7月に掲載したこのレポートはアノマリー的に「史上最高値を若干更新する可能性」を指摘、「12~13万ドル程度は視野に入るが20万ドルへの挑戦は秋以降」とほぼ予想が的中。一方、8月はアノマリー的に鬼門の月だ。

8月のビットコイン相場はどうなる?楽天ウォレット・シニアアナリスト:松田康生、通称MATT(マット)が、今後の方向性を分析する。


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7月のビットコインの振り返り:史上最高値更新

ビットコイン、12.3万ドルで史上最高値更新!鬼門の8月は「助走期間」?
出典:TradingViewより楽天ウォレット作成

12.3万ドル、史上最高値を更新、アルトコインにも注目集まる

 7月のビットコイン相場は上昇。5月に記録した史上最高値11.2万ドルを更新、12.3万ドルまで上値を伸ばした。


 月初は、減税法案を巡るイーロン・マスク氏とトランプ大統領の対立が嫌気され、10.5万ドル台まで下落した。しかし、マスク氏がガザでの60日間停戦の仲介を評価したことで、両者の関係に雪解けムードが広がり相場は反発。


 さらに、7月9日の相互関税延長期限において、各国に送られた関税通知が実質的に8月1日への期限延長となり、同日に適用が見送られたことが好感され、ビットコイン(BTC)は5月の史上最高値11.2万ドルを突破。S&P500種指数(S&P500)も連日史上最高値を更新する中、BTCは12.3万ドルまで上昇した。


 その後、割高感からBTCの上昇が一服すると、出遅れていたアルトコインに物色買いが入る「アルトシーズン」に突入。BTCは11.8万ドル近辺でもみ合い推移を続けた。


トランプ関税交渉が新展開へ、米景気が活気づいた7月

 このようにBTCは史上最高値を更新したが、その主な理由は何だろうか? 反転のきっかけとなったのはトランプ大統領とマスク氏との雪解けだが、結局、減税法案が成立してマスク氏は新党設立を宣言し、袂を分かつこととなった。その雪解けのきっかけとなったガザ停戦交渉も、早々に決裂に至っている。


 材料的に大きかったのは、7月9日に何も起こらなかったことだろう。トランプ政権は4月2日を「解放の日」と名付け、相互関税を発表し、市場を混乱に陥れた。これを受けて4月9日には、一律税率10%を残して、上積み分の適用を90日延期した。

各国は7月9日の延期期日に向け交渉を進めたが、英国など一部を除き合意に至らなかった。


 そこでトランプ大統領は、各国に適用税率を通告すると言い始めた。本来、各国には関税自主権があり、他国に干渉する権利はないからだ。


 実際、日本の25%を皮切りに各国に通知が続いたが、その適用は8月1日となっていた。すなわち実質的な期限延期だった。これを好感し、S&P500やナスダック総合指数(ナスダック)は史上最高値を更新。BTCもそれまでの史上最高値を更新した。


 さらに、22日に日米通商交渉が、自動車含め税率15%、5,500億ドルの対米投資で合意に至った。当初はさまざまな意見があったが、これがスタンダードとなり、欧州連合(EU)や韓国も15%プラス対米投資で合意、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどは19~20%関税で合意した。


 要は、4月9日の90日延期時に一律10%となった関税が、8月1日から最恵国が15%、それ以外は20%前後、まだ合意に至っていない国はそれ以上、といった形に落ち着きそうになった。つまり、市場の不透明感が後退した形だ。これを受けてS&P500は連日史上最高値を更新している。


米株好景気に乗り切れないBTC、理由の一つは「アルトシーズン」

 ところがBTCは、7月後半の米株の上昇についていけていない。その主な理由は二つ考えられる。


 一つはアルトシーズンだ。アルトシーズンとは、BTCが大きく上昇した後によく見られる現象で、割高感が出たBTCの上昇が一服し、出遅れたアルトコインに物色買いが起こることだ。


