半導体業界は三国志や戦国時代をほうふつとさせる下克上の世界です。知名度の低い企業がいつの間にか時代の花形になることもあれば、有名企業が衰退することも珍しくありません。
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2025年8月27日: 【知識ゼロから学ぶ】なぜエヌビディアはAI時代の覇者になれたのか
(執筆:平岡 乾)
(1)半導体製造のジャイアント「TSMC」
自社ブランドを一切持たずに、他社が設計した半導体の製造を請け負う「ファウンドリ」というビジネス形態を突き詰めたのが 台湾積体電路製造 (TSMC)です。この領域での世界シェア(金額ベース)は7割。2位のサムスンのシェアが約7%なので、2位に対して、競馬なら10馬身差、野球なら10ゲーム、ツール・ド・フランスなら10分以上の大差をつけた圧倒的首位です。
2025年4-6月期決算では、売上高は対前年同期比4割近く伸びて約300億ドル(約4.4兆円)、営業利益率は異次元の50%弱に達しました。ファウンドリというビジネス形態が「下請け」と呼ばれたのはもはや昔の話。一つの領域を極めることで業界の雄になれることを示した点で、エヌビディアと通底するものがあります。
TSMCのテクノロジー別売上高
同社が飛躍したきっかけの一つは2008年の金融危機、リーマン・ショックです。TSMCの業績が低迷して苦しいとき、直前に引退していた創業者のモリス・チャンが経営トップに復帰。そして当時のCEOを解任し、リストラした社員を呼び戻し、2009年のまだ不況の余韻が残る時期に研究開発や設備投資の強化に踏み切ります。
この大胆な攻めの経営に加え、アップルからiPhoneのCPUの受注も後押しし、2010年代に業界では押しも押される地位を確立。サラリーマン社長では決して成し得ない、創業者の胆力があってこそです。
2018年ごろにはインテルの技術開発の遅延もあって半導体製造技術で同社を逆転。2020年代に入るとサムスンも置き去りにして独走態勢に入りました。今では最新スマートフォンの半導体(CPUなど)や、AI開発に使われるエヌビディアのハイエンドGPUは、ほぼ全てTSMCが受託製造しています。言い換えると最先端のCPUやGPUはTSMCに委託しないと製造できません。
台湾・新竹にあるTSMC本社
「21世紀の原油」とも言われる最先端の半導体が、台湾にあるTSMCの工場で集中生産される限り、かつての産油国のように、米国や日本などは台湾に関心を持ち続けるでしょう。中国との政治的緊張が続く台湾にとってTSMCは頼もしい存在です。
(2)王者サムスンから主役の座を奪った「SKハイニックス」
直近で起こった半導体業界で最大の下克上は、「DRAM」と呼ばれるメモリ分野における韓国のSKハイニックスの大躍進でしょう。つい数年前まで、同社はメモリで世界シェア2位とはいえ占有率は20%強、上にはサムスンという圧倒的な存在がシェア40~50%を握っていました。
スポーツに例えると、2025年に2位のパドレスに9ゲーム差を付けて首位を独走していた大谷翔平の所属するロサンゼルス・ドジャースが、夏場に急失速して首位の座を奪われるようなものです。
サムスンとSKハイニックスにも10ゲームほどの差がありました。ちなみに、メモリはスマートフォンやパソコンに必ず入っている、主要パーツの一つです。CPUやGPUなどの計算処理を担うプロセッサの計算処理を一時記憶する役割を担います。
そんなメモリも、かつては「先端品が(100円の)おにぎりの値段よりも安く売られている」と嘆かれていた時代もありました。
しかし、近年、再び注目を集めるようになっています。そのドライバーはもちろんAIの学習や推論に使われるGPUは、膨大な量の計算を同時並列処理します。その結果、以下のようなトレンドが生まれました。
SKハイニックスのメモリを搭載したNVIDIAの生成AI向けプロセッサ「NVIDIA GH200 Grace HopperTM Superchip」
1.の課題に対して、「HBM(高帯域メモリ)」と呼ばれるメモリが、AIの学習で必須となりました。このHBMの開発にずっと賭けてきたのがSKハイニックスです。その執念が実り、HBM市場で5~7割を占め、特にHBMの中でも最先端領域では独占状態にあります。
また、2.のトレンドから、このHBMの容量は市販のパソコンのメモリと比べ、およそ10倍となる数百ギガバイトが搭載されるようになりました。コンピュータ1台に使われるメモリ容量が激増していることもあり、HBM市場は年率3~4割というペースで成長すると推測されています。
こうして空前のビッグチャンスを手にしたSKハイニックスは2025年4~6月にメモリの市場シェアで、四半世紀以上のトップに位置していたサムスンを大逆転しました。
カリフォルニア州サンノゼにあるSKハイニックスの米国本社
前回のエヌビディアと先述のTSMCを含め、エヌビディア・TSMC・SKハイニックスの3社はそれぞれが補完関係にあり、AI時代の勝者連合といえるでしょう。かつてPC時代が幕を開けた1990年代後半から2000年代は、マイクロソフトが提供するOS「ウィンドウズ」とCPUのインテルをかけ合わせた「ウィンテル」が勝ち組でした。
(3)エヌビディアの対抗馬「ブロードコム」
最後に紹介するのは、エヌビディアの対抗馬と期待される企業です。ここ数年、時価総額がうなぎのぼりで米国の時価総額トップ7、通称「マグニフィセント7」の一角であるテスラを超えたブロードコムです。
ブロードコムがその名を世の中にとどろかせたのは2018年。スマートフォン向けのCPUでトップ企業であるクアルコムに対して1,170億ドル(当時の為替レートで13兆円)もの巨額で買収を試みました。
しかし、このときのブロードコムはシンガポールに本社を構えており、米半導体企業のクアルコムを買収することに米政府が懸念を示したこともあり、最終的に断念。その後にブロードコムは本社を米国に移し、今では誰もが米国の会社だと認識しています。
カリフォルニア州サンノゼのブロードコム本社
そもそもブロードコムは、カメレオンのように目まぐるしく姿を変えてきました。元々、コンピュータ企業の米ヒューレット・パッカードを母体とし、当時の社名はアバゴ・テクノロジー。これまでさまざまな企業や事業の買収と売却を繰り返してきました。
そして2015年に、通信用半導体を手がける米ブロードコムを370億ドル(当時の為替レートで4.6兆円)で買収し、社名も買収した「ブロードコム」へとためらいなく改名しました。今では通信用やデータセンター向けの半導体のほか、特に2023年にサーバー仮想化サービスを手掛けるVMwareを610億ドルで買収するなど、ソフトウエアの大手としての顔も持っています。
中でも近年注目されているのは、グーグルやメタ、オープンAIなどを顧客にカスタムAI半導体の開発も手がけている点です。グラフィックやAIの学習などの用途に特化してきたエヌビディアのGPUは、マーチャントシリコン(汎用的に使える半導体)に位置付けられます。
これまでコスト競争力などに優れる汎用品の優位が続いてきましたが、ブロードコムが手掛けるカスタムAIプロセッサによって、エヌビディアの優位性を覆せるか注目です。
なお、ブロードコムのCEOのホック・タン氏は買収巧者として定評があります。これまでも有望企業の買収を繰り返して支配的な地位にあるビジネスを複数展開しています。しかも、事業売却も矢継ぎ早に行ってきました。
特定の領域やビジネスに特化してその領域で圧倒的な勝者となったエヌビディア、TSMC、SKハイニックスの3社連合とは異なるアプローチです。
(トウシル編集チーム)

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