葉桜が風を集めるさわやかな季節になりました。社会人1年生のみなさんは初めての給与を受け取ったばかり、というところでしょうか。
さて、給与の額面と実際に振り込まれる金額に違いがあることはわかっていても、何を引かれているのか、その金額はどのように出しているのか、きちんと理解していますか?
自分が稼いだお金から引かれている税金と社会保険料の種類、そして算出方法を知って、手取りの金額を導き出してみましょう。
■年収と手取りの違い
一般的に“年収”という時、それは収入金額(額面)のことを指します。源泉徴収票では、支払金額にあたります。税金や社会保険料が引かれる前の金額です。
それに対し“手取り”とは、税金や社会保険料が引かれて、実際に受け取れる金額を指します。会社員であれば、天引きされて振り込まれた給料が手取りとなります。
もう一つ、よく間違われる言葉に“所得”があります。これは、税金を計算する時に使うもので、収入金額からその収入を得るために支出した必要経費を引いた金額です。
「収入」=「年収」
「収入」-「必要経費」=「所得」
「収入」-「税金」-「社会保険料」=「手取り」
収入が給与収入である場合は、必要経費は分かりにくいため、給与所得控除という“みなし経費”を引いて求めた給与所得から所得税や住民税を計算します。
ここからは年収500万円の会社員を想定して、手取りを計算してみましょう。
■年収500万円の社会保険料はいくら?
まずは、社会保険料がいくらになるのかを計算しましょう。次に説明する税金の計算には社会保険料を求めておく必要があるからです。
年収500万円、35歳独身、東京都在住のAさん(会社員)をモデルケースとします。
社会保険料は厚生年金保険と健康保険の保険料です。40歳以上になると介護保険料が加わります。それぞれの保険料は会社と労働者が半分ずつ支払う労使折半なので、自己負担は1/2となります。
- 健康保険料(9.84%×1/2)…2万172円
- 厚生年金保険料(18.3%×1/2)…3万7515円
※全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和3年(2021年)度 東京都 標準報酬月額41万円の保険料額
合計で5万7687円(月額)となりました。
給料の約14%が社会保険料と考えることができます。
■年収500万円の所得税・住民税はいくら?
年収500万円の人の所得税・住民税がいくらになるのかは、その人の生活状況や家族状況によって異なります。税金は担税力(税を負担する能力)を考慮して課税されるものであるため、担税力が弱い人の税負担を少なくするための配慮が必要です。この配慮が所得控除です。
家族が多い家庭は支出が多くなるため、配偶者控除や扶養控除があります。医療費が多くかかった場合には医療費控除があります。この他にも下記のような所得控除があります。
所得控除の種類
<人的控除>
配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除、基礎控除など
<物的控除>
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、寄附金控除など
このような所得控除があることで、税率をかける元となる課税所得がその人の担税力に見合ったものとなるわけです。
「収入」-「必要経費」-「所得控除」=「課税所得」
先ほどのAさん(年収500万円、35歳独身、東京都在住)を想定して、所得税と住民税を計算してみましょう。
所得控除は基礎控除、社会保険料控除のみとします。
税金の計算
<所得税>
500万円-144万円(給与所得控除:収入金額×20%+44万円)=356万円(給与所得)
356万円-69万円(社会保険料控除)-48万円(基礎控除)=239万円(課税所得)
239万円×10%(税率)-9万7500円(控除額)=14万1500円
所得税は14万1500円となりました。
参考:国税庁「給与所得控除」( https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm )「所得税の税率」( https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm )
<住民税>
※住民税は住んでいる場所によって異なります。
所得割
356万円(給与所得)-69万円(社会保険料控除)-43万円(基礎控除)=244万円(課税所得)
244万円×10%(一律)=24万4000円
均等割
1500円(都民税)+3500円(区市町村民税)=5000円
合計24万9000円
住民税は24万9000円となりました。
次ではいよいよ「手取り」を計算してみましょう。「年収500万円」の手取り額はどのくらいになりそうでしょうか。
■「手取り額」を計算してみよう
ここまでの計算から、年収500万円の手取り額を出してみましょう。
- 「収入」-「税金」-「社会保険料」=「手取り」
ここで引かれる社会保険料には雇用保険料も含まれます。
雇用保険料(0.3%)・・・1万5000円
692,000円(厚生年金保険・健康保険)+1万5000円(雇用保険)=70万7000円(社会保険料)
※千円未満切捨て
500万円-39万500円(所得税・住民税)-70万7000円(社会保険料)=390万2500円
年収500万円のAさんの手取りは390万2500円となりました。
■さいごに
実際には、年齢や住んでいる場所、控除額によって変わってくるのであくまでも目安として見てください。
このケースの場合、手取りの割合は年収の約78%となっています。家族が多くなると控除額も多くなるので、手取りが増えます。
次に給与明細を見た時には、ぼんやりと見えていた金額が、何のために、どのような計算によって導き出されたのか理解できているでしょう。また、年収から手取り、手取りから年収を割り出す際に、8割という数字を覚えておくと大まかな目安が出せますね。
参考資料
- 国税庁「社会保険料控除」( https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm )
- 協会けんぽ 国健康保険協会「令和3年度保険料額表(令和3年3月分から) 」( https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r03/r3ryougakuhyou3gatukara/ )
- 厚生労働省「雇用保険料率について」( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html )