5月は米中貿易協議の進展で株高となり、短期資金が中小型株へシフトしました。上場維持基準厳格化によるMBOや株主還元の増加もポジティブな変化です。
<指数パフォーマンス比較~バリュー株orグロース株どっち優勢?~>

5月の中小型株ハイライト「『スタグロ』に今年最大級の熱視線!」
5月は、トランプ関税に端を発した「米国売り(ドル売り、米債売り、米株売り)」のアンワインド(巻き戻し)で株高の1カ月となりました。米英に続き、本丸として注目された米中の貿易協議も関税率の大幅な一時引き下げで合意。見直し買いの動きは大型株から始まり、東証株価指数(TOPIX)が5月13日まで13連騰を記録しました。
戻り局面での買い手は外国人投資家と自社株買いで、売り手は個人投資家と信託銀行(主に年金)でした。あまりに急ピッチに関税下げ分を取り返したことで、日経平均株価で3万7,000円台の東京時間は国内勢の「戻り売り」に押される日ばかりに。3万8,000円台にいたっては滞在時間も短く、「3万8,000円の壁」なんて表現が定着しました。
そんな中で起きたのが、短期資金の中小型株シフトでした。日経平均が関税下げ分の全戻しを達成したことで上値追いのムード後退、円高進行の重しがある中で為替と関係ない株が多い、トランプ関税とも関係ない株が多い―といった理由は付けられますが、実際は何が理由だったんでしょうか。
また、決算発表シーズンでしたが、プライム上場の メドピア(6095) やグロース上場の ゴルフダイジェスト・オンライン(3319) のMBOによる株式非公開化のニュースもありました。
TOBで大幅なプレミアムが付くという株主にとっておいしい話は、親子上場の子会社とか低株価純資産倍率(PBR)のバリュー株で起きるもの、グロースの中小型株には無縁といった認識があったと思います。それが複数グロースの中小型株で起きたことは、「他にもそういう話が出てくるかも」と連想させるポジティブな変化だったようにも思われます。
この背景には、上場維持基準の厳格化が今年3月から始動したことが考えられます。
そして、上場維持を考える企業の方は、株価を高めるアクションが必要。スタンダードやグロースの中小型株で、株主優待の新設、初の配当や自社株買いの決定といったニュースも増えてきて、こちらも明るい話題です。
その決算発表シーズンの前後で、指数を押し上げる力を持つグロースの大型バイオ株(サンバイオとジーエヌアイグループ)がグッドニュースで急騰。
日経平均株価がファーストリテイリングや東京エレクトロン急騰で押し上がるのと同じ要領で、一部バイオ株効果で東証グロース250指数(皆がグロース市場の強弱の指標としている指数)が上昇しました。5月9~20日まで、東証グロース250指数も8連騰を記録。

この間にプライム市場が低調で、売買代金も減少していたこともあって、個人投資家の短期マネーが「なんだかグロース市場がいいみたいだぞ」を理由に引き寄せられたように思われます。こうなると、買いが買いを呼び、上昇することで人通りも増えてきます。東証スタンダード市場、東証グロース市場とも1日当たりの売買代金が2,000億円を超えるようになりました。
実際は、スタンダードでいえば仮想通貨関連で メタプラネット(3350) 、グロースでは サンバイオ(4592) や QPS研究所(5595) など人気株の一角に資金が集中していただけではあるのですが…。流動性が高まることで、これまで流動性の問題で敬遠していた投資家層のマネーも入るようになります。
株価にとって流動性というのは非常に重要で、流動性は「プレミアム」と呼ばれ、より高い株価収益率(PER)を許す(マルチプル切り上げ)要因になります。
スタンダード市場とグロース市場の売買代金を合算しても、プライム市場の売買代金の5%程度が平常でしたが、5月19日には11%に到達するなど、今年最大級に中小型株が輝く1カ月になったと言えるはず!
新NISAで中小型株! 今月の銘柄アイデアは…「好業績+需給良好+割安=コスパ◎」
株価が落ち着いて5月を終えようとしていましたが、月末の目前30日、トランプ米大統領が輸入鉄鋼・アルミニウムへの関税倍増を表明しました(当然、これを市場は嫌気)。相変わらずトランプ米政権の関税政策には不透明感を残したままですが、6月は日米の貿易協定の進展を待ちたいところ。
すでに4回の貿易協議を終えていますが、合意に向け「進展している」という情報だけ伝わっています。6月中旬にカナダでG7サミットがあり、その辺りが合意の目安となりそうです。
とはいえ、関税ハイボラ相場にあって、関税と縁が遠い中小型株の優位性は5月までで十分に確認されています。流動性が高まっているというポジティブな事象も踏まえて、6月も期待目線で追っていきたいところ。
6月といえば、昨年、おととしとパフォーマンス良好な月でもありました。「5月に株を売れ(Sell in May)」と言いますが、5月に売っていたら後悔しかなかった最近の6月相場。