 今回はイーサリアム(ETH)とリップル(XRP)が口火を切った。こうした動きは暗号資産の時価総額に占めるBTCの割合、いわゆるドミナンスの低下によく表れており、昨年11月の急騰後にも観察された。


BTCの時価総額に占める占有率(ドミナンス)
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TradingViewより楽天ウォレット作成

 米下院は7月14~18日をCrypto Week(クリプト・ウイーク:仮想通貨に関連する三つの法案の投票を集中的に議論する1週間のイベント)と位置づけ、暗号資産関連法案を集中的に審議した。


 具体的には、暗号資産の規制を明確化するCLARITY法案(クラリティ法案:デジタル資産市場透明性法案)、ステーブルコインの規制を明確化するGENIUS法案(ジーニアス法案:ステーブルコインの規制枠組みを明確化)、反CBDC監視国家法(中央銀行デジタル通貨:CBDCの発行を禁止し、利用者のプライバシーを保護)の三つを中心に審議し、紆余(うよ)曲折あったが最終的に大差で可決した。


 すでに上院を通過していたGENIUS法案は大統領の署名を経て成立した。


 ちなみに、ステーブルコイン(法定通貨と連動するように設計された暗号資産)の多くは、自前のブロックチェーンを持たず、ETHなどスマートコントラクト系(トークンを発行するプログラムを書き込めるブロックチェーン)のチェーン上のトークンとして発行される。


 その結果、GENIUS法案の恩恵を受けるとされたETHが大きく上昇した。


 また、CLARITY法案は、それまで規制の曖昧さをついた民主党下の証券取引委員会(SEC)のスラップ訴訟(勝訴の見込みがないにもかかわらず嫌がらせ的に行う訴訟)に悩まされていたXRPやカルダノ(ADA)の価格を大きく押し上げた。


 さらに、XRPレジャー上でRipple USD(RLUSD:リップルユーエスディー)というステーブルコイン発行を始めたこともあり、リップルは史上最高値を更新した。


BTC/USDとアルトコイン(ETH、XRP、ADA、DOGE、SOL、BNB、TRX)
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TradingViewより楽天ウォレット作成

 こうしたサイクルに入ると、さらに出遅れたアルトコインへの物色買いが循環し始めた。時価総額トップ10銘柄で言えば、少し遅れてドージコイン(DOGE)、続いてソラナ(SOL)と続き、バイナンスコイン(BNB)、最後にトロン(TRX)が追随し、アルトの上昇は一服した。


BTC・ETH ETFフロー
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Farside Investorsより楽天ウォレット作成

 こうした動きの背景には機関投資家の動きがある。特にETHは、それまで低迷していた上場投資信託(ETF)フローが急増し、昨年ローンチ以来、最高水準の資金流入が続いた。


 また、Bitcoin Treasury Company(ビットコイントレジャリー企業:ビットコインを戦略的資産としてバランスシートに保有している上場企業)と呼ばれるようになった外部資金を調達してBTCを購入する動きが、アルトコインにも拡大。


 ETHでは、共同創業者でメタマスク(web3ウォレット最大手)で有名なコンセンシス(世界最大のブロックチェーン特化型テクノロジー企業)を率いるジョセフ・ルビン氏を迎えたシャープリンク・ゲーミングが約45万ETH(約2,500億円)と、著名アナリストのトム・リー氏を迎えたビットマイン・イマージョン・テクノロジーズが約56万ETH(約3,100億円)をそれぞれ保有し、ETH投資企業ナンバー1の地位を争っている。


 また、商業用不動産融資プラットフォームを運営していたジャノーバーは、SOLに300億円強の投資を開始するとともに、DeFi Development Corp(ディファイデブコープ)に社名を変更した。


 BNBやTRXは、運営が会社を買収し、Build & Build(バイナンスコインの正式名称)やTRONに社名をコイン名に変更し、それぞれのコインに約230億円、約180億円投資している。


