名選手が必ずしも名監督になるとは限らないが、名選手が名監督になる可能性が高いのは紛れもない事実だろう。2018年W杯に優勝したフランス代表のディディエ・デシャン、2022年W杯に優勝したアルゼンチン代表のリオネル・スカローニには、いずれも同国の代表経験があった。
デシャンは現役時代にもW杯優勝を経験している。

 北中米W杯に出場する国々のなかにも、現役時代に“レジェンド”だった選手が監督を務める国がある。とくに注目したいのは、指揮官として初挑戦、あるいは2度目の挑戦となる監督たちだ。ファビオ・カンナバーロ(ウズベキスタン)、サブリ・ラムシ(チュニジア)、ストーレ・ソルバッケン(ノルウェー)、ホン・ミョンボ(韓国)、ブビスタ(カーボベルデ)の5人は爪痕を残せるだろうか。

カンナバーロは経験豊富 ラムシはもはや“日本通”

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ウズベキスタンは国際大会の経験が少なく、この不安を払拭するべくカンナバーロ(右)を指揮官に迎えた Photo/Getty Images

 ファビオ・カンナバーロは2006年W杯に優勝したイタリア代表のキャプテンを務めていた。身長175センチでCBとしては小柄だったが、卓越したポジショニング、体幹の強さ、技術力の高さ、駆け引きのうまさでカテナチオを支え、アズーリを4度目の世界一に導いた。

 2010年W杯でもキャプテンを務めたが、グループステージで敗退して代表引退を決意。イタリア代表歴は136試合で、フィールドプレイヤーとしては最多となっている(GKジャンルイジ・ブッフォンが176試合で1位)。なお、アズーリは2014年W杯こそ出場権を得たが、2018年W杯、2022年W杯は出場権を獲得できなかった。復活するためには、フランコ・バレージ、パオロ・マルディーニ、そしてこのカンナバーロのような絶対的な精神的支柱が必要なのかもしれない。

 現役引退後のカンナバーロは広州恒大、アル・ナスル、天津権健などの監督を務め、アジアサッカーのなかで指導者として経験を積み上げていった。マルチェロ・リッピの後任で中国代表の暫定監督を務めたこともあったが、これはわずか2試合で辞任している。

 その後、ベネヴェント、ウディネーゼ、ディナモ・ザグレブなどの欧州のクラブで監督を歴任し、2025年10月にすでに北中米W杯出場を決めていたウズベキスタン代表の監督に就任した。

ウズベキスタンサッカー連盟はこの人事について、「名高いスペシャリストであり、3度のW杯に出場して優勝の経験もある。(カンナバーロ氏が)北中米W杯に向けた準備を進めるわれわれの代表を率いていく」とコメントしている。

 ウズベキスタン代表にはアブドゥコディル・フサノフ(マンチェスター・シティ)、エイドル・ショムロドフ(バシャクシェヒル/トルコ)など欧州各国のリーグでプレイする選手がいる一方で、代表には国際大会の経験がない。こうした不安を払拭するべく、W杯経験が豊富なカンナバーロが招聘されている。出場権を勝ち取ったティムル・カパーゼ前監督もアシスタントコーチとして残っており、移行はスムーズにいくと考えられる。

 ウズベキスタンのサッカーは堅実だが、意外と柔軟性にも富んでいる。3バックをベースにしながら、守備時は前線でプレスをかけるときは[4-4-2]、リトリートするときは[5-4-1]と形を変える。ボールを持ったときは前線が縦にも斜めにも動き、そこに2列目が加わることで攻撃に厚みを作り出す。これといった強烈な個性はないが、人がよく動き、丹念に設計されたサッカーだという印象を受ける。

 カンナバーロとウズベキスタン代表の契約は2年。ここで結果を残したなら、遠くない将来にアズーリの監督を務めているかもしれない。

 チュニジア代表を指揮するサブリ・ラムシは、日本にも馴染みがある人物だ。
現役時代にパルマで中田英寿とプレイしていた。インテルではアルベルト・ザッケローニ(元日本代表監督)のもとプレイしていた。さらに、2014年W杯ではコートジボワール代表の監督を務め、初戦で日本代表と対戦している。このときはエースのディディエ・ドログバをベンチスタートとし、後半途中から投入して日本代表に2-1で勝利している。日本サッカー界にとっては、嫌な記憶が残る一戦である。

