7月23日、石破首相が退陣する意向を固めたと報道されました。首相は否定したものの、参院選大敗で与党内の退陣圧力は強まる一方です。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【緊急解説】首相退陣観測、金利急騰、財政リスク上昇で市場はどうなる? 」
(バナー写真:Tomohiro Ohsumi/Getty Images))
首相退陣は本当にある? あるとすればいつ?
トウシル編集部:石破首相の退陣報道があった7月23日、長期金利が17年ぶりに1.6%に達しました。石破首相の退陣を金融市場はどう捉えたのでしょうか?
愛宕さん:先の参院選で野党はこぞって減税を主張していましたので、石破首相退陣で野党との連携を余儀なくされ、財政拡張が一層進むと市場は捉えたのではないでしょうか。
トウシル編集部:石破首相は退陣報道を否定しました。とはいえ、与党内の退陣圧力は高まっているようです。石破政権は本当に退陣しないのでしょうか?
愛宕さん:日米関税交渉もまだ米側にひっくり返されるリスクもありますし、進退についてはそうした国際政治の観点や市場への影響も踏まえて冷静に考えるべきで、私はしばらく続けられるという石破総理の判断は適切だと思います。
ただ、ずっと続投というわけにはいかないでしょう。今後の政治日程を見ると、8月には6日に広島、9日には長崎での原爆の日の式典、15日には全国戦没者追悼式、20~22日にかけては「アフリカ開発会議(TICAD 9)」があります。
秋には臨時国会を開催して補正予算を編成しなくてはいけません。
解散・総選挙の可能性は?
トウシル編集部:解散・総選挙が行われる可能性はあるのでしょうか?
愛宕さん:個人的には解散・総選挙にはならないのではと考えています。
今すぐ解散して総選挙を行うと、自民党の議席数はさらに減るでしょう。一方の野党も、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会は今回の参院選で参政党に票を奪われたわけで、内閣不信任案を提出して解散・総選挙に打って出れば、自分たちの議席数まで減らす可能性があります。したがって、不信任案提出ということにはならないのではないかとみています。
長期金利の上昇は避けられない?
トウシル編集部:とはいえ、退陣が不可避とすれば、やはり長期金利は上昇していく可能性が高いのでしょうか。
愛宕さん:そもそも長期金利は、金融政策に加えて、景気やインフレ予想によって変動します。そうしたファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が健全なときの金利上昇を「良い金利上昇」と呼び、そうではなくて財政リスクが意識されて金利が上昇することを「悪い金利上昇」と呼んだりします。
良い金利上昇ではファンダメンタルズが良好なので、株価指数も上昇しますが、悪い金利上昇のときには、株価はネガティブに反応しがちです。そして、債券、株式、為替の3つがすべて売られて下がる「トリプル安」が発生するリスクにつながります。
7月23日の10年物の金利は「1.6%」になりましたが、2007年2月の利上げで政策金利が現在と同じ0.5%になった後、2008年9月の金融危機が起きるまでの金利水準とほぼ同じです。当時の景気は現在とほぼ同じくらいの強さでしたが、インフレ率は当時よりも現在の方がかなり高いので、インフレを長期金利がまだ完全には織り込めていないと見ることもでき、今後さらに上昇する余地があるでしょう。
厳しくなる「海外からの目線」
トウシル編集部:良い金利上昇が続くということですか?
愛宕さん:そうとも言えません。20年物や30年物など超長期の金利はすでに財政リスクを織り込みつつあります。
先の参議院選挙では、与党は2万円の給付金、野党はそろって減税を主張しました。
もっと言うと、打ち出される政策が過度に拡張路線に傾いた場合、市場が財政リスクを強く意識する結果、2022年9月にイギリスで発生した「トラスショック」のようなことが起きないとも限りません。
当時の英トラス政権は、財源を示さずに大型減税政策の「ミニ・バジェット」を発表しました。それが市場でのサプライズとなり、長期金利が急上昇(国債価格が急落)しました。また、英ポンドや金融株などの株式も大きく値下がりしました。
日本は、対外純資産が豊富で、国債の投資家は国内勢が中心のため、トラスショックのようなことは起きないという見方が多いかもしれません。
たしかに、どこまでも長期金利が上昇していくというようなことにはならないと思いますが、少なくとも一時的に国債の需給バランスが崩れることで、トラスショックのような金利上昇が起きる可能性は十分考えられます。
「政治不安定化」で格下げリスク
トウシル編集部:政局不安でほかに気にされているリスクはありますか。
愛宕さん:国債の格付け、格付け機関のアクションです。
海外の事例では、政局が不安定化したり、政権が交代したりするタイミングで、国債の格下げが行われたケースが多くみられます。例えば、政局が不安定化したフランスでは、2024年に国債が格下げされましし、アメリカ国債も第二次トランプ政権がスタートした今年の5月に格下げされています。
ただでさえ、日本の財政状況には海外の投資家から厳しい目線が向けられており、それが超長期金利の上昇要因となっているわけですが、格付け機関からも「日本は大丈夫か?」と見られている可能性があります。
政治の不安定化と行き過ぎた財政拡張政策が重なれば、格付け機関が何らかのアクションを起こすのではないかと心配しています。
(愛宕 伸康)