現在45歳のAさんは、昔から「自分が人と比べてどうなのだろう?」という点がとても気になる人でした。「とびぬけて一番」が好きなわけではありませんが、学生時代の自分の成績、OL時代の自分の業績にしても、「友人や同僚よりも上なのか?」、「平均より上なのか下なのか?」が判断基準。

いつも無意識に比較をし、自分の下にたくさんの人がいるとわかると、なんとなく安心するのです。



某中堅企業の管理職をしている1歳年上の夫と結婚した今でもそう。お金に関しては非常に堅実な性質のAさん。専業主婦として家庭を守りつつ、日々貯蓄に励み、現在の貯蓄額は1200万円ありますが、「老後資金2000万円問題」もあり、今とても気になっているのは、この貯蓄額が人と比べて上なのか下なのかということ。しかし、さすがにお金に関することは、友人や知人に聞くことができず、常々、この金額が人と比べてどうなのかを知りたいと思っていました。



ある日のこと。何気なくニュースサイトを見ていたAさんの目に、あるニュースが目に留まります。「1世帯あたりの平均貯蓄現在高は1752万円!」これを見たAさんは驚きます。



「うちより全然多い金額じゃないの。うちってよそよりお金がないの?」



■平均値は「貯蓄額マウンティング」の傾向あり?



ここでまず、Aさんが見たというニュースの内容をおさらいしてみましょう。



『2019年5月17日に総務省が発表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2018年(平成30年)平均結果-(二人以上の世帯)( https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html )」では、2人以上世帯の平均貯蓄現在高は1世帯あたり1752万円と示されています。』



このニュースを見るには注意をしなくてはいけない点があります。

というのも、これはあくまでも「平均値」であるというところです。つまり、データの中に「貯蓄1億円」といった極端に大きな数字があると、結果も左右されてしまっている可能性があるのです。このため、貯蓄額を考える時には、データを順番に並べたときに、ちょうど真ん中に位置する値の「中央値」がもっとも平均的な数値に近いといわれています。



今回の調査では、中央値は1036万円と示されています。また、貯蓄ゼロ世帯も含めると978万円。先ほどの平均値と比べ、700万円以上も下回る数字ですが、これが平均的な数値であるとするならば、Aさんの貯蓄額は、決して「よそより少ない」というわけではなさそうです。



■40代・50代・60代それぞれの貯蓄事情



現在、Aさんは40代。老後2000万円問題も気になっているという彼女のために、金融広報中央委員会(知るぽると)の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成30年)( https://www.shiruporuto.jp/public/data/movie/yoron/ )」から40~60代の貯蓄状況もチェックしてみましょう。



それぞれの2人以上世帯の金融商品保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)は以下の通りです。



40代…平均値942万円、中央値550万円
50代…平均値1481万円、中央値900万円
60代…平均値1849万円、中央値1000万円



ご覧のように、40代と60代においては2倍ほどの差が見られました。両者の間にうまれた差は、どのような理由よるものなのでしょうか。



60代といえば、定年を迎え「退職金」を手に入れる時期。

厚生労働省が公表した「平成30年就労条件総合調査 結果の概況( https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html )」によると、「退職給付(一時金・年金)制度がある」と答えた企業は80.5%となっています。この結果からも、多くの60代が退職金によって資産を増やしていると考えられます。



■キャッシュレス化は貯蓄に影響を与える?



ところで、2019年10月に消費増税が実施され、同時にキャッシュレス化推進のためのポイント還元が開始されています。これは、以降の貯蓄傾向になにか影響を与えるのでしょうか?



実は、㈱ジェーシービー(JCB)が実施した「キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査2019( https://www.global.jcb/ja/press/00000000162792.html )」によると、キャッシュレス化に積極的な人は貯蓄に対する意識が高いという結果が出ているといいます。なお、この調査は全国の20~69歳の男女1000名を対象に、複数回答としたものです。



調査の結果、1年間の貯蓄増加額の全体平均値は57万2000円。全体の39.8%が、貯蓄増加額が「0円」と回答しています。



この数字を「キャッシュレス派」と「現金派」に分けると、キャッシュレス派は現金派の2.4倍の年間貯蓄額を実現していることが明らかになりました。現金派の年間貯蓄増加額は34万2000円。これに対しキャッシュレス派は83万2000円となっています。
また、「新年度の貯蓄目標額」の平均は現金派が178万3000円だったのに対し、キャッシュレス派は325万4000円です。



キャッシュレス化に前向きな人は、「どうすればお金を上手く使えるか」「効率よくお金を貯めたい」と積極的に考えている様子がうかがえます。



キャッシュレス化と聞くと、「セキュリティ面が気になる」「システムがややこしそう」とためらってしまう方も多いかもしれません。しかし一方で、キャッシュレスを活用すれば、ポイント還元でお得に買い物でき、家計の負担を和らげるというメリットも。



「キャッシュレス派」になれば、必ず貯蓄が増えるというわけではないですが、より貯蓄体質に近づくことができるということであれば、積極的にキャッシュレスの知識を身につけておこうとする姿勢も、悪くないのではないでしょうか。



■まとめ



Aさんのように貯蓄額を考える際、「平均値と比べてどうなのか?」という観点で見てしまう人は、案外多いのではないでしょうか?しかし前述したように、貯蓄額における平均値は一部の富裕層の値に引っ張られることが多く、また最も平均的な数値といわれる「中央値」も、貯蓄ゼロ世帯を入れるか入れないかで大きく変わってきます。



各家庭での貯蓄額の妥当性を考えるのであれば、このような統計値はあくまで参考としてとらえ、「自身のライフプランと照らし合わせて、足りているのかどうなのか?」をまず考える方が、建設的といえるかもしれませんね。



【参考】
「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2018年(平成30年)平均結果-(二人以上の世帯)」総務省統計局
「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成30年)」金融広報中央委員会(知るぽると)
「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」厚生労働省
キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査2019」JCB



【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。



【ご注意】

ここでいう「金融資産」とは、家計が保有する金融商品のうち、貴金属や現金、事業のために保有している金融商品、預貯金のうち日常的な出し入れや引落しなど生活費に対応する部分を除いた「運用のため、または将来に備えて保有している部分」となっています。
これに対して「金融商品保有額」とは、上記に加えて「運用目的ではない預貯金(日常的な出し入れや引落しなど生活費に対応する部分)」を含んでいます。
また、「金融資産を保有していない世帯」とは、預貯金や株式などの金融商品を保有していない世帯と、預貯金のみは保有しているがそのうち「運用または将来の備え」がゼロの世帯を指します。



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