4月2日(水)にトランプ米大統領が発表した「相互関税」は、金融市場に大きな衝撃を与え、週間の日経平均は8.9%安、米国主要3指数も大幅安となり、コロナ・ショック以来の急落に見舞われました。本レポートでは、先週末の市場の動揺を振り返りつつ、今後の日経平均の下値メドや底打ちの可能性、そして米国市場の現状と中国の報復措置の影響について分析します。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場「売り」の種類からイメージする相場見通し~トランプ関税をめぐる対抗と折衝の行方~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」
先週の4月2日(水)、トランプ米大統領がホワイトハウスのローズガーデンに設けられた壇上から打ち出した「相互関税」は、金融市場に大きな動揺をもたらしました。
相互関税については、先週金曜日に掲載した こちらのレポート でも述べていますが、「思っていたよりも厳しい」内容だったことで、国内外の株式市場は売りで反応し、週末4日(金)の日経平均株価は前週末の終値から8.9%安で取引を終えたほか、米国株市場でも、週間ベースでダウ工業株30種平均が7.8%安、S&P500種指数が9%安、そしてナスダック総合指数が10%安となるなど、2020年3月のコロナ・ショック以来の急落となっています。
果たして、今週の株式市場は落ち着きを取り戻すことができるのでしょうか?
日経平均は冷静に下値を探っていたが…
早速、日経平均の状況から確認していきます。
<図1>日経平均(日足)の動き(2025年4月4日時点)

先週の日経平均は、週の前半は弱含みながらも、3万6,000円水準を意識した展開が続いていたのですが、米相互関税が発表されてからは、週末にかけて下落の勢いが加速していきました。
その様子は日足チャートからも読み取れますが、3日(木)と4日(金)のローソク足はともに、下ヒゲの長い陰線となっていて、「下値をトライした後に買い戻しも入っていた」様子がうかがえます。
買い戻しが入った理由としては、3日(木)は3万5,000円台、4日(金)は3万4,000円台といった「節目」の株価水準を割り込んだことで、「そろそろ底打ちかも」という思惑が働きやすかったことや、ギャン・アングルの「8×1」ライン、弱気相場入りとされる「高値から20%安」の水準といった、テクニカル分析面での目安も存在したことなどが考えられますが、とりわけ、高値から20%安に対する意識は強かったと思われます。
もう少し詳しく見ていくと、昨年7月11日の高値(取引時間中では4万2,426円)を基準とすると、20%安は3万3,940円となるのですが、4日(金)の終値(3万3,780円)は、この水準を160円ほど下回っているため、弱気相場入りしたことになります。
ただし、終値ベース(4万2,224円)で見ていくと、20%安の水準が3万3,779円となり、4日(金)の終値との差はわずか1円で、弱気相場入りギリギリで踏みとどまったと考えることもできます。
このように、先週の日経平均は大幅な下落となりながらも、冷静に下値を探っていた面があります。しかしながら、翌5日(土)の朝に取引を終えた、大阪取引所の日経225先物取引ナイトセッションの終値が3万2,220円となっており、株価水準がさらに1,500円以上も切り下がっています。
<図2>日経225先物(日足)(2025年4月5日大阪取引所ナイトセッション終了時)

そのため、今週の日経平均は一段安からのスタートを覚悟しておく必要がありそうです。
目先の日経平均の下値は?
となると、「日経平均の次の下値の目安がいくらになりそうなのか?」と、「次の株価下落で底打ちとなるのか?」の2点が目先の焦点になってきます。
まずは、「次の下値の目安」について、週足チャートで考えていきたいと思います。
<図3>日経平均(週足)の動き(2025年4月4日時点)

先ほどの日足チャートと同様に、ギャン・アングルで捉えていきます。
2023年1月6日週の安値から、2024年7月12日週の高値の上昇幅を基準にしてギャン・アングルを描いていくと、先週の株価下落によって、「3×1」ラインを大きく下抜けた格好になっていますが、このまま下落が続いた場合、「4×1」ラインに向かっていくことになります。
仮に、今週中にこのラインにタッチした場合、3万1,977円、つまり3万2,000円台割れが下値の目安として考えることができます。
次に、もうひとつの焦点である、「株価の底打ちの可能性」について考える前に、先週の米国株市場の動きとその背景についても押さえておく必要がありそうです。
「調整相場」と「弱気相場」に入った米国株市場
米国株市場の動きについて見ていきます。
<図4>米NYダウ(日足)の動き(2025年4月4日時点)

最初は米NYダウです。
週末4日(金)の下落が目立っていますが、この日の下落によって、1月31日の高値(4万5,054ドル)から10%安の調整相場入りの目安となる水準(4万0,548ドル)を大きく下回ったほか、25日移動平均線が株価の「抵抗」となって下げ幅を拡大させており、いわゆる「ダブルトップ」の完成が明確になった格好です。
弱気相場入りの目安とされる20%の水準(3万6,043ドル)までは距離を残していますが、ココを目指していくのかが注目されます。
<図5>米S&P500(日足)の動き(2025年4月4日時点)

