米国景気減速やトランプ関税への懸念、円高進行で日経平均はレンジ相場から下放れ
直近2週間(2月21日~3月7日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで4.9%の下落となりました。2024年10月以降続いていた3万8,000~4万円レンジを、2月28日には明確に下振れる状況となっています。
この期間中は当初から売り先行となり、3月7日には安値3万6,813円まで下落する動きとなっています。
この期間は、米SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)の大幅下落やトランプ大統領の半導体規制強化方針が伝わったことで、売り先行のスタートになりました。
その後も、経済指標の下振れが続いたことで米国景気の減速懸念が強まったこと、好調な決算を発表した米エヌビディア株が目先の出尽くし感から売り優勢となったことなどを背景に、上値の重い動きが続きました。2月28日には、トランプ大統領がカナダやメキシコ、中国に対する関税を計画通り発動すると再表明したため、日経平均は1,000円を超える大幅安となりました。
3月に入っても株価の戻りは限定的な状態が続き、3月7日にはドル/円相場が一時1ドル=147円台にまで下落したことで、日経平均の下げ幅は再度拡大する展開となっています。
2月後半以降に発表された米経済指標では、消費者信頼感指数が前月比で2021年8月以来の大きな下げ幅となったほか、ミシガン大消費者態度指数は1年3カ月ぶりの低さとなり、サービス業PMI(購買担当者景気指数)も2年ぶりに節目の50を割り込む水準となっています。
一方、国内では、2025年の春季労使交渉において、労働組合が要求した賃上げ率が32年ぶりの6%強の水準となったことで、日本銀行の早期追加利上げ観測が高まる状況となっています。
この期間の下落率上位は、 ディスコ(6146) 、 日本マイクロニクス(6871) 、 アドバンテスト(6857) 、 ローツェ(6323) 、 東京エレクトロン(8035) 、 KOKUSAI ELECTRIC(6525) などの半導体関連が多くを占め、各社15%以上の株価下落となっています。
古河電気工業(5801) 、 ソフトバンクグループ(9984) 、 フジクラ(5803) などのデータセンター関連も、「DeepSeek」台頭懸念に加えて、半導体株安の流れも波及する格好となりました。半導体関連以外でも、 Appier Group(4180) 、 SHIFT(3697) 、 Sansan(4443) 、 ラクス(3923) などプライム株は総じて弱い動きとなっています。
セブン&アイホールディングス(3382) はM&A(経営者による買収)の断念が売り材料とされました。
米関税政策の行方に不透明感強く、レンジ下抜けの日経平均は下値模索の展開へ
米トランプ政権の関税政策には極めて不透明感が強く、当面は株式市場の売買手控え要因とされそうです。
3月4日にはカナダ・メキシコへの25%関税、中国への10%追加関税を発動、今後も、3月12日に鉄鋼・アルミニウムの25%関税、4月2日に25%前後の自動車関税(カナダ・メキシコ含む)や貿易相手国ごとの相互関税、さらに、半導体や医薬品の25%前後の関税賦課などの実施が想定されています。
とりわけ、日本企業にとってはすそ野の広がりも大きいことから自動車関税実施の影響が大きくなるとみられています。発動実施が今後も先送りされる可能性を含めて、自動車株や医薬品セクターなどは手掛けにくい状況が続くと考えられるでしょう。
計画通りに関税策が実施された場合、米国にとっても景気減速懸念が強まることになり、加えて、移民対策に関しても、建設・住宅業界をはじめとして人手不足やコスト増につながることから、景気の下押し材料となります。これも、ドル/円相場の下落を通した日本株のマイナス材料につながる可能性が高いでしょう。
一方、賃上げの進展を背景として日本銀行の追加利上げ観測も高まっていますが、足元でのドル安・円高を受けて、利上げを急ぐ必要性はやや薄れているようには感じられます。ほか、足元では欧州関連銘柄がにぎわいを見せており、ロシア・ウクライナ戦争の終結期待が高まれば、一段と関連銘柄への期待が高まる余地はあります。
