笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。
7月26日(土)の放送は、JICA(国際協力機構)のCDO(最高デジタル責任者)戸島仁嗣(とじま・ひとし)さんがゲストに登場。JICAの活動内容や開発途上国でのDXの取り組みについて伺いました。

「デジタル/DX」で開発途上国の社会課題を解決? その背景や...の画像はこちら >>

(左から)戸島仁嗣さん、笹川友里



戸島仁嗣さんは京都大学法学部卒業後、現JICAの前身となる海外経済協力基金(OECF)で勤務を開始。旧国際協力銀行(JBIC)を経て、2008年からJICAで開発協力事業に従事。コートジボワールの他、タイ事務所次長、モロッコ所長、フランス所長と、計12年近くにわたり海外勤務を経験。2023年にCDOに就任し、現在は理事長特別補佐を務めます。

◆JICAが担う“3つの協力形態”

JICAとは、日本政府による開発途上国向けの支援を一元的に担う組織で、日本のODA(政府開発援助)の実施機関として大きく3つの協力形態があります。

【技術協力】
日本人専門家を途上国に派遣し、技術の移転や指導をおこなう。

【有償資金協力】
鉄道・道路・発電所・上下水道といった大型インフラ事業に対する融資や出資。

【無償資金協力】
小規模な農村開発や機材整備などに対し、無償で資金を提供。

ほかにも「海外協力隊」で知られるボランティア事業、民間企業の海外展開を支援する「民間連携事業」、地震や津波といった自然災害に対応する「国際緊急援助」など、非常に多岐にわたります。

また、東京の本部を中心に国内には15ヵ所の地域センターがあり、海外にも約100ヵ所の事務所や支所を展開しています。
戸島さんは「職員は全体で約2,000人おり、各国の現地スタッフを合わせると、世界全体では数千人規模になります。ただ、先進国はフランス(パリ)と米国(ワシントン)の2拠点だけで、あとは途上国に所在する事務所です。地理的なものや歴史的な関係もあってアジアのほぼすべての国には事務所があり、アフリカや中南米にもたくさん拠点を持っています」と補足します。

◆JICAが掲げる「DXビジョン」とは?

JICAにCDOの役職が誕生したのは2021年のこと。その後、2023年に2代目CDOとして戸島さんが任命されました。「JICAとしては民間企業に比べてデジタルの取り組みがやや遅れたところはありますが、事業面はもちろん、組織そのものの変革も含めてDXを進めています」と話します。

ここで笹川が「DXを進めるうえでJICAのビジョンはありますか?」と質問すると、戸島さんは2022年に策定された「DXビジョン」について言及。これは、2026年度までに実現を目指す長期計画で、“3つの変革と9つのアクション”が柱となっています。

JICAの「DXビジョン」3つの変革①【事業を変える】

JICAでは“デジタルによる革新的な開発インパクトの創出”を目指しており、具体的なアクションとして以下の3点を掲げています。

・デジタルを活用した新しい価値の創出
・革新を生み出す「共創」の推進
・多様な人材のネットワークの強化

JICAの「DXビジョン」3つの変革②【人を変える】

JICAスタッフ一人ひとりの変革が求められます。そのアクションは以下の通りです。

・激変する世界に俊敏・柔軟に対応するマインドセット
・デジタルスキル及びリテラシーの向上
・多様性を尊重した勤務環境の整備

JICAの「DXビジョン」3つの変革③【組織を変える】

業務プロセスから組織基盤に至るまで、全体的な変革が進められています。
そのアクションは以下の通りです。

・効率的かつ効果的な業務プロセス、システムの確立
・データに基づいた組織、事業運営の浸透
・強靭なデジタル基盤の整備

◆開発途上国では最新のデジタル技術を導入しやすい?

前述の通り、JICAの事業は開発途上国でおこなわれています。そのような国・地域におけるDXは、単に技術を導入するだけではなく、国の状況に応じて慎重かつ柔軟な対応が求められます。

さらに、戸島さんは「だいたいの途上国は通信インフラが整備されていなかったり、デジタル人材が不足したりしているほか、“都市部と農村間”“男女”“世代間”における格差、さらにはサイバーセキュリティについても非常に脆弱な部分があり、こういったところが大きな課題、チャレンジになっています」と説明。

一方、既存のインフラが未整備な環境だからこそのメリットもあるとし、「(既存の技術が浸透していないなか)最新技術やサービスが一気に導入できる、いわゆる『リープフロッグ現象』がおきやすく、いろんなことを試しやすい環境だと思います」と言います。

そのなかで、戸島さんは注目している取り組みとして「JICA DXLab」を挙げ、「開発途上国の社会課題の解決に向けて、優れたデジタル技術を持った企業の皆さん(デジタルパートナー)と連携をして、デジタル技術の実証実験をおこないます。非常に実験的なJICA独自のプログラムになっています」と説明します。

例えば、「デジタル公共インフラ(DPI)」整備の一例として、「デリー・トランスポート・スタック(Delhi Transport Stack)」と呼ばれる施策をインドの首都・デリーで実施中とのことで、「様々な運輸セクター関係者がもつスタック(ある種のデータ構造・かたまり)の相互での活用を通じて“効率的・効果的な公共交通機関の利用方法を提供する”という革新的な取り組みです。特にデリーはJICAの協力で整備した地下鉄(メトロ)もありますが、バス、自動車、二輪車(リキシャ)などいろんな交通手段があって非常にゴチャゴチャしています。そこで、渋滞緩和や効率化を図るために、デジタルデータを分析しながら、市民の90パーセント以上の方々に公共交通機関を使っていただくことを目標にした、長期的な取り組みを実験的におこなっています」と、公共と民間の連携による社会的課題解決の未来を語りました。

次回8月2日(土)の放送は、引き続き戸島仁嗣さんをゲストに迎えてお届けします。開発途上国におけるDXの取り組みについてなど、貴重な話が聴けるかも!?

<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/
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