特徴でいえば、2年連続でグロース市場が最もパフォーマンスが良好だったこと。スタンダード市場も、昨年はプライム市場を大幅にアウトパフォームしています。プライム市場と、その他2市場の違いは、個人投資家の影響力。
3月決算企業の配当振込日は、6月後半とする企業が大半です。6月第4週の24~27日に株主総会が集中予定なのですが、総会の翌日に配当が振り込まれるのが一般的です。
プライム上場企業の浮動株ベースで試算してみたところ、最も多いのが6月30日に189社で1.1兆円、次が6月27日に171社で1兆円。このサイズの配当金が株主の口座に入るわけで、配当金の一部が再投資の形で市場に還流することが考えられます。
高配当の大型株で得た配当金の比率が高いのは間違いないので、再投資の中心は高配当の大型株に流れるとみられますが、中小型株やグロース株にだって一部回ってくるはず。
そしてこれは純粋に買い越し要因となるため、市場にとってプラス効果を生みます。あくまで外部環境面で株安要因が発生しなければ(トランプ米大統領がまたタリフマン暴走をしなければ、など)ということですが、需給面での追い風も期待目線の理由です。
また、5月中旬から商いが増えて、高値を切り上げたわけですが、その過程で良かったことに「上値の買い手が外国人投資家だったこと」が挙げられます。決算発表が集中した5月第3週、外国人投資家が東証スタンダード市場で134億円、東証グロース市場で120億円の大幅な買い越しとなりました。
今回の決算発表シーズンを振り返ると、中小型株が決算発表後に、ややポジティブ程度の決算でもしっかり買われるケースが目立ちました。
そもそも、中小型株市場が下げ過ぎたまま、割安放置されていた銘柄が多かったと解釈することもできそうです。決算後に上昇した銘柄を久々に見たら、「こんなに株価上がってもまだPERこんな低いの!?」みたいな銘柄多いですもんね。今回は、業績が良好で、かつ需給(値動き)も良好なのに、まだ割安!そんな銘柄をピックアップしていきましょう。
高成長&高需給&割安感 兼ね備えた新興の中小型株
【条件】(1)年初来高値形成日が5月最終週以降
(2)年初来高値乖離率がマイナス5%未満
(3)今期予想の増収率、営業増益率が20%以上
(4)予想PERが市場平均以下
※年初来高値との乖離が小さい順、5月末終値 市場 コード 銘柄名 年初来
高値乖離率 予想PER
(倍) S 9325 ファイズHD 0% 10.6 G 5038 eWeLL 0% 37.6 G 4495 アイキューブドシステムズ 0% 16.9 G 3625 テックファームHD ▲1% 14.9 S 3294 イーグランド ▲1% 6.7 S 3323 レカム ▲1% 14.4 G 4417 グローバルセキュリティエキスパート ▲2% 33.9 G 6069 トレンダーズ ▲2% 9.8 S 7833 アイフィスジャパン ▲2% 10.9 G 2160 ジーエヌアイグループ ▲3% 17.9 S 7273 イクヨ ▲3% 2.4 G 7378 アシロ ▲3% 17.3 G 4058 トヨクモ ▲3% 28.4 G 5029 サークレイス ▲4% 31.7 G 7325 アイリックコーポレーション ▲4% 14.3 G 9554 AViC ▲4% 26.2
業績条件は、今期の業績予想が増収率、営業増益率とも20%超と高めに設定。それでいて、「PERまだこんな低いの?」要素を取り込むため、予想PERで割高感が大きくない銘柄を残していきます。
業種の違い、流動性の差などありますが、今回の判定基準は5月末時点の所属市場の予想PER(スタンダード市場は予想PER14.5倍、グロース市場は同38.3倍)を下回っているかどうかとしました。
それでいて、好需給の要素を取り込むため、株価が高値圏に位置するかどうかも考慮。年初来高値を5月最終週以降(最近)につけ、年初来高値との乖離(かいり)率が小さいものを残しました。
スタンダードでは高値圏で業績好調ながら予想PER10倍割れ、グロースでも予想PER10倍台の銘柄が複数存在。上値の重たい日経平均に比べ、まだまだ上値余地が十分見込める中小型株は多そうです。
(岡村 友哉)