ただ、米国の欧州に対する関税策の発動リスクは残ります。財政拡張政策によって今後のECB(欧州中央銀行)の利下げペースも鈍化すると考えられることで、過度な期待感は禁物といえそうです。
また、トランプ政権では、中国の半導体産業への規制強化を主要同盟国に迫っており、独自に半導体規制を厳格化する案も検討しているもようです。
もみ合いレンジを下放れた日経平均は、当面は下値模索を余儀なくされそうですが、中では防衛関連株への資金シフトが続くと考えられます。
米国次期国防次官が日本は防衛費のGDP(国内総生産)比を3%(現在計画は2027年度に2%)に増やすべきと要求していること、欧州が防衛力強化策にかじを切ることからも、今後防衛費の一段の拡大は現実味を帯びていると考えられます。また、米関税策の影響が乏しいとみられる情報通信株なども逃避資金の受け皿となり得るでしょう。
そのほか、6月の株主総会を控えて、投資ファンドによる経営改善要求などが増加してくることが想定されます。親子上場解消などのグループ再編の動き、株主還元策拡充の動きは今後も多く顕在化してくるとみられます。
目先の需要なイベントとしては、3月18日に開催の米エヌビディアの基調講演、3月下旬に発表予定のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオ変更などが挙げられます。なお、最近目立っている4月の年度替わり当初の国内機関投資家の益出し売りにも注意です。
親子上場解消をテーマとすべき格好のタイミングに
2月末には イオン(8267) が、子会社の イオンモール(8905) 、 イオンディライト(9787) の完全子会社化を発表しました。上場子会社が多いとされたイオンが親子上場解消に向けて動き出したことによる波及効果は大きいと考えられます。
株主総会では親子上場解消が要求されるケースも増えるとみられ、次回の決算発表時前後では、こうした動きが多く表面化する可能性も高いでしょう。親子上場解消を物色テーマとする格好のタイミングであるとも判断されます。
下表は、親子上場関係にあって、時価総額1,000億円以上、配当利回り3.5%以上の銘柄群となります。
なお、 ゆうちょ銀行(7182) や かんぽ生命保険(7181) などに関しては、株式売出による保有株売却が想定されることで、経営の自由度が高まるなどのメリットはありますが、再編プレミアム自体は高めにくいでしょう。
(表)親子上場関係にある高配当利回り銘柄 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 3月7日
終値(円) 時価総額
(億円) 親会社 親会社出資比率
(%) 8892 日本エスコン 4.61 1,042.0 1,027 中部電力 51.2 7182 ゆうちょ銀行 3.77 1,485.5 53,739 日本郵政 61.5 8410 セブン銀行 3.65 301.3 3,553 セブン&アイ・ホールディングス 38.6 7451 三菱食品 3.63 5,100.0 2,220 三菱商事 50.1 2281 プリマハム 3.62 2,213.0 1,118 伊藤忠商事 46.2 8133 伊藤忠エネクス 3.62 1,602.0 1,872 伊藤忠商事 54.8 1934 ユアテック 3.59 1,755.0 1,214 東北電力 41.7 8572 アコム 3.59 390.1 6,111 三菱UFJフィナンシャル・グループ 37.6 7181 かんぽ生命保険 3.56 2,919.0 11,185 日本郵政 49.8 注:親会社出資比率は直近決算期
銘柄選定の要件
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 日本エスコン(8892・東証プライム)
分譲マンションや戸建て住宅の販売、商業施設・物流施設の開発や大型まちづくりなどの不動産開発事業、不動産賃貸を手掛ける総合不動産会社です。国内五大都市圏、および沖縄(2024年4月に支店開設)で事業を展開しています。マンションは「Le JADE(レ・ジェイド)」ブランドで展開しています。
日本ハムの北海道新球場の命名権を2020年に取得していますが、その契約金額は国内のネーミングライツ契約において最高額とみられています。なお、新球場を核とした北海道ボールパークFビレッジのまちづくり構想にも参画しています。
