トランプ時代の米中対立・米中貿易摩擦から、バイデン政権になって先進民主主義諸国 vs. 中国の対立・貿易摩擦に様相が変化しつつある。
経済摩擦の広域化や、それによる間接的貿易摩擦が懸念される時代になっているわけだが、実際、最近では新疆ウイグルの人権問題を巡り、ミズノやカゴメなどの日本企業がウイグル産綿花やトマトの使用停止を発表した。
ユニクロにいたっては米国での綿製シャツ輸入差し止め、フランス人権NGOからの告発による当局の捜査などを受け、企業活動における制限を余儀なくされている。
また、中国は6月、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能とする反外国制裁法を可決した。
その中では、外国による制裁に第三国も加担すればその第三国にも報復措置を取れると記されている。そのため、米中対立の行方によっては、中国が日本をその第三国と判断し、日中経済に大きな影響が出る可能性もある。
主要国間を巡る現在の世界情勢は、グローバルエコノミーの中で競争していかなければならない日本企業にとって、決して明るいものではない。
米中対立がいっそう激しくなり、経済的な陣営固めが進めば、最大貿易相手を中国とする日本の立場は難しくなる。しかし、その影響が現在では限定的なため、中国からの撤退や規模縮小を模索する企業はごくわずかなのが実態だろう。
■経済領域が国家間紛争の舞台になる時代
一方、昔と比べると、経済領域は国家間の紛争の舞台になりやすい。かつての戦争においても、国家は戦争をしたいからするわけではなく、軍事手段に出る前には資源獲得競争やブロック経済といった経済的な理由もあった。
しかし、現在では経済のグローバル化や相互依存、人々の国際的往来などが進み、また、世界大戦への反省や武力紛争禁止を巡る国際法の発展などもあり、軍事的手段へのハードルは高くなっている。
このように軍事的手段がとりにくい時代においては、国家間の対立は経済戦争という形をとりやすい。経済で多くの国が網の目のように繋がる時代においては、経済制裁というものは発動国にとって敵対国に対する有効な手段となる。
米中対立が進むからといって、両国が本当に武力で攻撃し合う可能性は、偶発的衝突の場合を除き、極めて低い。両国とも紛争の舞台として軍事領域を使用することは避ける一方、対立が激しくなるのであれば、経済領域がその主戦場になることは想像に難くない。
我々は、エコノミックウォーズの時代に入りつつある。いわゆる戦争の主体は軍だが、エコノミックウォーズにおけるキープレイヤーは企業である。
日本企業にはこれまで以上に経済安全保障、地政学リスクへの危機管理意識が求められる。