 後者は、元はSRMエンターテインメントという、ディズニーランドやユニバーサルスタジオのキャラクターグッズを制作している会社だった。TRON社製のミッキーのぬいぐるみが登場する日も近いかもしれない。


米株好景気に乗り切れないもう一つの理由は「個人の売り」

 需給にもBTCが上昇した理由がある。7月4日、2011年4月から14年間動かなかった8万BTC(約90億ドル)がウォレットから移動して話題となった。その後、紆余曲折を経て、25日に委託を受けたと思われるギャラクシー・デジタル:元ゴールドマンサックスのマイケル・ノボグラッツが率いる暗号資産金融サービス企業)が市場での売却完了を発表した。


 取得当時の価格は推定で1ドル=80円で、8,000万円が1.3兆円に化けた格好だ。一方で、ストラテジー社は優先株を発行し、7月28日に約25億ドルの購入を実施。7月11日からの2週間でETFは約50億ドルを購入した。


 これは、かつて購入した個人が売却し、新規参入する法人が購入する最近の構図を象徴する出来事だ。もともと、個人中心だったBTC市場に企業が参入し、BTC市場は上昇してきた。特に昨年の米ETFの登場と2025年のトランプ政権の誕生は、その動きを加速させた。


 その結果、新値を付けては個人の売りと企業の買いが交錯し、しばらく相場は停滞するが、個人の売りが尽きて新たな水準での売りを探して急騰し、ある程度上昇すると再び拮抗(きっこう)する、階段状の相場を繰り返してきた。


 これは言い換えると、供給量が限られたBTC市場で、新規参入する法人が7万ドル、8万ドル、11万ドル、12万ドルとビッドを引き上げて個人から購入を進めている構図だ。今回、11万ドル台の史上最高値を抜けると、しばらく真空地帯を上昇し、12.3万ドルで新たな売りゾーンに遭遇した格好だ。


 上昇が一服すると、これまで様子見をしていた個人投資家がそろそろと売りを始め、抜けるのにしばらく時間がかかるケースが多い。今回も、これで上昇トレンドが終わったとは思わないが、ここを抜けるにはもう少し時間と材料が必要なのかもしれない。


8月の見通し:この1カ月は上値が重い「助走期間」

テクニカル面からの見通し分析

BTC/USD(日足)
ビットコイン、12.3万ドルで史上最高値更新!鬼門の8月は「助走期間」?
TradingViewより楽天ウォレット作成

 BTCは12.3万ドルまで上昇後、下降チャネルを形成した。これは上昇フラッグといって、レンジの上抜けを示唆する形だ。

一般には珍しい形だが、BTC市場では定番と言って良いほどよく目にする。


 おそらくは前述の通り、新値を更新しては利食い売りをこなし、売り玉が尽きると再び新値を更新する、階段状の相場展開を続けているせいかもしれない。いずれ上抜けすると考えるが、8月はまだ早いかもしれない。


アノマリーからの分析

BTC月別騰落率
ビットコイン、12.3万ドルで史上最高値更新!鬼門の8月は「助走期間」?
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 7月と一転して、8月は最弱の月。供給量が一定のBTCは、夏休みで投資家の買いが細る8月が苦手だ。昨年もおととしも8月に急落を見せている。また、2017年12月や2021年11月のピーク時にも、前月に1~2割の調整を見せていることから、多少の調整は覚悟しておいた方が良さそうだ。


最後の1ピース

 米ドルの代替投資という側面が色濃いBTC市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の影響を受けやすい。1月にFRBが利上げを見送って以降、しばらくBTCは史上最高値から失速した。


 しかし、トランプ関税を巡る不透明感を理由に再利下げを渋るパウエル議長に対し、トランプ政権が圧力をかけ始めると、5月に史上最高値を更新。この際は解任は法的に難しいとの見方も、いったんは下火となったが、7月に入るとFRB本部建て替え費用を糸口に辞任を迫る動きが活発化し、BTCは史上最高値を更新した。


