パウエルFRB議長がトランプ関税におびえる市場を落ち着かせる発言をしたこともあり、先週の米国S&P500は5週間ぶりに上昇。日本株はバフェット氏が買い増しした五大商社株など高配当利回りの大型割安株が買われました。

今週は米国景気指標の悪化が心配ですが、日本株は3月末の配当取りの買いで堅調に推移しそうです。


パウエルFRB議長のハト派発言で米国株下げ止まり!バフェット...の画像はこちら >>

 米国のトランプ大統領が進める高関税政策に新たなネガティブサプライズはなかったものの、先週の米国株は相変わらず不安定な値動きでした。


 来週4月2日(水)には相手国と同率の関税を課す相互関税が発動予定で、自動車への25%程度の関税や半導体、医薬品に対する同程度の関税についてのトランプ大統領の発表に対する警戒感が根強いようです。


 ただ、3月19日(水)に追加利下げ見送りを決定したFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果を受け、米国株は落ち着きを取り戻しました。


 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比0.51%高と小幅ながら5週間ぶりに上昇。


 また、FOMC後の記者会見で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、トランプ関税による物価高再燃は「一過性」のものになると予想していることを明かしました。


 トランプ政権の過激な政策で米国経済の不確実性は高まっているものの、どんな事態になっても対処可能とするハト派的な姿勢を見せたことが市場の安心感につながりました。


 株価下落時にパウエルFRB議長が自らの発言で市場を落ち着かせることを、下落相場の損失を限定する「プット・オプション」になぞらえて「パウエル・プット」と呼びます。


 今回はこのパウエル・プットがうまく働いたようです。


 一方、一人負けの米国株とは違い、底堅い展開が続く日経平均株価(225種)は前週末比623円(1.7%)高の3万7,677円と2週連続の上昇。


 17日(月)に米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる世界最大級の投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK)が五大商社株の持ち株比率を引き上げたことが、全体相場の好転に大貢献しました。


 バークシャーの持ち株比率が8.09%から9.82%に最も引き上げられた 三井物産(8031) が前週末比8.3%高となるなど、五大商社株全てが5~8%も上昇。


 また、国内の長期金利の指標となる10年国債の利回りが約16年ぶりの水準となる1.5%台で高止まりしていることもあり、金利上昇が収益向上につながる銀行株が週間の業種別上昇率1位になりました。


 主力の 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) は11.3%も上昇。


 時価総額が大きい銀行株や商社株の影響力が強いTOPIX(東証株価指数)は日経平均株価の1.7%高を大幅に上回る前週末比3.3%の上昇でした。


 今週、米国で発表される経済指標の中では、28日(金)の2月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)に注目です。


 FRBが最重要視する、変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年同月比2.7%上昇と、1月から0.1%伸びが加速する予想です。


 一方、日本市場では27日(木)が3月の配当権利付き最終日になります。


 バフェット買い増しで上昇した五大商社株をはじめ、株価が割安で配当利回りの高い大型バリュー株中心に配当取りの買いが見込めるため、今週の日本株も堅調に推移しそうです。


 来週4月2日(水)発動予定のトランプ相互関税が予想したほど厳しいものでなかったり、再延期されるといった事前情報が流れたりした場合、不調の米国株が大きく反発する可能性もあるでしょう。


 週明け24日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比68円安の3万7,608円でした。


先週:投資の神様ウォーレン・バフェット氏の読み的中!日本株は五大商社株や地銀株が好調!

 先週の米国株は久しぶりにプラス転換しましたが、ハイテク株が集まるナスダック総合指数は0.17%の上昇にとどまりました。


 先週開催された開発者会議で株価を再上昇させるようなサプライズを起こせなかったAI(人工知能)関連の花形株・ エヌビディア(NVDA) が前週末比3.26%安と下落したことが足を引っ張りました。


 AI関連サービスの普及が進んでいることを評価されて2月中旬まで急騰していたフェイスブックの親会社 メタ・プラットフォームズ(META) も1.87%安。3月に入ってからの下落率は前月末比11.0%に達しています。


 2社以外にも、これまで長期間にわたって米国株の上昇を支えてきた アップル(AAPL) 、 マイクロソフト(MSFT) 、 アルファベット(GOOG) 、 アマゾン・ドット・コム(AMZN) は全て週足チャートの26種移動平均線を割り込み、最高値から20%以上下落するなどすでに弱気相場入り。


