、ギオルギ・ママルダシュビリを軸とした堅守がかみ合っている。そして何より、国民が生み出す一体感こそがジョージアの最大の武器だと確信した。悪天候をものともせず、愛国心むき出しで自由に声を張り上げるサポーター。その姿は、日本のファンが学ぶべき応援スタイルでもある。
試合後に声をかけた女性サポーターは満面の笑みで言った。
「代表はこの国の英雄よ。私たちは彼らを信じているわ」
国民が作り出した鳥肌が立つほどの熱狂の光景は、記憶から消えることはないだろう。これからはアウェイでの厳しい戦いが続くが、ブルガリア戦で示した実力があれば、初のワールドカップ出場も決して夢物語ではない。ジョージアがさらにスポットライトを浴びる日が来ることを、心から願いたい。
文/佐藤 陸(theWORLD編集部)