AI半導体について悪いニュースが続いている。ディスコの2025年1-3月期個別出荷高は前四半期比減少。
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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 当面のアメリカ・ハイテク株の見通し:AI半導体関連は避けたいが、生成AIのユーザー企業などには長期の買い場が到来しつつあるのではないか 」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄: エヌビディア(NVDA、NASDAQ) 、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ) 、 スポティファイ(SPOT、NYSE) 、 ネットフリックス(NFLX、NASDAQ) 、 フォーティネット(FTNT、NASDAQ) 、 クラウドストライク・ホールディングス(CRWD、NASDAQ) 、 ショッピファイ(SHOP、NASDAQ) 、 アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ) 、 メタ・プラットフォームズ(META、NASDAQ) 、アルファベット( GOOGL 、 GOOG 、NASDAQ)、 ソニーグループ(6758、東証プライム)
1.ディスコの2025年3月期4Q個別出荷額は前四半期比15.6%減
米国のトランプ大統領の相互関税政策が引き金となって、世界の株式市場が大幅に下落しています。今回は半導体、IT中心に当面の米国・ハイテク株の動きを考えてみます。
まず、 前回レポート(楽天証券投資WEEKLY2025年3月31日付け「AIブームは続くだろう。しかし、生成AI向け設備投資ブームは今年でいったん終了か。半導体関連7社(ブロードコム、ASMLホールディング、ディスコなど)の目標株価を引き下げる」) に続いて、足元の半導体市場の動きについて見ます。
4月4日付けでディスコは2025年3月期4Q(2025年1-3月期、以下前4Q)の個別(単独決算)売上高および出荷額の速報値を公表しました。それによれば前4Qの個別売上高は前年比18.5%増、前四半期比32.6%増の1,025億円となりました。検収が順調に進んだためと思われます。
一方で、個別出荷額は前年比2.4%減、前四半期比15.6%減の766億円となりました。会社側リリースによれば、ダイサ、グラインダの出荷は、スマートフォン、パソコン、自動車向けの需要が回復しませんでしたが、生成AI向けなどの一部用途での需要が下支えとなったということです。また、消耗品である精密加工ツールの出荷は、季節性などにより前四半期比減少しました。
ディスコはダイサ、グラインダで世界シェア70~80%の会社です。生成AI向けグラインダでは大半のシェアを持っていると思われます。そして、ダイサ、グラインダとそのブレード(刃、消耗品)は、切る、削るためのものなので、ディスコの出荷金額は個別、連結ともに半導体の生産個数に概ね比例すると思われます。従って、ディスコの出荷額(過去のデータでは個別出荷額は連結出荷額とほぼ同じトレンドで動きます)の伸びが鈍化したということは、足元でAI半導体を含む半導体生産が鈍化したか、あるいは何らかの事情で一時的に設備投資が鈍化したということを意味すると思われます。
今後の問題はこの減少が一時的なものなのか、これまで上昇してきた半導体市場のトレンド転換を示唆するものなのかです。会社側は今後の見通しを示していないため、4月17日に発表される予定の2025年3月期通期決算発表における会社側の説明を待つしかありません。以前から会社側は生成AI向けの設備投資ブームが続く場合でも、一段落する時期が到来する可能性はあるというコメントをしていたので、2025年1-3月期の出荷額の減少は一時的なものである可能性もあります。
ただし、今の株式市場の状況では、ディスコの個別出荷額の前四半期比減少は、半導体デバイス市場で伸びの鈍化を示すものと捉える投資家が増えてもおかしくないと思われます。私もその可能性があると考えています。
グラフ1 ディスコ:個別(単独)売上高と出荷額

表1 ディスコ:個別(単独)売上高と出荷額

2.再びマイクロソフトのデータセンター投資削減のニュースがでてきた
先週の楽天証券投資WEEKLYで、マイクロソフトは米国とヨーロッパで計画されていた新しいデータセンタープロジェクトから撤退したと報道されたことをお伝えしました。リース契約のキャンセルや延期も含まれているということです。このニュースに続き、4月4日付けブルームバーグは、以前よりも厳しい調子で、マイクロソフトが米国、アジアでデータセンター設備投資に関する交渉離脱や建設延期に動いていることを報じています。この調子だと、2026年6月期は設備投資が伸びないか、減少する可能性があります。いいニュースは今のところマイクロソフトがキャンセルしたデータセンターが他のユーザーに引き取られていることです。
ただし、マイクロソフト以外の大手IT(アマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、オラクル等)の設備増強により設備能力が大きく増えた場合は、2026年暦年の生成AI向け設備投資とAI半導体需要は2025年に比べ大幅に鈍化するか、場合によっては減少すると思われます。その場合、他に大きなAI半導体需要が発生しない限り、エヌビディアの2026年1月期は楽天証券で予想している71.7%増収、68.2%営業増益よりも低い増収増益率となり、2027年1月期もさらに増収増益率が鈍化するか減収減益となる可能性があります(表3)。
今の株式市場での半導体株の下落は、このような悲観的な見方を反映していると思われます。
表2 米国大手ITの設備投資と営業利益