2025年3月期第3四半期(4~12月期)営業利益は137億円となり、2024年3月期第3四半期(1~9月期)比では70.0%増となっています。ちなみに、2024年3月期は決算期変更のため、15カ月の変則決算となっています。
2025年3月期通期では180億円の見通しとしていますが、これは前期の年率換算比で18.0%増の水準となります。住宅分譲、不動産開発、不動産賃貸と主要セグメントそれぞれ順調な拡大を想定しています。年間配当金は前期比横ばいの48円を計画ですが、同社では配当政策として、原則配当維持もしくは増配のみとする配当政策をとっています。
2018年8月に中部電力と資本業務提携を行って持分法適用会社となり、2021年4月には連結子会社となっています。
これまでも中部電力や中電不動産と共同事業を展開していますが、中部電力では、2025年4月の組織改定で不動産事業本部を新設、不動産部門を集約して成長分野と位置づけるまちづくりの企画開発を強化する方針としています。同社などとの情報共有も進めるとしていますが、中部電力では、資本関係について将来的に議論する可能性があるともしています。
2 セブン銀行(8410・東証プライム)
セブンイレブンをはじめとするセブン&アイグループの各店舗を中心に、日本全国で2万7,000台以上のATMを設置し、ATM手数料が収益の柱となっています。商業施設や観光地、空港や駅などにもATMを展開するほか、個人向けに利便性の高い口座事業、送金・集金サービスなどの法人向け事業も扱っています。
また、米国、インドネシア、フィリピン、マレーシアなど海外4カ国でもATMサービスを展開しています。2024年12月末のATM台数は2万7,848台で、そのうちセブンイレブンが2万2,889台となっています。また、個人預金残高は同6,206億円、ローンサービスの期末残高は同546億円となっているようです。
2025年3月期第3四半期(4-12月期)経常利益は231億円で前年同期比0.6%増となっています。国内ATM事業の伸長に加え、出資先株式売却益などの計上もあって2ケタ増収となりましたが、ATM入れ替えに伴う減価償却費の増加などが収益の伸びを抑制する形になったようです。
2025年3月期通期では280億円、前期比8.2%減を予想しています。上半期は30億円強計画を上回っていますが、セブン・カードサービスの会員獲得施策に伴うコスト増や、FCTIなどの海外子会社の下振れなどを想定しているようです。年間配当金は前期比横ばいの11円を計画しています。
2024年9月末段階では、セブンイレブン・ジャパンが38.59%を保有する筆頭株主になっており、そのほか、イトーヨーカ堂やヨークベニマルなど、セブン&アイHDグループ会社も大株主になっています。セブン&アイHDはカナダのクシュタール社が買収提案を行っていますが、会社側では自社単独路線を強めている印象です。
金融事業については同社株の保有比率を40%未満に引き下げ、非連結化を進める方針も打ち出しています。その場合、同社にとっては、自己株式取得の余力が拡大するほか、ATMをグループ外に設置しやすくなるなどのメリットも挙げられます。可能性は低下したとみられますが、伊藤忠・ファミリーマート陣営との協業余地なども残されてはいるとみています。
3 三菱食品(7451・東証スタンダード)
菱食を中心に、明治屋商事、サンエス、フードサービスネットワークの4社が経営統合して2011年に誕生しました。食品卸業界において、未上場の日本アクセス、国分グループとトップを争っています。
カテゴリー別では、加工食品、低温食品、酒類などが上位を占め、チャネル別では、スーパーマーケットが過半近くを占め、コンビニ、ディスカウントストアなどが続きます。
DD(データ×デジタル)マーケティング、物流事業、ブランド開発事業、海外事業の成長に注力し、次の収益の柱の構築に取り組んでいます。2025年1月、化粧品・日用品、一般用医薬品業界の中間流通におけるリーディングカンパニーであるPALTACとの連携を発表しています。
2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は245億円で前年同期比1.9%増となっています。コンビニエンスストアやディスカウントストアとの取引が堅調に推移し、採算性向上による粗利率の上昇もあり、物流費や人件費の上昇をカバーしています。