 2026年1月にこのラムシがチュニジア代表の監督に就任した。現役時代はフランス代表でプレイしたが、ラムシのルーツはチュニジアにあり、同国の国籍も持っている。年末年始にかけて開催されたアフリカネーションズカップ2025がラウンド16敗退に終わったことで、チュニジアサッカー連盟は監督交代を決意し、ラムシが招聘されている。

 現在のチュニジア代表は、ハンニバル・メイブリ(バーンリー)、エリス・スキリ(フランクフルト)など欧州で活躍する選手に、フェルジャニ・サシ(アルガラファ/カタール)、モハメド・アリ・ベン・ロムダン(アル・アハリ/エジプト)など国外でプレイする選手を中心に構成されている。Jリーグでプレイするイッサム・ジェバリ(G大阪)も代表候補となっている。

 日本代表とチュニジア代表は2002年W杯で対戦しているし、北中米W杯でもグループステージで対戦する。チーム、監督、選手、いずれもなにかと日本と縁があり、お互いを知り尽くしている。
直近では2023年10月のキリンチャレンジカップで対戦し、2-0で勝っている。ただ、それは数年前の話で、その後のチュニジア代表は北中米W杯アフリカ予選を9勝1分け、22得点0失点で勝ち上がってきている。加えて、W杯で日本代表を下した経験がある監督を迎えている。ラムシが指揮するチュニジア代表は、日本代表にとってやっかいな相手だと言える。

ソルバッケンが指揮するノルウェーは不気味な存在

[特集/監督からチームが見えてくる 03]選手時代の経験を活かせるか? 北中米W杯に挑むレジェンド指揮官たち

指揮官ソルバッケンとエースのハーランドが話し合う。ノルウェー代表は勢いがあり、北中米W杯では上位進出が予想される Photo/Getty Images

 北中米W杯欧州予選を8試合全勝、37得点5失点で突破したノルウェー代表は、本大会で旋風を巻き起こす可能性がある。なにしろ、ライバルとみられていたイタリア代表にもホームで3-0、アウェイで4-1の完勝で、追随を許さなかった。監督を務めるのはストーレ・ソルバッケンで、現役時代に1998年W杯に出場している。2001年に引退するまでに代表歴58試合9得点を誇る長身MFで、指導者となってからはコペンハーゲン、ケルン、ウォルバーハンプトンなどで監督を務めた。

 ノルウェー代表の監督に就任したのは2020年12月で、そこから継続してチームを率いている。2022年W杯欧州予選はオランダ、トルコと同組で3位に沈んだが、4年間で着実に力をつけてチームを7大会ぶり4回目のW杯に導いている。北中米W杯は監督として初挑戦になるが、現役時代に大会を経験済み。初出場になる選手たちとって、ソルバッケンは指揮官であるとともに、大舞台の雰囲気を知っている頼もしい代表OBでもある。



 現在のノルウェー代表はタレントが揃っている。ゴールを奪うために普段からストイックな生活を送ってコンディションを整えているアーリング・ハーランドを筆頭に、同じく屈強な身体をもつアレクサンデル・セルロート。稀代のプレイメイカーであるマルティン・ウーデゴー。運動量が多く、疲れを知らないパトリック・ベルグにサンデル・ベルゲ。サイドでプレイするオスカー・ボブ、アントニオ・ヌサ……。

 ノルウェー・サッカー界は代表、クラブともに好調で、CLではボデ/グリムトが快進撃を続け、プレイオフでインテルを下して16強に進出している。ベルグはこのボデ/グリムトの下部組織で育った生え抜きで、クラブではキャプテンを務めている。ソルバッケンは国内、国外のリーグで存在感を発揮しているこうした選手たちをまとめ、攻守ともに連係の取れたチームを作り上げている。

 基本となるスタートポジションは[4-3-3]だが、中盤から前線はフレキシブルだ。アンカー+2人のインサイドハーフ+3トップ、ダブルボランチ+2人の攻撃的MF+2トップなど、各選手が複数のスタイルに対応できる。いずれにしても共通するのはゴール方向への推進力があることで、ボールを失ったときのプレスバックが早く、マイボールにしたあとの切り替えも早い。なにより、前線にはボールを引き出し、収めることができて、「個」の力でゴールもできる世界屈指のゴールハンター、ハーランドが君臨している。


