作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。7月27日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話7~」をオンエア。
村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届けする好評の「村上の世間話」シリーズ。フランス・パリで感じたことなどについて語っていただきました。

村上春樹 パリの街を歩くと、フランソワ・トリュフォーの映画「...の画像はこちら >>


◆Astrud Gilberto「You Didn't Have To Be So Nice」
フランソワ・トリュフォーの映画に「恋愛日記」というのがあるんですが、ご覧になったことありますか? とてもユニークで面白い映画です。女性の脚に異様に惹かれる男の話で、街を歩いていて、フレア・スカートが風に揺れて女性の美しい脚がちらりと見えると、彼はあっという間に恋に落ちてしまいます。そして熱く口説きまくる。トリュフォーの自伝的色彩の濃い話だと言われていますけど。

この映画は、そのスカートの揺れ方、脚の見え方の描写、撮影が実にうまいんです。この映画を観て以来僕は、パリの女性のスカートの着こなし方ってほんとに素敵だなと思うようになりました。そして実際にパリに行って、確かにそうだなと自分の目で確認しました。恋にまでは落ちませんでしたけど。
しかし、この間久しぶりにパリを訪れて、街に出てびっくりしたのですが、最近のパリの女性ってほとんどスカートをはいていないんですね。だいたいみんなパンツスタイルです。
いったいパリの女性に何が起こったんだろうと思わず首をひねってしまいました。

フランスの人に「どうしてフランスの女性はスカートをはかなくなったんでしょう」と聞くと、「性犯罪を用心しているんじゃないか」とか、「たぶんフェミニズムが関係しているんだろう」とか言われました。これという定説はないみたいですが。でもスカートが風にひらりと揺れないパリの街って、なんとなく淋しいですね。トリュフォーさんが生きていたらきっと残念がることでしょう。
日本でも盗撮なんかが増えてきて、これじゃそのうちにスカートをはく女性が街から消えてしまうんじゃないかと、僕なんかはひそかに危惧しております。そういうの、やめましょうね、ほんとに。

アストラッド・ジルベルトの「ママと歌おう」を聴いてください。曲はラヴィン・スプーンフルのヒット・ソング「You Didn't Have To Be So Nice」です。日本でシングルカットされたとき、こういうタイトルになりました。

<番組概要>
番組名:村上RADIO ~村上の世間話7~
放送日時:7月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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