ドル/円相場は「FRBの利下げ休止観測」vs「日本銀行追加利上げ観測」の構図で動く

 ドル/円はついに1ドル=150円を割れ、一時148円台の円高となりました。トランプ米大統領の言動や関税政策によって相場が翻弄(ほんろう)される場面もありましたが、2月半ばからは日米金融政策の変更時期の思惑によって相場が左右されています。


 現在のドル/円相場は「FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ休止観測」vs「日本銀行追加利上げ観測」の構図で動いており、そこに「トランプ関税」が波乱要因として加わっています。

しかし、基本構図は日米金融政策であるため、今週も日米の経済・物価関連指標によって相場が動くことが予想されます。


 1月のドル/円のレンジは1ドル=154~159円でしたが、徐々に上値が重たくなりました(円高方向)。2月に入ると植田和男総裁や田村直樹日銀審議委員の発言によって日銀の早期利上げ期待が高まり、ドル/円は1ドル=155円台から151円台へ円高となりました。


 しかし、FRBのパウエル議長の議会証言(2/11)と米1月CPI(消費者物価指数)(2/12)によって、FRBの「利下げ休止」期間が長引くとの見方から151円台から154円台に反発しました。その後、米1月PPI(2/13)と予想を下回った米1月小売売上高(2/14)によってその見方が後退し、1ドル=151円台の円高へと元の水準に戻りました。


 ここまでは先週お話しした内容ですが、この時点ではドル/円はまだ、1ドル=151~155円のレンジ内で動いていただけで、次のレンジを模索中の状態でした。


 しかし、17日の日本10-12月期GDP(国内総生産)実質年率が+2.8%と予想を上回ったことや、19日の日銀の高田創審議委員による「1月に実施した追加利上げ以降も、ギアシフトを段階的に行っていくという視点も重要」との発言によって、日銀の早期利上げ期待がさらに高まり、円高地合いが強まりました。


 そして、日銀要因が強まっているところに米国要因が加わって一気に円高が進みました。21日に発表された米2月サービス部門PMI(購買担当者指数)が予想を大きく下回り、50も割れて49.7となったことや、米2月ミシガン大学消費者信頼感指数確報値、米1月中古住宅販売件数も予想を下回ったことから米長期金利の低下とダウ工業株30種平均の大幅下落によって、一時1ドル=149円割れの円高となりました。


低調な経済指標を受けてFRBの利下げ前倒し期待が高まる

 その後、買い戻しや実需によって150円台に戻っているものの、低調な経済指標を受けてFRBの利下げ前倒し期待が高まり、また日銀の早期利上げ期待も根強いことからドル/円の上値は重たい状況が続いています。


 米コンファレンス・ボードが25日に発表した2月消費者信頼感指数はその動きをさらに後押ししました。消費者信頼感指数は98.3と3カ月連続で悪化し、昨年6月以来8カ月ぶりの低水準となりました。前月からの低下幅は7ポイントとなり、2021年8月以来3年半ぶりの大幅な落ち込みとなりました。


 消費者信頼感指数の内訳をみると、先行きを示す期待指数が72.9(マイナス9.3)と大幅に低下し、景気後退リスクを示唆する水準80を下回っています。また、1年先の期待インフレ率は6%となり、関税の影響で物価が上昇するとの懸念から前月(5.2%)から上昇しました。


 まさに、インフレ上昇を伴う景気後退を懸念するスタグフレーションの消費センチメントとなっています。この指標を受けて米景気後退懸念が強まり、米10年債利回りは4.3%を割れ、ドル/円は1ドル=148円台半ばまで円高が進みました。


 ここへ来て景気後退懸念が高まっている背景は、トランプ政策を懸念した前倒し消費の反動、カリフォルニアの山火事や全米各地の寒波の影響といわれていますが、一過性であるかどうかは今後の指標結果でより明らかになると思われます。しかし、それまでは米金利の低下を背景にFRBの利下げが前倒しになるとの期待が勝りそうです。


 このような低調な米国経済指標を受けて、CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチでは0.25%の追加利下げの時期は6月に前倒しされており、9月でも追加利下げが見込まれています(2月11日時点では、追加利下げは6月FOMC(米連邦公開市場委員会)から7月へ先送りとなり、年内利下げは7月の1回だけと見込まれていました)。


 今週は、FRBがインフレ指標として注視する、28日に発表される米1月PCEコア・デフレーターが最大の注目材料です。パウエル議長は12日の下院の議会証言でも「我々はPCEをインフレ率の目標にしている」と証言しています。PCEコア・デフレーターの予想は前年比+2.6%で、12月の2.8%からの鈍化が見込まれています。


 米1月PCEコア・デフレーターの伸び率鈍化によって、さらに政策変更時期が前倒しになるのかどうか注目です。ただ、為替市場において伸び率鈍化はドル売り要因として徐々に織り込まれているため、注意する必要があります。

予想通りであれば、前月から低下していてもドル売りの後に利食いのドル買いがみられるかもしれないからです。


 一方、予想より低下し、政策変更時期前倒しの期待が高まれば、円高がさらに進む可能性がありそうです。


今週のドル/円見通し

 今週は日本の材料にも注目です。具体的には、25日に日銀が発表した1月企業向けサービス価格指数、26日の1月「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」、そして28日の東京都区部2月CPIが挙げられます。


 25日の1月企業向けサービス価格指数(前年比)は予想通り3.1%でしたが、12月の3.0%から拡大しており、しかも12月分は2.9%から3.0%に上方修正されました。これは円高を後押しする内容でしたが、一気に1ドル=145円の円高に進むためには、28日の米PCEが前月より低下しても3月18~19日の日銀金融政策決定会合での利上げが確信されないと難しいかもしれません。


 3月5日には日銀の内田真一副総裁の講演が予定されています。この講演で3月の日銀会合の方向を示唆してくるのかどうか注目です。方向を見極めるまでは円高地合いが続きそうですが、様子見の円高地合いとなりそうです。


(ハッサク)

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