作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。7月27日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話7~」をオンエア。
村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届けする好評の「村上の世間話」シリーズ。最近食べた美味しいパンケーキの話などのエピソードを披露しました。

村上春樹「僕が思いつく話って、だいたい世の中の役に立たないも...の画像はこちら >>


こんばんは、村上春樹です。村上RADIO。今日は恒例の「村上の世間話」をお送りします。これでシリーズ7回目、例によってあまり役に立たないお話をいろいろと持ち出します。
考えてみれば、僕が思いつく話って、だいたい世の中の役に立たないものが多いんです。現在の世界はいろんな深刻な問題をいっぱい抱えていて、そういうことにも知恵を絞らなくてはなぁと、もちろん思うのですが、僕がいくらがんばってもなかなか解決に至らないものばかりなので、この場はまあひとつ、息抜きに……という感じで、お気楽な世間話です。よろしく。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

僕はよく家でパンケーキを焼きます。フライパンでひとりパンケーキを焼きながらいつも思うのですが、パンケーキとホットケーキの違いっていったい何なんでしょうね? パンケーキの素を買ってきてそれを焼いたらパンケーキで、ホットケーキの素を買ってきて焼いたらそれはホットケーキになるのか、ただそれだけのことなのか、そのへんのことが僕にはよくわかりません。いろんな人に「ホットケーキとパンケーキ、どこに違いがあるんだろう」と質問しても、それぞれ違う答えが返ってきます。
もし正解をご存じの方がおられたら教えてください。大した問題じゃないし、考え出すと夜も眠れないというほどのことでもないのですが、やっぱり気になります。



今日は恒例の村上の世間話です。
英語に「ホットケーキみたいに売れる」という慣用表現があります。何かが飛ぶように売れることを意味しています。その本は売れまくっている、というのは「The book is selling like hotcakes」となります。お母さんがフライパンでホットケーキを焼いているそばから、子どもたちがみんなパクパクそれを食べていって、焼くのが追いつかないという忙しい状況ですね。お母さんも大変です。まあ、そんなふうに、ホットケーキみたいに本がどんどん飛ぶように売れてくれると、作家としては言うことないんですけどね。この場合はなぜか「パンケーキのように売れる」じゃなくて、ホットケーキなんです。どうしてかはわかりませんが、とにかく慣用句なので。

◆The Soul Society「The Sidewinder」
ちょっと前に用事があってノルウェイに1週間ほど行ってきました。
リレハンメルという北のほうにある、わりに小さな町に滞在していたのですが、そこにノルウェイ・パンケーキの専門店がありまして、もちろん入ってみました。ノルウェイのパンケーキってサイズが小さくて、かわいいんです。円形で直径5センチくらい。それが10個から20個くらいきれいに並んで出てきます。

僕はパンケーキ10個と、ブルーベリーとストロベリーの盛り合わせを注文して食べたのですが、これはとても美味しかったです。新鮮なベリーと、焼きたてのパンケーキってすごく合うんですね。まさかマッチングアプリで合わせたわけではないでしょうけど。みなさんもノルウェイに行く機会があったら、ぜひ試してみてください。また食べたいです。リレハンメルはウインタースポーツで有名なところですが、夏だったのでもちろん雪はなくて、高いジャンプ台は緑の夏草に囲まれて、心なしか淋しそうでした。

ソウル・ソサエティが演奏する「The Sidewinder」、リー・モーガンの作曲したジャズ・チューンが、かっこいいダンス・ミュージックに生まれ変わっています。Sidewinder、がらがら蛇のことですね。


<番組概要>
番組名:村上RADIO ~村上の世間話7~
放送日時:7月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
編集部おすすめ