今回は、天才女性シンガー・ソングライターと謳われたローラ・ニーロを特集。自身が自作曲を歌ったバージョンはなぜかあまりヒットしなかったローラ・ニーロですが、多くのアーティストが彼女の楽曲をカバーしたことで、大ヒット。ローラ・ニーロの音楽が大好きで、かねてから彼女の特集をおこないたいと思っていたという村上DJが、魅力的で印象的な名曲の数々を、心を込めて選曲しました。
この記事では後半1曲とクロージング曲、今日の言葉について語ったパートを紹介します。
Suzanne Vega「Buy And Sell」
ローラ・ニーロはデビューした頃から、女性に人気のある歌手でした。とりわけ若い女性、女子大生に熱烈なファンが多かったんです。若い女性が感情移入しやすい音楽だったし、彼女のまとっていた「都会の妖精」風の独特の雰囲気も、その強烈な個性や自立心も、彼女たちの憧れの対象になったんでしょうね。ちょうどフェミニズムやウーマンリブの運動が台頭してきた時代でした。あと、ゲイの男性ファンもたくさんいたみたいです。どうしてかはわかりませんが。
歌手のスザンヌ・ヴェガはローラ・ニーロについてこのように語っています。
「彼女は私たちの生きている世界についての曲を書いた。
ニーロさんはそのように女性には人気があったけど、実生活ではあまり男性運に恵まれなかったみたいです。見栄えの良い男にとことん夢中になって、やがてうまくいかなくなってこじれる……というパターンが多かったみたいですね。それなりに多くの男性と付き合って、一度は結婚もしたんだけど、どのロマンスも長くは続かなかった。1980年代に入ってからはフェミニズムに傾倒し、ヴィーガンになり、動物愛護にのめり込み、インド哲学に傾倒し、シングルマザーになり、ついにはレズビアン、あるいはバイであることを半ば公にして、女性画家と行動を共にするようになります。こちらのほうはうまくいって、亡くなるまで彼女とは親密な関係が続いたみたいです。よかったですね。
そのようにライフスタイルが変化して行くにつれて、彼女の作る音楽もやはり変化を遂げていきます。彼女はこう語っています。
「若い頃、私の書く曲は誰かが私のハートを引き裂くか、あるいは私が誰かのハートを引き裂くという内容のものだった。大抵のソングライターはそういう曲を書くわよね。まるでそれが唯一のハートの使い途(みち)であるかのように。
スザンヌ・ヴェガが歌います。「Buy And Sell」。ローラのデビュー・アルバムに入っていた曲です。「Buy And Sell」という名前のストリートの歌です。そこではいろんなものが売り買いされます。コカインやらビール、愛やら、夢やら。
<クロージング曲>
Roy Ayers「Stoned Soul Picnic」
今日のクロージング音楽はジャズ・ヴァイブラフォン奏者、ロイ・エアーズのグループが演奏する「ストーンド・ソウル・ピクニック」です。
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ローラ・ニーロの音楽特集、いかがでしたか? 少しなりとも気に入っていただけたとしたら、ローラ・ニーロ・ファンの僕としてはとても嬉しいです。今となっては、なかなか耳にする機会のない種類の音楽みたいですからね。でもローラ・ニーロの残した曲自体はあまり聴かれなくなったかもしれないけど、彼女の影響を受けたミュージシャンは数多くいて、彼女の自由な精神は、そのDNAは、今でも音楽の世界に脈々と生き続けています。たとえばノラ・ジョーンズなんかも、「現代のローラ・ニーロ」と言えるかもしれませんよね。
さて、今日の言葉は「葉隠(はがくれ)」から選びました。「葉隠」、江戸中期に書かれた武士たるものの心得ですね。著者は山本常朝(やまもと・じょうちょう)という人です。これは正しい侍であるためのマニュアル本って言えばいいのかな。そこにこんな言葉があります。
「一生忍(しの)んで思死に(おもいじに)する事こそ恋の本意なれ」
誰かに恋をしたら、相手のことをただ思い続け、そのまま思い焦がれて死んでいくことこそ、正しい恋のあり方である――ということですね。どんなに好きでも気持ちを打ち明けたりしちゃいけないんだ。うーん、侍であるっていうのもなかなか大変なことなんですね。
あなたはいかがですか? 侍になれそうですか?
一 生 忍 ん で 思 死 に す る 事 こ そ 恋 の 本 意 な れ
それではまた来月。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローラ・ニーロ・ソングブック~
放送日時:8月31日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/