私が日本および日本株の未来に強気の理由をお話しします。25年間の日本株ファンドマネージャー時代に見てきた、日本のバブル崩壊と復活、日本企業の構造変化がこれからの成長につながると考えています。


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日本の未来は明るい?

 トランプ関税ショックで売られる日本株を見て「いよいよバブル崩壊」と言う人がいます。私の見方と正反対です。


 私は「もともと割安な日本株が、さらに割安になった」と考えています。短期ショックがいつまで続くか分かりませんが、ショックが収まった後の長期的な上昇余地は大きいと考えています。


 私が日本株にとても強気なのは、短期的見通しに基づくものではありません。トランプ関税や世界景気がどうなるか、短期的なことは誰にも分かりません。


 こんな時、短期的な予測ではなく、長期的に日本という国、日本株がどうなっていくか考えることが大切です。私は日本の未来は明るいと考えており、日本株に強気です。


日本の未来を悲観的に見る人からよく聞くこと

 日本の未来を悲観的に見る人と、私の考えがどのように異なるか、細かく見ていきます。日本に対する代表的な悲観論に、以下のようなものがあります。


【1】 人口が減る国、GDP(国内総生産)成長率が低い
【2】 IT後進国。米国にも中国にも勝てない
【3】 労働生産性が恒常的に低い
【4】 引用論文数の低下など科学立国に陰りの兆候
【5】 自然災害多発国。地震やスーパー台風の被害が続く


 日本人は、どうしてこうも物事を悲観的に見る人が多いのか、不思議に思います。上記の悲観論に対して、私は以下のように考えています。


【1】 人口が減る国、GDP成長率が低い


 日本企業は、成長率が高い欧米やアジアにどんどん出ていくことで成長しています。かつて内需産業といわれていた小売、食品、サービス、金融、陸運などが海外で成長するようになりました。自動車、電機、機械など輸出産業は輸出を伸ばせなくなっていますが、海外現地生産・現地販売が当たり前になり、海外ビジネスを拡大しています。


 日本企業はさらに近年、海外で巨額のM&A(買収や合併)を実施し、海外ビジネスの拡大に拍車をかけています。日本人は、シャープなど日本企業が海外企業に買収されると「いよいよ日本の衰退が始まった」と大騒ぎしますが、日本企業がどんどん海外企業を買収していく事実には無頓着でおごり高ぶることはありません。


 こうして海外ビジネスを拡大させた成果で、日本は経常収支黒字を稼ぎ続けています。「失われた10年・20年」といわれる低迷期も、経常収支は常に黒字でした。結果として、世界最大の純債権国となっています。その富を活用して、さらに海外ビジネスを拡大していく積極性を失っていません。


 これまでも、これからも、日本企業は海外で成長していくと思います。


【2】 IT後進国。米国にも中国にも勝てない


 確かに、日本はIT活用やAI(人工知能)活用で、米国にも中国にも遅れてしまいました。

ITやAI活用のルールづくりで政府が強いリーダーシップを発揮できていないことが致命的です。


 ただし、製造業のITを活用した構造改革は急速に進みつつあります。脱製造業・ITを活用した成長企業への転換の成功事例として ソニーグループ(6758) があります。ソニーは20世紀、製造業として世界トップの地位に立ちました。


 その後、製造業の没落で一時低迷しましたが、今はゲーム、映画、音楽の総合エンターテインメント業として復活して、世界でトップクラスの競争力を持ちます。ソニーに限らず、 トヨタ自動車(7203) や 日立製作所(6501) 、 富士通(6702) など日本を代表する製造業で、ITを使った構造改革が急速に進みつつあります。


 遅れていたAI活用のインフラの整備も、コロナショックを受けてようやく進み始めています。まだ出遅れは否めませんが、少しずつAIを活用した構造改革が社会全体で進みつつあります。


【3】 労働生産性が恒常的に低い


 日本の労働生産性が欧米に比べて低いことは有名です。ただし、それは単純にネガティブとだけは言い切れません。労働生産性が低いといわれつつ、日本のオフィスワーカーの事務能力の高さ(ミスの少なさ)は欧米と比べものになりません。日本的サービスの品質の高さも、世界でトップクラスです。


 それが、日本の観光業やサービス産業の強みになっていますし、製造業でもきめ細かなカスタム対応やアフターサービスの強みにつながっています。そこまでやるから労働生産性が低くなる一方、そこまでこだわることが日本の競争力につながっている部分もあります。


