余裕のある暮らしをしているお金持ちを見て「うらやましい」と思うことはありませんか。特に毎月家計のやりくりで苦労していると「ウチもお金さえあれば…」という感情を抱いてしまうのではないでしょうか。
■年収が上がれば幸福度も無限に上がるわけではない
人間の心を研究する心理学と、お金の動き方を研究する経済学が融合した「行動経済学」というものがあります。行動経済学を研究している大阪大学・筒井義郎氏らの『なぜあなたは不幸なのか( https://www.iser.osaka-u.ac.jp/rcbe/gyoseki/fukou.pdf )』によると、「所得が大きいほど幸福であるが、その増加は逓減的であり、高い所得階層では飽和が観察される」とのことです。
具体的には、年収700万円は一般的に高収入と分類されますが、その水準を超えると幸福度の低下が見られるそうです。同分野の他の研究では、お金による幸せのピークが年収550万円であったり660万円であったりと少々ばらつきがあるようですが、いずれにせよ「年収が上がれば上がるほど幸せになれるわけではない」ということが示されています。
お金に余裕があれば、好きなものを買ったり、旅行へ行ったりなどの贅沢ができ、幸せだと思う瞬間は多いのではと思われますが、この「お金を得ても幸せになれない」という矛盾めいた事実を行動経済学では“幸福のパラドックス”と言うそうです。
■お金を得ても幸せになれないのはなぜか
ではなぜお金を得ても幸せになれるわけではないのでしょうか。上記で紹介した行動経済学の研究からすると、3つの仮説があるようです。
1. 現状が当たり前だと思ってしまう(順応仮説)
これは、今までよりお金を稼いでも時間が経つとその状態に慣れてしまうということを指します。たとえば、大学時代のアルバイトに比べれば、ほとんどの人が社会人になると所得が増えるはずです。外食や買い物などで生活水準は確実に上がっているのにも関わらず、時間が経つとそれが当たり前となり、豊かさの実感が薄れてしまうというのです。
2. 現状よりさらに上の目標を目指してしまう(目標水準仮説)
研究では、自分が目標としている所得水準と今の所得を比較して、その差が大きいほど幸福度が下がるということが分かっているといいます。現状よりも高い目標を目指そうとしてしまう人間の特性はプラスの面もあるものの、そのために幸福度が下がるという側面もあるようです。
3. 周りも収入が上がったら幸せにはならない(相対所得仮説)
自分の収入だけで幸せは決まらないということも研究で明らかになっています。たとえば、職場で自分の年収だけが上がれば幸福度は上がりますが、みんなの年収も上がれば幸福度は上がらないということ。「自分だけ」収入がアップするという特別感が幸福度に影響するのかもしれません。
■お金ではなく時間の使い方で幸福感が変わる
お金持ちと一般人の差は「お金」ですが、「時間」は1日24時間、1年365日、誰にでも平等にあります。
たとえば、日本人の平均的なサラリーマンには、通勤に1日2時間ほどを使い、帰宅後にはテレビやスマホで動画を1日2時間ほど見るという生活パターンが多いかと思われます。その合計は4時間×365日で約1460時間、なんと60日にもなります。
通勤中は寝ているかスマホを見ているかになると思いますが、「人生における大切な時間を使っていること」を意識するべきかもしれません。たとえば、読書をしたり、資格試験の勉強をしたりすれば、自身の知的好奇心を刺激して満足感が得られ、さらにキャリアアップにつながることも考えられます。
また、余暇の過ごし方として、子どもと遊ぶ、ボランティア活動をする、サークル活動に参加するなど、リフレッシュしつつ心が豊かになると感じられる時間の使い方もできるでしょう。
いくらお金持ちでも、いつも忙しく時間に余裕がなければ幸せと感じられない場合も多いでしょう。ただし時間は誰にでも平等なので、自由にできる時間があるのならば「心にゆとりを持てる使い方」をすることで、お金はなくても幸福度が上がるかもしれませんね。
■おわりに
ここまで見てきたように、収入が増えたとしても自分が置かれた環境やマインドによって幸福とは感じられない場合もあるようです。