作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
9月28日(日)の放送は「村上RADIO~マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます5~」をオンエア。
秋の気配が近づく時季に、村上DJ自ら選曲した音楽とともに、リスナーからのさまざまなメッセージに答えていきました。
この記事では、後半2曲とクロージング曲、今日の言葉、について語ったパートを紹介します。

村上春樹 夢と愛…どちらを選ぶべき? 若者からの人生相談に「...の画像はこちら >>


John Pizzarelli「Antonio’s Song」
ジョン・ピツァレリがギターを弾いて、ボサノヴァのリズムに乗せて歌います。「アントニオズ・ソング」。マイケル・フランクスの作った歌ですね。

ストレイシープさん(22、男性、北海道)
人生の岐路に立っている若者の相談に乗ってください。春樹さんなら夢と愛のどちらを取りますか? あまり詳しくは言えないのですが、現在、一生そばにいたいと思えるほど素敵な女性がいます。幻のポケモン「100パーセントの女の子」ってやつです。でもその女の子との愛を実現するには、いろいろな事情で僕の夢は諦めなければなりません。彼女と僕の夢を天秤にかけると、日によって傾く方が変わります。すごく漠然とした抽象的な相談になってしまいましたが、春樹さんのアドバイス、というよりはむしろ、春樹さんだったらどうするか、聞ければ嬉しいです。

今日はなんだか若者からの相談が多いですね。
いいですよ、若いリスナーは大歓迎です。相談に乗りましょう、
愛と夢はどちらを優先するか? そんなの、いうまでもありません。もちろん愛です。夢なんて、いちど潰(つい)えても、そのうちにまた新しいものが出てきます。雨上がりのあとの茸(きのこ)みたいにすくすくと。でも、「誰かを愛する」という気持ちはそれぞれ固有のものであって、同じものは二度と出てきません。一生そばにいたいと思える女性が今そばにいるのなら、手放さないほうがいいですよ。あとできっと後悔します。それに、夢を叶えることは、それがどんな夢なのか僕にはわかりませんが……、1人よりは2人のほうがうまくできるかもしれません。考えてみてください。

Luciana Souza「Never Die Young」
ブラジルの歌手、ルチアナ・スーザさんが、ジェームズ・テイラーとデュエットで歌います。「Never Die Young」、ジェームズ・テイラーのオリジナル曲ですね。
この歌、僕は好きです。

パンケーキとホットケーキの違いについて、いろいろとご意見をいただきましたが、全体を通してこういう意見が多かったようです。

JILLさん(35、男性、千葉県)
本来は同じものですが、アメリカでよく食べられる「パンケーキ」は生地が薄いもので、「ホットケーキ」と呼ばれるものは厚めのものが多いようです。 他に、ホットケーキは甘く、パンケーキは甘さ控えめにするなど、違いを出しているところもあるそうです。

はい、僕もだいたいそのように思うのですが、アメリカのホテルでパンケーキを頼むと、ふっくら分厚いものが出てくることもあります。かと思うと、ぺらぺらに薄いものが出てきたりしてね。なんなんだろう。考えれば考えるほど違いはよくわかりません。いずれにせよ日本で「パンケーキ」という名前のものが出されるようになったのは、わりに最近のことですね。

今を去る1983年に、サラザールというアメリカの長距離ランナーが福岡マラソンに出場しました。彼はレースの朝はいつもパンケーキをたらふく食べてカーボローディング(炭水化物摂取)をしていたのですが、どれだけ探しても、福岡の街でパンケーキを出す店が1軒も見つからなくて、パニクッたという話を聞きました。当時は福岡みたいな都会でもパンケーキは一般的じゃなかったんですね。
それでも、そのときのサラザールさんのタイムは、パンケーキなしで2時間9分21秒という立派なものでした。優勝はできませんでしたが、まあ良かったですよね。ちなみにそのレースで優勝したのは瀬古利彦さんでした。これ、名勝負でしたよ。

<クロージング曲>
Ronnie Aldrich And His Two Pianos「Wave」

今日のクロージング音楽は「ロニー・アルドリッチと彼の二台のピアノ」が演奏するカルロス・ジョビンの名曲「ウェイブ」です。ステレオでお聴きの方は左右のスピーカーから、2台のピアノがそれぞれに聴こえてくると思います。ロニー・アルドリッチさんが2台のピアノを弾いているみたいです。まさかスタジオの中を走り回って、左右かわりばんこに弾いているわけではないと思いますけど。

さて、今日のお言葉はアメリカのハードボイルド・ミステリーの作家、ロス・マクドナルドさんの言葉です。というか、正確に言えば、彼の創作した私立探偵リュウ・アーチャーさんの言葉です。どの小説に出てきたか思い出せなくて、正確な引用ではないかもしれないけど、こんな内容の言葉でした。

<カリフォルニアには季節がないと不満を述べる人がいる。
カリフォルニアにもちゃんと季節はある。それを感じとることのできない人がいるだけだ>

うーん、ハードボイルドですねえ。でも筆者のカリフォルニアに対する愛のようなものがきっぱりと感じられて、良いです。僕はロス・マクドナルドの書いた全小説、若い頃に完読しました。上質な文章を書く人で、素敵な言い回しが各所に出てきます。

それではまた来月。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます5~
放送日時:9月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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