9月8日のドル/円は、石破首相の辞任表明を受けて東京市場で1ドル=148円台まで円安が進んだ。しかしマーケットの興味が来週のFOMCの利下げに移る中で147円台前半まで下落した。


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今日のレンジ予測

[本日のドル/円]上値メドは148.50下値メドは147.00 

ドル:外国人投資家が保有する米国資産の大半は、安全保障を購入するためというよりも、むしろ金儲けを目的としている。これは、ドル安になっても安全保障のために米資産を保有し続けるという「マーアラーゴ合意」のコンセプトが現実的に否定されていることを示す。
FRB:中央銀行に対する信頼がなければ、金融政策の効果はない
ロシア:EUがロシアから天然ガス購入再開へ  
パウエルFRB議長:FRBが今年マンデートを達成することは難しい
米インフレ:アメリカ人の1/3「今年のインフレは10%超える」と危惧  
日銀:年内利上げ見送りか


前日の市況

 9月8日(月曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.12円「円高  円安」の147.51円。1日のレンジ幅は1.23円だった。


 2025年179営業日目は、先週金曜日の終値(147.39円)から円安方向に0.50円窓を開けて147.90円でオープンして、東京時間朝のうちに148円台に乗せると148.58円まで上値を伸ばした。


 石破首相が辞任を表明して、自民党の次期政権は支持率回復のために、消費税減税や給付金拡大などの財政拡張路線を前面に打ち出すと考えられる。日本の「財政弛緩」に対する警戒感が強まるなかで、日本国債の格下げリスクや日銀の利上げ時期の後ずれの可能性が高まったことが円売り要因となった。


 もっとも自民党総裁選は来月4日頃とまだ先の話であるため、前日の高値(148.52円)を大きく超えることはなかった。マーケットの関心が来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)に戻るなかで、ドル/円は明け方には先週金曜日の終値水準の147.35円まで下落した。


ドル/円147円台で上値重い。石破首相辞任でも円安は限定的
出所:MarketSpeed FXより、楽天証券作成

 雇用市場の減速が明らかになったいま、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げすることは、パウエルFRB議長がジャクソンホール会議で容認したこともあり、ほぼ確定しているようだ。現時点では利下げしないほうがサプライズである。


 マーケット参加者の興味はすでにその先、10、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げをするのかということに移っている。ただ、セントルイス米連銀総裁が「雇用市場の偏重はFRBの政策ミスを招くおそれがある」とも警告している。今週発表される8月の消費者物価指数(CPI)はトランプ関税の影響で上昇するとの予想だが、結果によってはマーケットの雰囲気が変化することも考えられる。


 いずれにしても10月FOMCの前に雇用統計は2回、CPIも2回発表がある。利下げの幅や回数もまだはっきりしないなかでしばらくモヤモヤ相場が続きそうだ。


レジスタンス:
151.31円    03/03
151.21円    03/28


149.14円    09/03


148.78円    09/04
148.58円    09/08


サポート:
147.35円    09/08


146.82円    09/05
146.79円    09/01
146.75円    08/29
146.66円    08/28


8月雇用統計レビュー

 2025年8月の米国雇用統計は、アメリカの労働市場の減速を鮮明に示す結果となった。


 米労働省(BLS)が9月5日に発表した2025年8月の雇用統計では、非農業部門(NFP)の就業者数は2.2万人増と、事前予想の+7.0万人を大幅に下回った。失業率は4.3%に上昇し、2021年以来の高水準に達した。時間当たりの平均賃金の伸びは前月比+0.3%、前年比では+3.7%と緩やかに推移している。


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FRB金融政策への影響

 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、ジャクソンホール会議の講演で、「労働市場の下振れリスクが増している」と指摘していたが、今回の統計はその懸念を裏付ける形となった。前回のデータ修正によって、5月と6月の就業者数が合わせて約26万人も少なくなったように、特にトランプ関税導入後からの労働市場の減速は顕著になっている。


 市場では、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で0.25%の利下げがほぼ確実視されている。一部では0.5%の利下げの可能性さえ議論されている。9月だけでは足りず、年内に複数回利下げが行われる可能性もある。


 とはいえ、利下げの幅や回数はまだ流動的だ。9月利下げは確定としても、その次10月のFOMCまで雇用統計はあと2回ある。

また、今後のインフレ指標次第で変動することは十分にある。インフレ率の高止まりが確認される場合、利下げペースは予想外に緩やかになることもありえる。トランプ関税の進展(後退?)も、金融市場に影響を与える。利下げを求める政治的圧力が日増しに高まるなかで、FRBの独立性と政策判断のバランスが問われることになるだろう。


市場の見通し

 FX市場では、日米金利差拡大を理由にドル安/円高に動きやすい。一方で、そのような動きは海外投資拡大のためのドル買いのチャンスとなる。


 株式市場では、短期的には利下げ期待が株価を押し上げる可能性がある。しかし金利安効果以上に景気減速懸念が強くなった場合、相場の動きが不安定になるリスクがある。また債券市場では、短期債中心に利回り低下が進み、利下げを織り込んだポジション調整が活発化すると考えられる。景気後退懸念が強まることで長期債は買いが入りやすくなり、利回り低下が進みやすいだろう。


ドル/円147円台で上値重い。石破首相辞任でも円安は限定的
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主要指標 終値

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今日の為替ウォーキング Save a Prayer

今日の一言

人は語っている内容よりも、誰が語っているかを重要視する


Save a Prayer

トランプ関税前の在庫一掃でインフレ率上昇か?

 8月12日に発表された米国の2025年7月CPIは前年比2.7%上昇で、市場予想(2.8%)を下回った。前月(6月)から前年比の伸びは横ばい。

一方、コアCPIは前年比3.1%と2ヵ月連続で伸びが拡大し、インフレの根強さを示した。月次CPIは、総合+0.2%、コア+0.3%だった。


 7月のCPIは、トランプ関税の価格転嫁が軽微におさまっていることが安心材料となった。インフレ上昇が許容半におさまっていることと、先週発表された雇用統計が悪かったことで9月米連邦公開市場委員会(FOMC)会合での利下げ確率はほぼ100%織り込まれている。


 その一方で、コアCPIの下げ渋りがインフレの持続性を示唆しているため利下げ幅や持続性についての議論は続きそうだ。


7月CPI主要指標サマリー
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 内訳で目立ったものは航空運賃が夏の繁忙期で前月比+4.0%と大きく上昇したことだ。一方でエネルギー価格は下落。なかでもガソリンは-2.2%となって、CPI押し下げ要因となった。


 最新のCPIのデータは、衣料品や家電などの価格にトランプ関税の影響が徐々に現れ始めたことを示している。ただエネルギー価格が相殺的な役割を果たし、全体のインフレ圧力をやや和らげる結果となった。


 全体として見るとトランプ関税の影響は少なく、利下げをしても問題ない、むしろ急ぐべきだとの意見も多い。ただし、現在市中に出回っている商品は、関税が発動される前に米国に到着していたものだ。

これらの在庫がなくなる9月以降から、いよいよ本格的なインフレが始まる可能性がある。


「利下げ」か「据え置き」かで、FOMCメンバー間の見解が分かれている背景には、政治的雑音はともかくとして、「フォワード・ルッキング」と「データ依存型」のアプローチの違いが大きな理由と考えられる。


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(荒地 潤)

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