米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席の会談を巡る協議が、水面下で進行しているようです。また、8月12日に関税の一部停止の期限を迎えるため、関税交渉の3回目会合が間もなく行われる見込みです。

米国の対中スタンスに緩和の兆しもみられる中、米中関係はどこへ向かうのでしょうか。今後の注目点を解説します。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 トランプ・習近平の「世界トップ2会談」はいつ開かれる? 」


世界秩序を左右する米中の関係

 世界で最も重要な2カ国間関係はどこでしょうか?


 さまざまな見方や視点があると思います。また、地域や国によって、「われわれの関係こそが最も重要」という主張が出てきて、かつさまざまな重要性が混在しているというのがこの世界における常態だと思います。


 一方で、世界の平和や安定、経済や秩序といった巨大な要素、基本的な情勢を巡る行方を根底から左右し得る(促進や破壊を含め)関係の中では、やはり米国と中国との関係が、最も切実であり、インパクトとしても最大になると思います。


 冷戦が終結し、ソ連が解体されて間もなく、米国は世界で唯一の超大国となり、いわゆる「敵なし」一強の時期が続きました。「中国崩壊論」がささやかれた時期もありましたが、中国は崩壊することなく、むしろ多くの国や地域に脅威を与えるスケールとスピードで成長を続け、今となっては、米国が「世界秩序の現状を変更する意図と能力を有する唯一の国家」と位置付け、戦略的競争相手と見なす国家にまでのし上がりました。


 国家だけではなく、ファーウェイ(華為技術)、BYD(比亜迪)、DeepSeek、CATL(寧徳時代)、シャオミ(小米)、アリババなど、世界の次元で先端技術や経済構造に影響を与える民間企業も出てきています。


 このような中、米中二大国間の戦略的競争というのは、単に経済規模を巡るものにとどまらず、半導体や人工知能(AI)といった先端技術、教育、軍事力、地政学、そして人権やイデオロギー、政治体制などを含む、国家間競争、体制間競争という様相を呈しているのです。


 古い言葉に聞こえますが、あらゆる分野でどちらが秀でているか、どれだけの国がどちらについていくかという「覇権争い」を繰り広げているのが昨今の米中であり、その行方や結末次第では、われわれが生活するこの地域の秩序が根底から変わってしまう可能性も否定できません。


 近い将来、日本にとって最も影響が深く成り得るのはやはり、台湾問題を巡り、米中が軍事衝突するシナリオでしょう。台湾海峡やその周辺が「火の海」と化せば、日本の経済活動や国民生活、状況次第では、人々の生命や財産にまで影響が波及する可能性も否定できません。


 だからこそ、米中両国が互いを競争相手と位置付けつつも、どのような関係を構築しようとしているのか、安定しているのか、悪化しているのかといった動向を注意深く観察することは、かねては日本の、日本人の安心と安全を守ることにもつながる。私は切にそう考えていますし、昨今の激動の情勢を眺めながら、そういう思いを強くしています。


8月12日に停止期限、米中関税交渉の行方は?

 米中関係がどれだけ重要かという話をしてきました。


 トランプ第2次政権が今年1月20日に発足して以来、本連載でも適宜検証してきましたが、「トランプ関税」の発動を引き金に、両国は「貿易戦争2.0」を繰り広げ、一時は追加関税率を相互に3桁の天文学的な数字にまで引き上げました。


 その後、5月のジュネーブでの協議を経て、90日を期限とする「停戦」で合意。現状、米国の対中追加関税率は30%(うち20%はフェンタニル流入問題に対する懲罰的関税)、中国の対米追加関税率は10%となっています。8月12日がその期限となります。その時点で考え得るシナリオとしては三つです。