2025年3月期通期では315億円で前期比6.7%増の見通しを据え置いています。
2024年9月末段階では、三菱商事が50.11%を保有する筆頭株主となっています。三菱商事では2024年5月に日本KFCの全株式を売却したほか、ローソンもKDDIとの共同経営体制移行に伴って上場廃止となっています。
親子上場解消の動きを積極化させている印象も強く、同社株の再編の行方にも思惑は強まりそうです。ちなみに、業界トップを争っている日本アクセスは伊藤忠商事の完全子会社となっています。
4 プリマハム(2281・東証プライム)
食肉加工業界では第3位と位置付けられ、ハム・ソーセージ分野で強みを持っています。2023年度は、「香薫®あらびきポーク」がウインナーカテゴリーで販売個数1位となり、サラダチキンでもトップシェアを有しています。家庭用のウエートが高いとされているようです。
ファミリーマートを有する伊藤忠が筆頭株主でありながら、セブンイレブン向け総菜なども手掛けています。2025年4月から値上げを実施、対象は約200品で引き上げ幅は2.0~26.8%となるもようです。同社の値上げは2022年2月から通算7回目で、昨年9月に続く実施となります。
2025年3月期(4~9月期)営業利益は82億円で前年同期比20.4%減となっています。節約志向が継続する中、インバウンド消費の効果もあって、ハム・ソーセージを中心に売上は底堅い推移となっていますが、円安による仕入れコストの上昇や現地の相場高などから、収益は悪化しています。
第3四半期決算時には業績予想を下方修正、営業利益は従来予想の160億円から95億円、前期比19.6%減に引き下げています。コスト上昇の影響を値上げでカバーできない状況となっているようです。一方、2026年3月期は4月からの値上げ効果などが期待できるでしょう。2025年3月期年間配当金は前期比15円増の80円を計画しています。
2003年、伊藤忠が出資を行って連結子会社化しています。2024年9月末段階で、伊藤忠が46.19%を保有する筆頭株主となっており、伊藤忠食品も4.50%の株式を保有しています。同社では、伊藤忠の事業会社であるカナダ最大の養豚企業、かつ日本向けカナダ産冷蔵豚肉トップシェアを誇るHyLifeとブランド豚の共同開発なども行っています。
伊藤忠はグループ再編をいち早く進めてきた企業であり、同社や伊藤忠食品など上場子会社として残されている企業への展開も、近いうちに進む可能性は高いと考えられます。
5 伊藤忠エネクス(8133・東証プライム)
国内トップの売上規模を誇るエネルギー商社です。LPガス供給数は約150万世帯、カーライフステーション数は約1,600カ所、電力販売契約件数は約32万件など、強固な顧客基盤を誇っており、アスファルトの国内販売シェアも約25%と高水準にあります。
旧ビッグモーター社の事業再建へ、新会社「WECARS」(ウィーカーズ)を発足させています。2025年2月には、日本最大級の電力・ガス会社の切替プラットフォームを運営するENECHANGEに出資し、17.45%を保有する大株主となっています。
2025年3月期(4-12月期)営業利益は229億円で前年同期比2.2%増となっています。前年同期のメガソーラー売却益やCS跡地の売却益の反動が収益悪化要因となりましたが、ホームライフ事業、電力・ユーティリティ事業などの採算改善、産業ビジネス事業の好調推移などでカバーする形になっています。
2025年3月期通期では250億円で前期比6.0%増の見通し、第3四半期決算発表時点で従来予想の223億円から上方修正しています。また、年間配当金も56円計画から58円に引き上げ、前期比4円の増配となります。なお、同社では累進配当政策をとっており、配当性向40%以上を強く意識しています。
同社は1961年に伊藤忠石油が分割して設立されました。2024年9月末段階で、伊藤忠が54.78%の筆頭株主となっています。伊藤忠にとってエネルギー分野は中核事業の一つであり、親子上場解消に際しては、完全子会社化の方向性が高いとみられます。
足元は、WECARS再建の行方などを見極める局面とも捉えられますが、株価水準の割高感なども乏しく、将来的に完全子会社化へと進む可能性は高いといえるでしょう。
(佐藤 勝己)