 今後は、AIの活用をさらに進めて、サービスの品質を落とすことなく、高い労働生産性を実現できるようになることが、期待されています。


【4】 引用論文数の低下など科学立国に陰りの兆候


 確かに、一時期に比べて、科学立国としての地位が低下していることは否めません。そうはいっても、世界中で日本車が走り回り、日本のロボットが使われ、日本のアニメや日本食が普及していく流れは変わりません。基礎研究で遅れても、応用分野で巻き返す日本のお家芸は健在と考えています。


 日本の強さは、あらゆる分野で世界一を取ろうとするところにあると思います。世界第1位だったものが、2位や3位に低下すると、「衰退の始まり」とすぐ大騒ぎになります。今でも、客観的に見て日本は技術大国です。それでも危機感を失わないところが日本人の強みと思います。


【5】 自然災害多発国。地震やスーパー台風の被害が続く


 日本が自然災害の多発国である事実は変えられません。

でも、それをバネに日本人は努力を続けています。大災害が起こった時に、日本特有の強い団結によって危機を克服していく力は、海外からも驚かれています。


 1923年関東大震災、1995年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震など、大きな地震災害が続いています。その都度、対策を強化し、災害に強い国に変えてきました。その結果、日本の耐震建築技術は、世界トップです。その技術が、海外で土木・建設工事を受注する際の強みにもなります。


 阪神・淡路大震災の後、強度に問題のあることが分かった建物や高速道路には、全国で一斉に耐震補強工事がされました。東日本大震災では、津波によって大きな被害が発生しましたが、地震の揺れで倒れた建築物はほとんどありませんでした。


 近年多発している豪雨による河川の氾濫や洪水被害も、これから対策を強化していくことで、少しずつ被害を小さくしていくことが可能でしょう。


 日本は確かに自然災害の多い国ですが、一方で世界中がうらやむ豊かな国土を持つという事実もあります。世界がうらやむのは、まず水資源が豊富にあることです。四季折々の美しい自然に恵まれていることも、日本の宝物です。


 中国内陸部や米国東海岸、中東アフリカなど水不足が経済成長の障害になる地域は地球上にたくさんあります。日本人が「安全と水はタダ」と思っていることが、経済にとってどれだけ大きなプラス要因か、改めて見直して良いと思います。


「失われた20年」から「復活の20年」へ

 平成元年(1989年)は、日経平均株価が史上最高値(3万8,915円)をつけた年です。まさに、「バブル崩壊」「失われた10年」といわれる1990年代がスタートしたところでした。平成に入って最初の10年・20年は、「失われた10年」「失われた20年」といわれます。


 私は、その呼び名は、極めてミスリーディングと思います。なぜなら、その時に実施された構造改革によって、日本企業は復活したからです。


<平成・令和の日経平均推移:1988年12月末~2025年4月(23日)>
日本の未来に私が強気の理由(窪田真之)
出所:楽天証券経済研究所が作成

 平成最後の10年間(2010~2019年)は、構造改革の成果によって、日本企業が復活する時となりました。令和に入ってからの20年(2020~2040年)は、その成果によって、日本企業が飛躍する時になると考えています。


 トランプ関税ショックは世界経済にとって大きな厄災ですが、それでも人類は、リーマンショックやコロナショックと同様に、何らかの方法でこのショックを乗り越えていくと思います。トランプ政権があまりに極端な保護主義・孤立主義を打ち出したため、世界中で自由経済・グローバル分業の大切さを再認識する声が広がっていることに注目しています。


<再掲:平成・令和の日経平均推移:1988年12月末~2025年4月(23日)>
日本の未来に私が強気の理由(窪田真之)
出所:楽天証券経済研究所が作成

日本企業をよみがえらせた平成の構造改革

 リーマンショックを経て、復活の10年が始まりました。日経平均が3万円を超え、一時4万円も超えたのは、失われた20年で行った構造改革の成果と考えています。その内容は、以下の通りです。


<1998~2005年の構造改革>


◆輸出企業は海外生産主体に


 今の日本企業は原則として、海外現地生産・現地販売を徹底しています。アジアで生産して欧米へ輸出するパターンもあります。日本で生産して輸出するものは、日本特有の高付加価値品に限定するようにしています。


 そうすることに、二つのメリットがありました。まず、米国などとの貿易摩擦が起こりにくくなったことです。1987年には日米貿易摩擦が苛烈になり、一時は米国議員が日本製品を議会で金づちでたたき壊すといった感情的な対立に発展していました。