表3 エヌビディアの業績

3.長期では生成AIのユーザー企業、生成AIと関連の薄い企業に注目したい
では、今の米国株には何も買えるものはないのでしょうか。
まず、最近出てくる生成AI向け設備投資関連のニュースの多くが、今後の生成AI向け設備投資の減速を示唆するものなので、これまでの私の意見と同じですが、エヌビディア、ブロードコム、TSMC等の半導体デバイス会社と、半導体製造装置関連企業は、今は投資する時期ではないと思われます。手仕舞うかポジション縮小を検討したほうがよいと思われます。
一方で、生成AIユーザーは増え続けています。これは画像生成、動画生成を含む各分野の生成AIの高性能化が急速に進んでおり、無料か能力に対して低廉な価格で利用できるためです。
次に生成AIブームとは関連がないか薄いが、堅実に業績を伸ばしている会社です。例えば、ソニーグループです。
また、米国の国防産業です。米国がNATO(北大西洋条約機構)から実質的に離脱する可能性があるため、ヨーロッパ各国は自力で防衛力を大幅に強化しなければならなくなりました。世界の兵器産業で大きな供給能力を持っているのは米国の国防関連企業です。
生成AIのユーザー企業、米国の国防関連企業について、具体的に銘柄を挙げると以下の如くです。
メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、アルファベット
パランティア・テクノロジーズ
フォーティネット、クラウドストライク・ホールディングス
ネットフリックス、スポティファイ、ソニーグループ
ショッピファイ
ノースロップ・グラマン、RTX、GEエアロスペース
これらの銘柄の中で、直近の楽天証券投資WEEKLYに掲載した業績表を示します(トウシル掲載時の業績表で、レポートを執筆した銘柄のみ)。もともと高く評価されている会社が多いため、必ずしも十分割安になったとは言えない銘柄もありますが、長期で見ると買い場になりつつあるというのが私の意見です。ただし、米国が不況に突入する場合は、銘柄によってはここでの業績予想よりも業績が鈍化する場合があることは留意する必要があります。
投資する場合は、今の株式市場の中では、現物株の小口で時間分散しながら投資することを検討したいと思います。
また、個別銘柄だけではなく、改めて分散投資によるリスク分散と収益追求が重要と思われます。
米国株では、S&P500やナスダック100への総合型インデックス投資(時価総額型)だけでなく、ニューヨークダウ連動型ETF(上場投資信託)、各種の業種別ETF、ハイテクとハイテク以外の個別銘柄にも目を向けたいと思います。
中国とヨーロッパにも注目したいと思います。国別地域別ETFや国別地域別の業種別、テーマ別ETFへの投資です。中国は、「DeepSeek」の登場がきっかけとなって、AIとソフトウェアを中核としたハイテク産業が成長する可能性がでてきました。
またヨーロッパは、米国がNATOから離脱することによって、大軍拡を行わざるを得なくなりました。そのため、ドイツ中心に歳出拡大に動き出しており、これがヨーロッパの株価にポジティブな影響を与えています。今後の焦点は、大軍拡を支える経済成長を実現できるかです。
表4 パランティア・テクノロジーズの業績

表5 スポティファイ・テクノロジーの業績

表6 ネットフリックスの業績

表7 ソニーグループの業績

表8 フォーティネットの業績

表9 クラウドストライク・ホールディングスの業績

表10 ショッピファイの業績

表11 アルファベットの業績

表12 アマゾン・ドット・コムの業績

表13 メタ・プラットフォームズの業績

本レポートに掲載した銘柄: エヌビディア(NVDA、NASDAQ) 、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ) 、 スポティファイ(SPOT、NYSE) 、 ネットフリックス(NFLX、NASDAQ) 、 フォーティネット(FTNT、NASDAQ) 、 クラウドストライク・ホールディングス(CRWD、NASDAQ) 、 ショッピファイ(SHOP、NASDAQ) 、 アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ) 、 メタ・プラットフォームズ(META、NASDAQ) 、アルファベット( GOOGL 、 GOOG 、NASDAQ)、 ソニーグループ(6758、東証プライム)
(今中 能夫)