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著者の愛宕 伸康が解説しています。
「 暗雲垂れ込める2025年1~3月期の実質GDP、日米ともマイナス成長必至か 」
米アトランタ連銀GDPナウ急落、1-3月期マイナス2.8%
米国のアトランタ連邦準備銀行が作成している「GDP(国内総生産)ナウ」(GDPを算定するのに使われるさまざまな基礎統計が発表されるたびに随時推計する、いわゆるGDPナウキャスト)がマイナス2.8%に急落しました(図表1)。
図表1 米アトランタ連銀のGDPナウ

直前の2月28日に出た予測値で、1月の輸入増から純輸出が大幅減となったことを主因にマイナス1.5%となっていましたが、3日は米ISM(サプライマネジメント協会)の2月製造業景況感指数が悪化したため、下落幅がマイナス2.8%まで拡大しました。
2月のISM製造業景況感指数は50.3と、全体として見れば好不況の分かれ目である50を2カ月続けて上回りましたが、中身が良くありませんでした。新規受注が48.6と前月から6.5ポイント悪化、雇用が47.6と前月から2.7ポイント悪化、逆に価格が62.4と前月から7.5ポイント上昇しました。
トランプ政権の関税引き上げに対する企業の懸念が明確に表れたかたちですが、トランプ大統領は3日の記者会見で、4日発動としていたカナダ・メキシコへの関税について「もう決まった」と発言しており、GDPナウの1-3月期予測値が今後プラス方向に回復していく姿を想像するのが難い状況となっています。
5日にはISMサービス業景況感指数、7日には2月の雇用統計が発表されます。インフレ懸念の高まり、トランプ政権による政府職員大量解雇、早期退職プログラム、新規採用の停止などを踏まえると、市場関係者にとっては今後しばらくしっかりとシートベルトを締めなければならない局面が続くと言えそうです。
金利先物が織り込むFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ確率を見ると、6月が57.6%(3月3日現在)まで高まっています(図表2)。今後、6月利下げの織り込みがさらに強まっていく可能性が高いとみています。
図表2 金利先物が織り込むFRBの利下げ確率

日本の鉱工業生産指数、1-3月期は前月比マイナス1%程度の見通し
一方、日本でも重要な経済指標に動きがありました。2月28日に経済産業省から1月の鉱工業生産指数が発表され、前月比マイナス1.1%と3カ月連続の減少となりました(図表3)。「生産用機械」が前月比マイナス12.3%、「電子部品・デバイス」が同マイナス5.4%、「電気・情報通信機械」が同マイナス3.1%と、大きく減少しました。
図表3 鉱工業生産指数

経済産業省では、鉱工業生産指数とあわせ、「製造工業予測指数」を公表しています。
なぜ2月の前月比を予測指数の5.0%でなく2.3%としているのか。理由は予測指数に含まれるバイアスです。生産までのリードタイムが短い業種では機動的な調整が可能なため1カ月や2カ月先の生産計画は多めに作成する傾向があるとか、キャンセルが出やすい業種があるとか、さまざまな背景によって製造工業予測指数には強めに出るバイアスがあります。
図表4では、製造工業予測指数の「実現率」(実績値と1カ月前の予測値との乖離(かいり)率)、すなわち1カ月前の予測に比べ実績がどのくらい未達だったかを示す指標ですが、その2013年以降の中央値を計算し、業種別に比較してみました。
図表4 製造工業予測指数の「実現率」

これを見ると、「生産用機械」「電気・情報通信機械」「汎用・業務用機械」が1カ月前の予測から実績値が3~4%下振れる傾向がある一方、自動車などの「輸送機械」や「鉄鋼・非鉄金属」がほとんど下振れていない、つまりほぼ予測通りに生産されていることが分かります。
こうしたことを踏まえ、経済産業省では、強めに出やすいという製造工業予測指数のバイアスを統計的に除去した補正値を公表しています。それが図表3に示した2月の前月比2.3%というわけです。
2月予測指数の前月比5.0%をけん引しているのは、まさにバイアスの強い「生産用機械」(前月比14.0%)と「汎用・業務用機械」(前月比6.9%)ですので、補正値くらいの伸びに止まるとみておくのが妥当でしょう。従って、1-3月期の鉱工業生産指数の前月比はマイナスになる可能性が高いとみています。
実質GDPも1-3月期はマイナス成長に~日銀は6月に利上げできるのか~
鉱工業生産指数の伸びがマイナスになると何が問題かというと、経済活動全体を示すGDPにも大きな影響が出るということです。
図表5 鉱工業生産指数と実質GDP

図表5から明らかな通り、鉱工業生産指数の前期比と実質GDPの前期比には正の相関があります。すなわち、鉱工業生産指数の前期比がマイナスになれば、実質GDPの前期比もマイナスになる可能性が高いということを示しています。
製造工業予測指数の3月は前月比マイナス2.0%ですが、プラスの見通しは「電子部品・デバイス」の3.6%と「化学」の1.1%。予測指数の精度が高い「輸送機械」はもともとマイナス4.1%と慎重で、トランプ政権の関税引き上げの影響次第ではこれがさらに下振れる可能性もあります。
こうした状況を踏まえると、1-3月期の日本の実質GDPはマイナス成長になる可能性が高まっていると言わざるを得ず、その1次速報値が5月16日に発表された後の6月金融政策決定会合(6月16~17日)で、果たして日本銀行は追加利上げに踏み切れるかどうか。
今のところ、6月を次回利上げとする筆者の金融政策見通しは変えていませんが、もう少しデータを見極めた上で判断したいと思っています。いずれにせよ、前回のレポートで指摘した通り、物価上振れリスクが高まりつつある中で、日本銀行の金融政策運営が極めて難しいかじ取りを迫られていることだけは間違いありません。
(愛宕 伸康)