米S&P500も、3日(木)の取引で、直近の高値(2月19日の6,147p)から10%安の水準(5,532p)を下抜け、翌4日(金)には20%安の水準(4,917p)にかなり近づいてきています。
<図6>米ナスダック総合指数(日足)の動き(2025年4月4日時点)

米ナスダック総合指数は、週末4日の取引で、直近高値(2月18日の2万0,110p)から20%安の水準(1万6,088p)を下回り、弱気相場入りとなっています。
このように、米主要株価3指数も揃って、調整相場もしくは弱気相場入りするほどの下落を見せましたが、特に4日(金)の株価下落が際立っています。
「対抗」か「折衝」か?中国からの報復措置で警戒感高まる
こうした週末4日(金)の米国株急落の理由として、米国の相互関税に対し、中国が報復措置を表明したことがネガティブ視されたことが挙げられます。
具体的には、「米国からのすべての輸入品に34%の追加関税を課す」ことや、「7種類のレア・アースの米国への輸出制限拡大」「制裁企業のリストに米国の11社を追加する」などです。
今回の米国の相互関税を受けた各国の対応としては、粘り強く交渉を続けて譲歩を引き出す「折衝」の姿勢を示す国と、報復措置などの「抵抗」の姿勢を示す国など、まちまちとなっています。しかし、中国が後者の抵抗の姿勢を示したことで、貿易戦争化への警戒感が強まり、リスクオフムードへ傾く格好となりました。
もっとも、中国側の措置は抵抗ではなく、今後の米国との交渉を不利にさせないため、「ディールにはディールを」のメッセージの可能性があります。実際に、中国の報復関税が発動されるのは、今週の10日(木)で、米国の相互関税(上乗せ分)が発動される9日(水)の翌日となっており、メッセージを受けた米国側の反応を見定めようとしているのかもしれません。
また、米中に限らず、交渉によって相互関税が軽減される「モデルケース」が出てくれば、株式市場にとっては好材料となり、相場の下落基調が落ち着くことも考えられます。実際に、46%の高い相互関税が課されたベトナムとの交渉が進んでいるとの報道も一部で出てきています。
ただし、米国が中国に対して再報復するような動きが出た場合には、下げ基調が続く可能性があるため、株式市場の安定には、少なくとも「抵抗よりも折衝を選んだ方が報われる」という流れを作っていく必要がありそうです。
「売り」の種類をイメージする視点
また、切り口を変えて、足元の一連の相場の動きに、「売り」の種類を重ねて想像してみたいと思います。
変な言い回しになってしまいましたが、要は、「今、どんな売りが出ているのか?」「これからどんな売りが出てきそうなのか?」について考えることです。
実際に、売り注文の意図を確認する術はありませんが、ざっくりと以下が考えられます。
(1)強気派の「ふるい落とし」の売り
(2)景気減速など、状況の悪化を織り込む売り
(3)トランプ政権の政策修正を催促する売り
(4)目先の動きに乗っかる短期の売り
(5)相場変動に耐え切れなくなったポジションを投げる売り
まず、(1)の売りについては、すでにピークを過ぎたと思われます。
次に見ていくのは(2)と(3)と(5)の売りですが、これらは今後のポイントになってくると思われます。米国市場では中国の報復措置絡みで先週末4日(金)に急落しましたが、先ほどの(1)に加え、これらの思惑の売りが出始めたことで下げ幅が大きくなったと考えられます。
日本株市場では週初の7日(月)の取引で、これら(2)と(3)と(5)の売りと対峙することになりますが、先ほども見てきたように、先週の日経平均は買い戻す動きを見せながら下落していたこともあり、特に(5)の売りが多く出ることが予想されます。
これによって、いわゆる「セリング・クライマックス」となって、いったん下落が落ち着く格好となれば、その後は(4)の動きに振り回されつつも、今後発表される経済指標や企業決算などの動向を確認しながら、景気減速などの不安が現実のものとなるのかどうかの答え合わせをしていくことになりそうです。
今週は、米国で3月分のCPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)が公表されるほか、企業決算については、米国で大手金融機関( JPモルガン・チェース(JPM) や ウェルズ・ファーゴ(WFC) など)の決算が予定され、国内でも、 ファーストリテイリング(9983) や セブン&アイ・ホールディングス(3382) などの決算が控えています。
米国のインフレが再燃したり、企業が関税の影響を慎重に見積もっている動きが出てくると、それに応じて(2)や(3)の売りが出てくることも考えらえますが、そこまで深刻でなければ値動きは次第に落ち着いてくると思われます。
とはいえ、来週の米国も3月小売売上高が予定されているほか、企業決算も本格化していくため、市場が一喜一憂する展開がしばらく続くことになりそうです。
(土信田 雅之)