「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第69回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
クイズ
2025年1月、日本の総合インフレ率(CPI[消費者物価指数]の前年同月比上昇率)は4%まで上昇しました。
そこで今回は、インフレを起こす要因について学ぶクイズと、インフレによって株価がどう動くか考えるクイズを出します。
【第1問】
以下、【1】~【6】のうち五つは日本のインフレ率上昇につながる要因ですが、一つだけインフレ率低下につながる要因があります。インフレ率低下につながるのはどれでしょう?
【1】(1年前と比較して)円安が進行
【2】サービス産業全般で人手不足が深刻に
【3】電気ガス料金の「緊急支援策」が終了
【4】私立高校の学費無償化が進展
【5】訪日外国人観光客数が2024年に過去最高を更新
【6】2025年春闘では5%超の高い賃上げが実現する見込み
【第2問】
インフレ率が上昇すると、その国を代表する株価指数(日本でいう日経平均株価や東証株価指数)はどうなりますか? 以下【1】~【5】のうち、正しいものを全て選んでください。
【1】インフレ率が上昇しても景気拡大が続くならば、株価は上昇する。
【2】インフレ率が高くなり過ぎて、消費が失速、景気が悪化するならば、株価は下落する。
【3】2%くらいのインフレ率は、景気・株価にとってプラス効果があると考えられている。
【4】全てのモノ・サービスの価格・賃金が均等に10%上昇する「均等インフレ」を前提とすると、株価は理論上、10%上昇する。
【5】インフレ率が高くても低くても株価には影響しない。
インフレ・ショック!日本のインフレ率が米国を超える
以下二つのインフレ率の推移をご覧ください。一方は日本、もう一方は米国の総合インフレ率(CPIの前年同月比上昇率)です。
日米のインフレ率(CPIの前年同月比%)推移:2020年1月~2025年1月

米国の総合インフレ率は1月に3.0%まで上昇し、インフレ再燃が懸念されています。日本はさらに高く、4.0%まで上昇しています。日本もインフレ国の仲間入りしつつあります。
また、インフレ率が高くなると金利も上昇します。
日米長期(10年)金利推移:2007年1月~2025年2月(25日)

インフレ率が高くなると金利が上昇します。ところが、日本の金利は最近上昇したとはいってもまだ低水準です。日米長期(10年)金利を比較すると、米国の金利が高いのに対し、日本は低水準です。インフレ率が日米で逆転していることを考えると、日本の金利は金融政策によってかなり低く抑えられていることが分かります。
正解は…
【第1問】 インフレ率を低下させるのは【4】だけ。他は全てインフレ率を上昇させる要因。
【第2問】 【1】【2】【3】【4】は正しい、【5】が誤り。
【第1問解説】
【1】(1年前と比較して)円安が進行
円安が進行すると、海外からの輸入品の価格が円建てで上昇します。輸入インフレによって、日本の物価が上昇します。
【2】サービス産業全般で人手不足が深刻に
人手不足でサービス価格が上昇すると、日本のインフレ率が高くなります。
【3】電気ガス料金の「緊急支援策」が終了
コロナ禍のあと、電気・ガス料金や、ガソリンなどのエネルギー価格の上昇を抑えて国民生活を守るために、政府から補助金が出されました。コロナ禍が去り補助金が終了すると、電気・ガス料金が上昇し、インフレ率を高める要因となります。
【4】私立高校の学費無償化が進展
これはインフレ率を低下させる要因です。教育サービスにかかる価格低下によります。
【5】訪日外国人観光客数が2024年に過去最高を更新
外国人観光客の増加で、宿泊料など観光サービスの価格上昇が見られます。
【6】2025年春闘では5%超の高い賃上げが実現する見込み
賃上げが広がると、企業には販売価格に転嫁する動きが広がって物価上昇につながります。賃上げ率が高いと、消費にとっても良い影響が及んで値上げが通りやすくなります。
【第2問解説】
インフレは基本的にプラスの効果を及ぼします。ただし、例外としてインフレが景気を悪化させる時だけはインフレが株価にマイナスとなります。
それでは、【4】均等インフレについて解説します。
【4】均等インフレは株にプラス
理論経済学から見たインフレの考察についてお話しします。理論経済学では、まず「全てのモノやサービスが均等に値上がりする」インフレを想定します。仮にインフレ率が10%として、全てのモノやサービスが10%値上がりするとしましょう。すると、企業の利益は10%増加して、株価は理論上10%上昇します。
10%の値上げが通るため、企業の売上高は10%増加します。一方、原材料費、人件費、光熱費、交通費などあらゆる費用が全て10%増加します。すると、売上高から原価や販売管理費、税金などを差し引いた利益も10%増加します。1株当たりの利益が10%増加するので、PER(株価収益率)での評価は変わらずに株価は理論上10%上昇することになります。
このように完全な均等インフレが起こると、経済への実質的な影響は限りなくゼロに近くなります。労働者は賃金が10%増えますが、物価が10%上がるので購買力は変わりません。株に投資している人は、株価が10%上昇しますが、物価が10%上がるのでやはり購買力は変わりません。
それでは、完全均等インフレ下では、経済への影響はゼロなのでしょうか? そんなことはありません。すごく損をする人と、得をする人が出ます。
損をするのは現金・預金を保有している人です。利子がほとんどつかない中で物価が10%上昇すると、預金の価値は実質10%目減りします。それでは、誰が得をするのでしょう? 得をするのは借金をしている人です。
つまり、インフレで一番得をするのは「日本国」です。均等インフレで企業の利益や個人の所得が10%増えると、法人税や所得税も10%増加するからです。それでも借金の残高は変わらないので、実質的に借金の価値が10%目減りすることになります。
このように、インフレによって家計が保有する現預金を目減りさせると同時に、国が抱える借金の価値を目減りさせることを「インフレーション・タックス(インフレ税)」といいます。家計が保有する現預金から10%の税金を取ったのと同じ効果が実質的に得られるからです。巨額の借金を積み上げた国では、インフレーション・タックスが起こりやすくなります。
コロナ禍の2020年・2021年、世界各国はこぞって財政の大盤ぶるまいで景気のたて直しをはかりました。その結果、世界各国の政府債務は急増する一方で、個人が保有する現預金も大きく増加しました。その行き過ぎを是正するために、インフレが起こり、インフレーションタックスによってふくらんだ個人預金と政府債務を目減りさせていると見ることもできます。
個別銘柄投資にチャレンジしたい方へ
最後に、個別株投資にチャレンジしたい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方など学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。
「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 」
「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編 」

(窪田 真之)