 トランプ政権に深く関与するイーロン・マスク氏率いる電気自動車の テスラ(TSLA) に至っては世界的な反トランプの不買運動も影響し、2025年に入ってからの下落率が前年末比38%に達するほどです。


 その一方で、ウォーレン・バフェット氏率いる バークシャー・ハサウェイ(BRK.A) は前週末比1.35%上昇して史上最高値を更新。2025年の上昇率は14.8%に達しています。


 トランプ関税発動による米国株の急落以前から、アップル(AAPL)など保有株を大量に売却してきた読みが的中していることが、投資家の好評価につながっているようです。


 バークシャーの2024年末の手元現金は過去最高の3,342億ドル(約50兆円)に達しています。


 投資会社の同社がいまだ「暴落待ち」の姿勢を続けていることは、米国株のさらなる下落を暗示しているのかもしれません。


 一方、日本株は高配当利回りの商社株や銀行、保険、証券株が買われる典型的なバリュー株相場になりました。


 特に今期2025年3月期の大幅増配を表明した東京都が地盤の 東京きらぼしフィナンシャルグループ(7173) が20.0%高。


 配当性向を30%から40%に引き上げるなど今後の株主還元策の拡充を表明した奈良県地盤の 南都銀行(8367) が17.0%高となるなど、地方銀行株の上昇が目立ちました。


 また、 トヨタ自動車(7203) が3.6%高となるなど、トランプ関税が懸念されて下落が続いていた自動車株にも見直し買いが入りました。


 19日(水)に追加利上げ見送りを決めた金融政策決定会合後の記者会見で植田和男日本銀行総裁が、追加利上げを行う前にトランプ政権の通商政策が日本経済に与える影響を見極めたい意向を表明したことも全体相場の下支え役になったようです。


 東京証券取引所が分類する33業種中30業種がプラスで終わるなど幅広い銘柄が買われましたが、食材など原材料費の高騰による業績悪化懸念で内需株の小売業、サービス業セクターはマイナスでした。


 17日(月)、横浜家系ラーメン店の「町田商店」などを運営する ギフトホールディングス(9279) が、キャベツや米の値上がりで2025年10月期の第1四半期の営業利益が前年同期比14.7%減となることを発表。株価は前週末比23.2%も急落しました。


 今後も生鮮食品や米の価格高騰が続くようだと、さすがに「値上げ疲れ」で個人消費が低迷し、内需株の業績悪化が進む恐れもありそうです。


今週:4月2日のトランプ相互関税発動に向けて不確実性高まる?米国景気・物価指標悪化なら急落も!?

 今週、米国では24日(月)に3月のサービス部門や製造業のPMI(購買担当者景気指数)速報値、25日(火)に2月新築住宅販売件数や民間調査会社コンファレンス・ボードの3月消費者信頼感指数など、多くの景気指標が発表されます。


 米国ではトランプ大統領の過激な政策発動やそれに伴う株安で、株式保有比率の高い富裕層を中心に個人消費の落ち込みが鮮明になりつつあります。


 悪い結果が出るとトランプ不況がいよいよ現実味を帯び、米国株が再び急落モードに陥るかもしれません。


 28日(金)発表の2月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)が予想以上に上ブレした場合も米国株の急落につながりそうです。


 先週は、米国が発動した鉄鋼・アルミニウムに対する一律25%関税に対抗して、4月1日(火)から米国産ウィスキーに50%の関税をかける報復措置を予定していたEU(欧州連合)が関税発動を4月中旬まで延期すると発表し、米国株上昇の一因になりました。


 しかし、トランプ関税とそれに対抗する欧州やカナダの報復関税の応酬が貿易戦争の拡大懸念につながっています。


 来週、4月2日(水)にトランプ大統領が自動車や半導体に対する高関税政策の発動を発表すると日本にとっても大打撃です。


 トランプ大統領は輸入品に高い関税をかけることで米国の巨額な貿易赤字が減り、製造業が復活して「米国が再び偉大な国になる(MAGA)」ことを目指しています。


 しかし、世界経済は米国の仮想敵国になりつつある中国をはじめ、世界中の国々が自国の得意な製品・サービスを輸出入し合う自由貿易やグローバリズムによって繁栄してきました。


 高関税政策は米国内で不満を持つ有権者向けのリップサービスで、トランプ大統領がやがては株価に配慮した発言を行うだろうという「トランプ・プット」への期待感は急速にしぼんでいます。


 トランプ大統領が本当に高関税をかけるのか、その発動時期はいつなのか、また延期するのではないかといった思惑が今週も市場の混乱要因になりそうです。


(トウシル編集チーム)

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