 今の米中貿易摩擦に似た状況でした。ところが、日本企業はその後米国で現地生産を拡大させ、今は米国と貿易摩擦が起きにくくなっています。


 海外現地生産には、もう一つのメリットがあります。日本の輸出企業が、円高でもダメージを受けにくくなったことが挙げられます。さらに、日本で工場労働者が集まりにくくなった問題も、海外現地生産を拡大することで解決しています。


 中国企業もこれからは米国での現地生産を増やして、米国との摩擦を避けることが必要です。ところが、米中の政治対立が激化して、それができにくくなっています。日本企業は早くから、海外での現地生産を立ち上げてきたことで米国社会に溶け込みましたが、中国企業には当分それができそうにありません。


◆金融危機を克服


 10年以上かかりましたが、日本の金融機関は、不動産バブル・不良債権の処理を完了しました。大手銀行の破綻や合併が相次ぎ、13行あった都市銀行は、3メガ銀行グループに集約されました。


◆生き残りを賭けた合併・リストラが進む


 金融、化学、鉄鋼、石油精製、セメント、紙パルプ、医薬品、小売業などで、生き残りを賭けた合併・リストラが進みます。1998~2005年は、戦前からのライバル企業がどんどん合併・経営統合し、経済史に残る「大合併時代」となりました。


◆財務体質を改善


 日本中の企業が借金返済にまい進。借金過多のバブル時より財務が大幅改善。無借金企業も増えてきました。


◆省エネ・環境技術をさらに進化


 日本は1970年代以降、省エネ・環境技術で世界をリードしてきましたが、2000年代の資源価格高騰でさらに技術優位を広げました。


<2006~2013年の構造改革>


◆内需産業が海外で成長


 内需産業(小売、食品、サービス、金融、陸運など)が海外(主にアジア)に進出。日本の厳しい消費者に鍛えられた日本の内需産業は、アジアでは高品質サービスで高い競争力を持つことができました。その成果で、人口が減る日本の内需産業であった小売業・食品業から、アジアで売り上げを拡大する成長企業が多数出るようになりました。


◆IT活用・AI活用によって技術革新が進む


 ITを駆使した成長企業が増えてきました。AIの本格的な活用も始まりました。製造業でも、サービス化・IT化に対応した「脱製造業」のビジネスモデルが広がりつつあります。サービスロボットを活用した、サービス産業の生産性向上も進み始めています。


◆海外で巨額のM&Aを仕掛ける


 日本企業が大型M&Aを次々と実施し、海外企業を買収。海外進出を加速しています。


◆働き方改革・ガバナンス改革


 道半ばですが、労働生産性を高める働き方改革、ガバナンス改革が、急速に進んでいます。コロナ禍でリモートワーク・リモート会議が広がったことも働き方改革に貢献しています。


日本の強さは、日本人が常に危機感を持ち続けること

 私は、令和に入ってから、平成の構造改革の結実によって、日本株がさらに飛躍する時期になると予想しています。


 ところで、日本人が日本に悲観的なのは日本人の良いところだと思います。日本人が優れていると思うのは、世界中あらゆるところで、日本の自動車が走り、日本のロボットが使われ、日本の技術が活躍していても、簡単に「おごり高ぶらない」ところです。世界に誇る技術や企業がたくさんあっても、「日本はこのままではダメになる」と危機感を持ち続け、努力を続けています。


 もう一つ、優れていると思うところは、日本人の多くがチームプレーに徹することができることです。若い世代で個人主義が広がっているともいわれますが、基本的な資質は変わっていないと思います。体格差で劣る日本人が、スポーツで欧米選手に勝つのは、チームワークが生きる時が多いことからも分かります。


 さらにもう一つ、日本人の優れているところは、品質に徹底的にこだわることです。製造業で培われた高品質は、サービス化・IT化社会になり、きめ細かな高品質サービスとして、国際的に評価されるようになっています。その成果が、これから出ると思います。PER(株価収益率)や配当利回りなどで見て割安になった日本株の投資魅力は高いと思います。


 日本株を売り、日本への投資をやめるべき時は、日本人が皆(今の私のように)、「日本はすごい」と自画自賛する時でしょう。日本人が私のように「日本は素晴らしい」という人ばかりになった瞬間、日本の成長は止まると思います。まだ、そうはなっていないと思います。


(窪田 真之)

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