 北中米W杯ではフランス代表、セネガル代表との対戦が決定している。国際大会の経験では両国に及ばないノルウェー代表が、どんなパフォーマンスをみせるか。ソルバッケンのマネージメントのもと平常通りの力を出せたなら、ラウンド32、さらにはその先へ勝ち上がると考えられる。

雪辱を期すホン・ミョンボ ブビスタは大物食いを狙う

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韓国代表のホン・ミョンボ(左端)は指揮官として2度目のW杯挑戦になる。GS敗退に終わった2014年W杯の雪辱を果たしたいところだ Photo/Getty Images

雪辱を期すホン・ミョンボ ブビスタは大物食いを狙う

 2022年W杯以降、韓国代表はユルゲン・クリンスマンが監督を務めていたが、2024年2月に成績不振を受けて解任。その後、人選が決まらず難航していたが、7月になってホン・ミョンボの監督就任が正式発表された。このときホン・ミョンボは蔚山現代の監督を務めていたが、同国サッカー界のレジェンドを韓国サッカー協会がクラブから引き抜く形だった。

 ホン・ミョンボは大学生だったときに出場した1990年W杯を皮切りに、2002年W杯まで4大会連続出場。2002年W杯はキャプテンとして4強入りに貢献するなど長きに渡って代表を支え、歴代2位となる韓国代表136試合の数字を残している(ソン・フンミンが記録更新中)。現役時代は平塚(現湘南)、柏などでプレイした時期もあり、日本でもレジェンドとされる。

 今回は10年ぶりの代表監督就任となった。前回は2014年W杯を戦ったが、グループステージ1分2敗で敗退したことを受け、契約は残っていたが大会後に自ら辞任している。

ホン・ミョンボにとって北中米W杯はこのときの雪辱を果たさなければならない舞台であり、指導者として経験を積んで臨む2度目の大舞台になる。

 韓国代表にはソン・フンミン、イ・ガンイン、ファン・ヒチャン、イ・ジェソンなど、「個」の能力が高い選手たちがいる。クリンスマンの解任で一時は低迷が懸念されたが、ホン・ミョンボのもとパスをつなぐところはつなぎ、急ぐところは縦に早いサッカーを展開するなど、状況に応じた戦いができるチームに仕上がっている。北中米W杯アジア予選では中東勢のなかに東アジアから1カ国だけ放り込まれたが、粘り強い戦いをみせて6勝4分け。負けなしのグループ首位で出場権を獲得している。

 ホン・ミョンボは選手として4回、監督として1回のW杯出場経験がある。これだけの経歴を持つ人物は、世界のなかでもそうはいない。韓国代表はこれ以上の選択はない最高の指揮官のもと、北中米W杯を戦うことになる。

 カーボベルデをW杯初出場に導いたのはブビスタ(本名ペドロ・レイタオ・ブリト)で、スペイン、アンゴラ、ポルトガルなどのクラブでプレイした経験があり、カーボベルデ代表でも国際Aマッチ21試合に出場している。引退したのは2006年で、翌年の2007年にカーボベルデ代表のアシスタントマネージャーに就任。その後、いくつかのクラブで監督を務め、2020年1月に代表監督に就任している。

 ブビスタが指揮官となったカーボベルデ代表は、アフリカネーションズカップ2021の出場権を獲得してベスト16に進出。アフリカネーションズカップ2023にも連続出場し、ベスト8の成績を収めるなど存在の大きさを徐々に示していった。そして、北中米W杯アフリカ予選ではカメルーン代表、リビア代表などと同組になり、2位カメルーンに勝ち点4差をつけて史上初のW杯出場を決めている。

 カーボベルデ代表は基本4バックで、[4-2-3-1][4-3-3]を使い分ける。ダイロン・リブラメント(カーザ・ピア/ポルトガル)を1トップに、アフリカ予選では36歳のライアン・メンデス(イグディルFK/トルコ)がキャプテンを務めてトップ下や右ウイングでプレイした。ブビスタはもちろん、これらの選手にとって北中米W杯ははじめての大舞台になる。

 とはいえ、カーボベルデ代表にはポルトガル、トルコ、イスラエルなど欧州のクラブでプレイする選手が多い。本大会ではスペイン、サウジアラビア、ウルグアイというW杯常連国と対戦するが、雰囲気に飲まれて力を発揮できないということはないだろう。アフリカ予選ではホームでカメルーン代表に1-0で勝利している。こうした戦績を考えると、むしろ侮れない国だと言える。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD315号、3月15日配信の記事より転載

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