作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。8月31日(日)の放送は「村上RADIO~ローラ・ニーロ・ソングブック~」をオンエア。

今回は、天才女性シンガー・ソングライターと謳われたローラ・ニーロを特集。自身が自作曲を歌ったバージョンはなぜかあまりヒットしなかったローラ・ニーロですが、多くのアーティストが彼女の楽曲をカバーしたことで、大ヒット。ローラ・ニーロの音楽が大好きで、かねてから彼女の特集をおこないたいと思っていたという村上DJが、魅力的で印象的な名曲の数々を、心を込めて選曲しました。
この記事ではオープニングトーク、前半1曲について語ったパートを紹介します。

村上春樹『村上RADIO』のローラ・ニーロ特集で「『そんな人...の画像はこちら >>


こんばんは、村上春樹です。村上RADIO。今夜は「ローラ・ニーロ・ソングブック」をお送りします。ローラ・ニーロをご存じでしょうか?「そんな人知らない。聞いたこともない」という若い方も多いかもしれませんね。ローラ・ニーロは、僕とだいたい同世代のアメリカ人の女性歌手で、ジョニ・ミッチェルと並んで女性シンガー・ソングライターの草分け的な存在になっています。自ら自作曲を歌ったバージョンはなぜか、商業的には目立った成功を収めませんでしたが、彼女の作詞作曲した曲は多くのミュージシャンによって取り上げられて歌われ、大ヒットしました。今日はそんな曲をまとめておかけします。


<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

ローラ・ニーロが歌手としてデビューしたのは、ちょうど僕が大学に入った頃ですから、彼女もまだ20歳前後だったんですね。僕が1人で東京に出てきて、ラジオで初めて「ウェディング・ベル・ブルーズ」を聴いたときのことを、そのときの情景を、今でもよく覚えています。
「なんて新鮮で素敵な曲だろう」と感じ入りました。新しい環境の中で、なんか胸をずんと打たれたというか……。
彼女は最初のうち「天才少女」として世間の熱い注目を浴びるのですが、音楽業界の押しつける商業主義と水が合わなくて、あくまで自分の信念を貫き、次第にマスメディアから遠ざかった存在になっていきます。彼女は1997年に、49歳の若さで卵巣癌のためにこの世を去りましたが、その誠実な人間味溢れる音楽は、今に至るまで忘れられることなく、多くのファンに愛され支持されています。



Laura Nyro「Wedding Bell Blues」
The 5th Dimension「Wedding Bell Blues」

今夜は「ローラ・ニーロ・ソングブック」をお送りします。
まずはその印象的な、彼女にとってのデビュー曲「ウェディング・ベル・ブルーズ」を聴いてください。ビルという男に恋をしているんだけど、彼は私となかなか結婚してくれないのよ、と嘆く女性の歌です。「ビル!」という叫びというか、かなり切実な呼びかけで曲が始まります。
このあいだ「Soul Picnic」というタイトルのローラ・ニーロの伝記を読んだのですが、それによると、この「ビル」というのは、ジャズ歌手ヘレン・メリルの当時の恋人の名前だったんですね。ローラはメリルさんの息子のアラン・メリルと幼なじみで、よくメリル家に遊びにいっていたのですが、ヘレンさんが「ビルが私となかなか結婚してくれないのよ」と嘆くのをそばで聞いていて、「それでいこう!」と思いついてこの曲を書いたということでした。

まずローラさん本人の歌で聴いてください。それから途中でフィフス・ディメンションの歌に切りかわります。フィフス・ディメンションのバージョンは、全米ヒットチャートの1位に輝きました。ローラ本人の歌のほうが、ビルさんへの訴えの必死さはリアルに伝わってくる気がするんですけどね。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローラ・ニーロ・ソングブック~
放送日時:8月31日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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