4月雇用統計では、非農業部門意思決定者数の増加予測は13.3万人、雇用率は4.2%とみられています。注目点は、トランプ大統領が雇用市場に与える影響です。

コロナ禍後の雇用市場の変化を従来の統計で捉えることが課題であり、FRBの金融政策決定にリスクを負う可能性もある。雇用市場の変化がマクロ経済およびボス影響を注視することが重要です。


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4月雇用統計の予想と注目ポイント

 BLS(米労働省労働統計局)が5月2日に発表する雇用統計では、4月のNFP(非農業部門の就業者)は13.3万人増加の予想となっています。前回3月は22.8万人増でした。失業率は4.2%で、3月から横ばいから若干の改善が見込まれています。また平均労働賃金は、前月比0.3%増(前月0.3%増)、前年比3.9%増(前月3.8%増)の予想です。


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非農業者部門雇用者数と失業率の推移

 今回の雇用統計では、トランプ関税の影響が雇用市場にどれほど表れているかが注目されています。米国の経済指標を見ると、消費者センチメントや景況感指数などの「ソフトデータ」が低迷している一方で、小売売上高や耐久財受注などの「ハードデータ」は、まだ堅調さを保っています。


 しかし、ハードデータの強さは関税実施前の駆け込み需要が大きな理由であり、今後も持続するか不確実な状況です。トランプ関税が発動される過程で、ソフトデータの弱さがハードデータにも表れるかどうかが今回の雇用統計の重要なポイントになるでしょう。


 FRB(米連邦準備制度理事会)は、「利下げを急ぐ必要はない」との考えですが、今年2回の利下げ見通しを維持するなど、慎重な姿勢を併せ持っています。5月6、7日には、FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されますが、今回の雇用統計の結果が強い影響を与えることになるでしょう。


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平均労働賃金の推移(%前月比)

雇用市場は変化している

 新型コロナウイルス流行後の雇用市場は急速に変化しています。

在宅勤務、フレックス制やテレワークによる地方移住などの新しい働き方が広がり、雇用関係に縛られないフリーランスやギグワークを選択する人も増えています。


 FIREで早期退職する人の一方で、ミッドライフ・クライシス(中年期の危機)を乗り越え仕事を続ける中高年もいます。インフルエンサーと呼ばれる新しい職業も登場しています。


 働き方だけではなく販売スタイルも大きく変化しています。小売スタイルは対面販売からネット販売中心となり、飲食店やスーパーではセルフサービスやセルフレジが今では一般的です。


 労働市場の構造変化は、働き方スタイルの選択肢を増やしました。しかしその反動として「全社員はオフィスに戻るべき」といった復古主義(コロナ禍前の昔に戻りさえすれば全てがより良くなる)の危険な考え方が広がっているのも事実です。変化を否定するよりも、変化を認識しそれに適応する方がはるかに生産的です。


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平均労働賃金の推移(%前年比)

 雇用市場の構造変化は、従来の統計では正しく捉えることができません。労働市場の構造変化が起きる前の手法を用いている米雇用統計で予想と結果のギャップが大きくなるのは仕方がないことです。問題は、FRBが雇用統計のデータをもとに金融政策を決定していることです。そのことで米経済だけではなく世界経済が間違った方向に進むリスクがあるのです。


 雇用統計で重要なのは、毎月の数字よりも、雇用市場の変化が及ぼすマクロ的な影響です。例えば、失業率が過去最低水準にあることは、仕事を失う恐怖が薄れていることを意味します。将来に備えて貯金するよりも、今お金を使おうとする人々が増えるということであり、米国の景気を支える重要な要素となります。


 実質賃金の伸びが緩やかになり、名目賃金の伸びが鈍化するということは、米国経済がデフレやハードランディングを回避し、緩やかなインフレの状態でソフトランディングを果たすチャンスが高まっていることを示します。米国経済の「ゴルディロックス」状態(過熱も冷え込みもない適度な状況)が続く期待が高いということで、米国資産にとって良いニュースとなります。


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米 非農業部門雇用者数(NFP)・米 失業率・平均労働賃金(前月比)・平均労働賃金(前年比)

(荒地 潤)

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