 大統領周辺を中心に、7月は無理としても9月利下げに対する何らかの示唆があるのではないかとの期待感もみられたが、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で議長は「9月についての決定はない」とほぼゼロ回答に徹し、BTC価格はやや失速している。


半減期をD+0としたBTC相場推移(スケール調整済)
ビットコイン、12.3万ドルで史上最高値更新!鬼門の8月は「助走期間」?
ピークを合わせるため、2016年は2020年の1/4.3 2012年は2020年の1/13.5スケールダウン(2024年は1/0.44にスケールアップ、実数では2012年は半減期から90倍になっている)出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 BTCは4年サイクルの上昇局面の最終段階に差し掛かっていると考えるが、FRBの利下げがピークアウト前の最後のひと伸びのきっかけになると考えており、そういう意味ではまだ最後のピースが足りない印象だ。


8月見通し

 8月のBTC相場は上値の重い展開を予想する。足元の上昇は個人の売りVS企業の買いの構図だが、その企業活動が停滞する夏休みシーズンはどうしても買い手不在となりがちだ。

2024年の与党全敗を受けて2025年は世界中で減税ポピュリズムが吹き荒れており、BTCに対するヘッジニーズは高まりそうだ。加えて、Bitcoin Treasury Company的な動きも今後さらに強まりそうだ。


 通商問題はいったん乗り越えた格好だが、利下げなど最後の1ピースが足りない印象だ。8月はBTC市場が過熱から熱狂に移行する前の助走のような期間になると考えている。見方を変えると、ここで終わったと思い恐怖がたまったところで、9月以降に急反発する、そうした展開なのかもしれない。


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今月のMATTメモ

 


 

 


 今年の夏は暑いですね。
 寒さに強く暑さに弱い私にとって、この暑さは本当に厳しいです。バンコクで働いていた時代には、ゴルフが始まる前から汗だくで、よくキャディさんに「アップナームマイ(シャワー浴びてきたの)」と軽口を叩かれていました。


 最近は国内でも40度超えの記録的暑さが報じられています。4月のタイの旧正月、お水をかけあいお祝いをするソンクラン時期のバンコクでは40度を超えることは珍しくありません。ただ、体感では東京の方が暑く感じます。日本の町の造りは寒さをいかに凌ぐかに主眼が当てられ、暑さ対策の優先順位が低いせいだと思います。地下鉄の駅でも異様に暑い場所もありますよね。


 日本では暑さは我慢できるという思想なのかもしれません。これに対し、常夏のタイではいかに暑さから身を守るかが優先されます。マンションでは北向きの部屋が高く、天気が良いとは曇りのことです。部屋を涼しくすることがおもてなしで、ビジネスマンは原則として上着を着ることがたしなみであり礼儀となっています。私の場合はあまりの汗にお客さんに上着を脱ぐよう頼まれますが(笑)。


 実はビットコインのマイニングも暑さとの闘いです。マイニングは電力を消費しますが、そのうち約1割がマシンの冷却費用です。そのためシベリアなどの寒冷地でマイニングする場合もありますし、逆に砂漠で太陽光発電し、ガンガン冷房をかけたりもするようです。マシンを液体につける技術も実用されているようです。


 私もマイニングマシンと同じで熱に弱いのだと主張したら、道理で消費電力が多いと言われてしまいそうです(笑)。


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 そこで、本書では金融のプロの視点から、ビットコインと暗号資産を分かりやすく解説しました。例えるなら、競馬中継で馬の専門家とファンの間をつなぐ評論家の役割です。元騎手や調教師の解説は専門的で感覚的すぎて、一般の方には理解しにくいことがあります。暗号資産でも、技術の複雑さを解きほぐし、投資家目線で「なぜ今、暗号資産なのか」をお伝えします。


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(松田 康生)

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