  • 合意ならず、追加関税率で米国の対中が145%、中国の対米が125%に戻る
  • 合意に至り、追加関税率が比較的低い水準に収まるなどの調整がなされる
  • 休戦期間を延期。例えば3カ月
  •  米国側で対中関税交渉を統括するベッセント財務長官は、中国との追加関税措置の一時停止期間に関して一定の柔軟性を有する発言をしています。また、7月22日のFox Newsのインタビューでは、7月28~29日、ジュネーブとロンドンに続き、スウェーデンのストックホルムで中国側のカウンターパートと関税協議を行い、「(8月12日に失効する合意の)延長の可能性について検討することになるだろう」と述べています。


     実際、ベッセント財務長官が同インタビューの中で、「中国との通商関係は非常に良好な状態にある」と指摘しているように、ここに来て、トランプ大統領・政権の対中スタンスは緩和しているようにも見受けられます。


     6月にロンドンで開かれた協議を受けて、米中は輸出規制の緩和に取り組むことで一致、その後、米国側は低性能半導体の中国への販売に関する制限を緩和、中国側もレアアース磁石を巡る規制を緩和し、出荷量を引き上げています。


     米中間で関税や輸出規制を巡る協議が続く中、ここに来て、注目が集まっているのが、トランプ大統領と習近平国家主席の初となる対面での会談です。


    米中会談はいつ、どこで?

     そもそも、トランプ大統領は大統領就任前から、「就任100日以内の訪中」に意欲を示していました。それは実現しませんでしたが、私自身は、米中が関税問題などでどれだけもめても、トランプ、習近平両首脳が、相手の悪口を言わないという点を徹底し、首脳レベルでは良好で、友好とも解釈できる関係を築くべく、極めて慎重に距離感を図ってきている経緯を重視すべきだと考えています。


     ロンドンで開催された2回目の関税協議の直前、6月5日に行われた米中首脳による電話会談において、習近平氏はトランプ氏の(1期目以来の)中国再訪を歓迎すると言い、トランプ氏も謝意を示しています。


     また、7月11日、マレーシアのクアラルンプールでマルコ・ルビオ国務長官と王毅(ワン・イー)外相との会談が初めて行われましたが、会談後、ルビオ氏は記者団に対して、「トランプ大統領は中国に招待されていて、訪問を希望している。適切な日程を調整していく。実現することを確信している」と語っています。カウンターパートである王毅氏との会談後の発言ですから、同氏との会談の中で、実現に向けた可能性と道筋において従来以上の確信を得るに至ったと理解すべきでしょう。


     それでは、習近平氏とトランプ氏は、いつ、そしてどこで会うのでしょうか?


     私が現時点で考えるポイントとシナリオを3点書き留めておきたいと思います。


     一つ目が、中国側は対米交渉を有利に進めるために、習近平氏が米国に赴くのではなく、トランプ氏を中国に来させることにこだわるであろうという点です。

    今年下半期、どこかのタイミングで首都・北京を訪問してもらうべく、交渉を進めていくでしょう。


     二つ目が、9月に米ニューヨークで開催予定の国連設立80周年記念式典に、習近平氏が出席し、一連のアジェンダの中でトランプ氏と会談するシナリオです。この場合、結果的に米国に赴くという形を取ることになりますが、中国外交の中でも国連外交は最重要項目の一つであり、共産党指導部としても蔑ろにはしないはずです。


     三つ目が、10月末に韓国で開催予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)という第3国における国際会議に、習近平、トランプ両氏が出席し、米中首脳会談を組むというシナリオです。また、可能性としてはAPECより下がると思いますが、11月に南アフリカで行われるG20首脳会議も、米中首脳の対面での会談を模索する一つの舞台にはなると思います。


     本稿で述べてきたように、米中二大国がどのような関係を築くかという点は、世界秩序そのものを左右する一大事であり、中でも、トランプ、習近平という両首脳が互いをどう認識し、個人的関係を築いていくかという「首脳外交」が極めて重要です。その意味で、2025年も下半期に突入する中、米中首脳会談がいつ、どこで、どのように開催するかに注目していくべきだと考えます。


    (加藤 嘉一)

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