米国と中国がスウェーデンのストックホルムで3回目となる関税協議を行いました。8月12日に迫る追加関税の停止期限の延長が焦点となり、合意の方向で話がまとまりました。

一方、両国の交渉への向き合い方には「温度差」があるように見受けられます。そして、注目される首脳会談は開催されるのでしょうか。米中関係の行方を考察します。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米中3回目の関税協議が終了、トランプ氏と中国の「温度差」に注目 」


米中が3回目の関税協議を開催

 米国と中国がスウェーデンのストックホルムで3回目となる関税協議を開催しました。5月のジュネーブ、6月のロンドンに引き続き、またしても第三国、しかも欧州の地で二大国の要人が対面で会う機会を持ったという事実は非常に興味深い点です。


 中国側からは何立峰(ホー・リーフォン)副首相兼対米通商交渉統括者、李成鋼(リー・チョンガン)商務部通商交渉代表兼副部長が、米国側からはベッセント財務長官、グリア米通商代表部(USTR)代表が参加しました。


 本連載でも検証してきたように、第2次トランプ政権が今年1月20日に発足し、大方の予想通り、「トランプ関税」が発動されたのをきっかけに、米中は「貿易戦争2.0」とも解釈できる追加関税の応酬戦に突き進み、一時は追加関税率が3桁までに引き上げられました。それが、ジュネーブ協議で90日間という期限付きで追加関税を115%引き下げることで合意、ロンドンではその合意を着実に履行していくための枠組み構築で合意、加えてレアアースや半導体といった輸出管理に関する突っ込んだ議論が行われました。


 ジュネーブ合意の期限は8月12日ですから、今回のストックホルム協議は、8月12日以降、あるいはそれを前倒しして、今後米中間の通商関係がどうなっていくのかを判断する上での分水嶺(ぶんすいれい)としても意味がありました。関係がさらに緩和するのか、再び激化するのか、あるいは現状維持か。


米中貿易戦争は停戦で合意?気になる「微妙な温度差」

 ここからは、ストックホルムで何が語られたのかを、見ていきましょう。


 まず、協議の全体感や雰囲気に関して、米国側のベッセント財務長官は、「ジュネーブとロンドンでは特定の問題のみについて議論したが、今回は経済全体の枠組みについて幅広く議論した。会議は、非常に広範囲で充実し満足のいくもの」だったとコメントしています。


 中国側の国営新華社通信は「双方は中米経済貿易関係、マクロ経済政策など双方が共通して関心を持つ経済貿易アジェンダを巡り、率直で、深みのある、建設的な交流を行った。と同時に、中米がジュネーブ協議で得た合意とロンドンで構築した枠組みの実践状況を振り返り、評価した」と発表しています。これは中国政府の公式見解です。


 最大の焦点であり、停止期限が迫っている追加関税に関しては、米国が中国に課していた24%分、およびそれに対する中国による報復措置の分を延長することで合意した、と中国側が発表した一方で、米国側はトランプ大統領がベッセント氏らによる詳細な報告を聞いてから、大統領自身が延長を認めるかどうかを判断するとして明言を保留しました。


 トランプ氏が承認すれば、90日間の延長になる可能性が高いと思われます。


 日本との一連の関税協議にも如実に表れていましたが、トランプ大統領の「使えるパーツやピースは全て使って交渉相手を揺さぶり、自国の利益を最大化するための取引材料にする」という交渉術が今回の対中関税交渉でも体現されています。ベッセント氏や対日協議で力を発揮したラトニック氏が、トランプ大統領の顔色を終始うかがいながら、いかにして大統領を納得させるかというテーマに悪戦苦闘しているように見受けられます。


 政治体制は違えど、米中共に、習近平一強、トランプ一強の体制ということでしょう。この「ダブル一強体制」の下で、米中がどういう協議を重ね、関係を構築していくかという点が一つの焦点になるなと、昨今の両国のやり取りを俯瞰(ふかん)しながら考える次第です。


 ベッセント氏は、「中国の過剰生産能力、イラン石油輸入、ロシアへの軍民両用技術輸出への懸念を伝えた」「米国はデカップリング(分断)を望まず、重要鉱物や半導体、医薬品などの戦略分野におけるデリスキング(リスクの低減)を望んでいるだけだ」「(輸出管理に関して)米国は国家安全保障問題について非常に慎重で、見返りのない取引などしない」とも指摘しています。


 追加関税率をどうするかというだけでなく、トランプ政権として中国側の政策や措置に対し懸念を有している点を伝えたということです。これらの点に関しては、中国側のプレスリリースには一切書かれていません。ネガティブな記述がほぼ皆無であり、相互に尊重し、誤解を減らし、協力を強めていくという立場を全面的に打ち出しています。


 米中双方共に、ストックホルム協議に対して好感触を得た点では共通しているものの、中国に対して言うべきことは言った、懸念点を伝えたことを明言した米国側と、あくまでもポジティブな面だけを前面に打ち出し、あたかも米中協議は全て前向きに進んでいるかのような姿勢を示す中国側。この違いは両国の政治体制や政府行為の差異に起因しているともいえ、拡大解釈すべきではないでしょうが、この両国の交渉に向き合う上での微妙な温度差が、今後の米中関係にどのような影響を与えるのか、注視していきたいと思います。


中国側を揺さぶるトランプ大統領、首脳会談の行方は?

 ストックホルムでの協議を受け、トランプ大統領は7月29日、訪問先のスコットランドからワシントンに戻る機内で記者団の取材に応じ、中国との協議について「ベッセント財務長官からの電話を受けたところで、『中国と良い協議ができた』と聞いた。あす報告を受けて承認するかどうか決めるが、前日よりもよい話し合いになったということだ」と述べています。


 先週のレポートでも取り上げた、習近平国家主席との首脳会談、およびその時期については、「私も会談を楽しみにしているが、年内には、というところだろう」と、若干濁した表現でコメントしていました。


 興味深いのは、トランプ氏が同日、自らのSNS上で、次のように投稿していることです。


「フェイクニュースは、私が中国の習近平国家主席との首脳会談を求めていると報じている。事実ではない。私は何も求めていない!訪中の可能性はあるが、習近平国家主席からの招待があった場合に限られる」


 習近平氏との首脳会談に関して、記者団に対して語ったものと、自らのSNSに投稿した内容やトーンを比べ、分析してみると、以下の3点が示唆として読み取れると思います。


  • トランプ大統領には習近平国家主席と会談する意思、加えて中国を訪問する意思がある
  • 訪中した上での首脳会談を実現するための両国間の交渉が、一筋縄には進んでおらず、トランプ氏自身もそこに対して一定のフラストレーションを感じている
  • トランプ氏は訪中するにせよ、習氏との会談に臨むにせよ、その体裁を重視している様子。メンツそのものというよりは、自分よりも相手のほうが会談を求めている点を強調することで、交渉を優位に進め、自国の利益の最大化、および自身のレガシーにつなげたい

 私が見る限り、習近平氏もトランプ氏同様、米中首脳会談を望んでいると思います。一方、こちらもトランプ氏同様、体裁を気にしており、だからこそ、トランプ氏に自らの土俵に来てもらい、ホームグラウンドでやりたいという思いが強いのでしょう。


 習近平とトランプ。米国と中国。「似た者同士」だからこそ、分かりあえる点もあれば、折り合いがつかない場面も生じてくるのだと、昨今の情勢を観察しながら感じています。


(加藤 嘉一)

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